大学・企業現場リポート ディジタル最前線

Vol.22 クリエイティブ集団[WOW]がつくりだしてきた世界

鹿野氏/工藤氏
今年で10年を迎えた映像デザインスタジオ、W0W (ワウ)。
10年前に仙台で4人から始まったワウは6年前には東京にも事務所を構え、いまでは30名以上のスタッフを抱えている。
いま、注目されているその企画力の高さと映像美、良いものを創り出していく社風…
ワウの探求してきたモノ創りとこれからについて、アートディレクターの鹿野護氏とデザイナーの工藤薫氏に伺った。



自らモノをつくるという発想

仕事でよいものをつくるのはもちろんだが、それに留まらず、自らが企画してモノをつくることがワウでは期待されている。仕事以外にモノをつくる時間、自主制作の時間が認められているわけだ。

工藤氏「面白いことがあると自然に集まって話したりしています。こうしたらもっといいかもね、こういうのもあるね、と。そのうちに発想が広がってきたりする。」と語るのは工藤氏。
ワウではオリジナルの表現を創り出す場づくりが自然とできていて、毎年デモリールを創ることから始まり、個人の作家活動も積極的に行なっている。スタッフのほとんどがデザイナーというだけあって、それぞれが独創的に力を発揮して制作に臨む姿がうかがえる。

「WOWでは、仕事とは別のユニットが3つ出来ていて、それぞれが作品を創ってコンペティションに応募したりしています。けっこう頑張っていて賞をもらったりしているんですよ(笑)。お互いに刺激しあうよい仲間という感じですね。」

このほか、毎朝15分間読書の時間が設けられていたり、創作意欲を持続できる環境を作り出している社風が仕事への意欲を自ずと高めているようだ。自主制作を推奨するといっても、しっかりとしたチームワークと信頼、仕事分担がなされているからこそ成果が生まれるのだろう。



今年10周年を迎えるワウを先導してきたのは、アートディレクターの鹿野氏。
仙台で生まれ育った鹿野氏がここでの活動を考えたとき、自然とワウに行き着いたという。ワウの10年とともに、鹿野さん自身の活動も変化してきている。

2003年には、自ら創ったプログラムによるアート表現のベースとして「未来派図画工作」というサイトを立ち上げ、プログラムアートとして作品を発表した。
「インスピレーションを誘発する表現がしたかった」と語る鹿野さんは、サイトでもこう宣言している。「私たちは、作らなくても生活できるようになってしまったのです。ですから、作る人よりも利用する人がずっと多くなってしまいました。作らなくても生活できる社会に、あえて何かを作る心意気。探しになんか行かないで、青い鳥は自分で作ってしまいませんか」。

そして、その言葉通り、今では鹿野さんが公開しているこのプログラムのソースを使ってたくさんの人が作品をつくって発表している。
この活動がワウにも影響を与え、ワウの「モーションテクスチャー」が生まれていく。

新しい映像のあり方を探求するWOWの考えたこと

鹿野氏いつも新しい映像のあり方を考えているワウ。
2年ほど前から、動き続けているもの、道具と映像の中間的なものを創れないか...そんなディスカッションが始まり、その発想が「モーションテクスチャー」となった。

アルゴリズムという新たな道具を使ってワウのデザイナー達がそれぞれに映像を創りだしていく。
プログラムという計算による偶発性の中で生まれる映像美、デザイナーはそれを楽しみながら映像を編集し、構築する。
そんな作業が繰り返され、たくさんの映像のシーンが蓄積されてこれがインタラクティブな作品へと拡張していった。

昨年は「せんだいメディアテーク」と「日本科学未来館」で展示を行なった。静かな空間と床に大きく映し出された鮮やかな映像。「走り回る子供たち、両手をいっぱいに広げる女性、ゆっくり映像の中を歩く人々…。



映像作品と見る人が直接ふれあう瞬間を見て、これから作るべき新しい映像作品のあり方を実感しました」と鹿野さんは語る。
これだけ多くの映像、数十種類がインスタレーションになった作品は、あまり類がない。まさにワウがクリエイティブ集団だからこそ成しえた技といえるだろう。

映像からインスタレーションへ…新たなステージに入ったワウは、10周年を期に今までの仕事の集大成としてDVDをまとめるとともに「W0W 10」という1冊の本を出版した。いろいろなメディアに展開していくひとつの試みとして印刷メディアを選んだ今回の書籍。重厚な風合いあるものに仕上がっており、本を創ることを楽しんだというワウらしさがここにも感じられる。

「表現について考えれば考えるほど、その本質に迫っていく事になります。ビジュアルデザインをささえるのは、目に見えない情報の設計だと思います。構造が表面ににじみ出てくるのです。そういうアプローチで作品を作るとき、大事なのはコンセプトです。
今回のWOW10はメディアが印刷物になっただけで、その姿勢は変わりません。」と鹿野さんは、この書籍に取り組んだ姿勢を話す。
「それと、やった事がない事に挑戦するのは純粋に楽しいですよね。結果が読めないから大変ですが、そのぶん本気になります。本気で楽しむって、もの作りで最も重要な事だと思うんです。」

留まることなく進化しつづけようとするW0W。これからの10年、さらに彼らがどんなモノづくりをしていくのかが、ますます注目されることだろう

モノづくりのための根をもってほしい

発想力、チームワーク、コミュニケーション能力が重視されるワウ。お2人にこれからこの分野を目指す方々へのメッセージをいただいた。

鹿野氏「いろんなものに触れて、たくさんの映像を見てほしいです。いろんなモノを見てきた人の発想は豊か。視野を広げ、まずは創りたいモノを生み出す力を養うことが大切だと感じます。」と語る工藤さんは、さらに「CG-ARTS協会が実施している学生CGコンテストの作品も注目しています。
作品をみるときは発想力、技術力の両方をみますね。最近の受賞作はやはり独創性、アイデアが面白いことが目を引きます。」 自らが創り手としてさまざまな作品を鑑賞し、視野を広げている姿がうかがえる。

「今ある表現を超えて、自分の感性で、今しかできない表現を追及してもらいたい。やはり自分の創りたいものへの考え方がしっかりとあって、自分にとって新しい表現を再現していくことがよいと思います。」
数十年後に振り返ったときに、今の時代がとても面白い表現に満ちているような、そんな時代になったらいいですよね…と言葉を加えた鹿野さんは、これからこの分野に携わる人たちと一緒に時代をつくっていきたいと考えているのだろう。

取材・文:篠原たかこ

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