大学・企業現場リポート ディジタル最前線

Vol.13 5000万アクセスの超ヒットゲーム『CRIMSON ROOM』を制作

コピーライターからデジタルクリエイターへ変身

東京を中心にさまざまなソフト開発が盛んな中、北海道・札幌を拠点として20年以上も前に創業し、ここ15年以上一貫してコンピュータ用ソフトウェアの開発や家庭用ゲームソフトの開発などを着実に手がけてきた企業がある。それがマイクロネット社だ。

当初のマイクロネットは家庭用ゲーム機が発売されるイニシャルプロダクトとして数本のソフトを担当する。現在、北海道大学大学院情報科学研究科共同研究員も兼務される酒井氏は、「今から12〜13年前、インターネット前夜といわれる1993年頃のことです。民生用ゲーム機の中にコンピュータグラフィックスのハードウェアチップが入るようになり、2次元のコンテンツから3次元のコンテンツに移行し始めました。"これからは3次元だ"ということで、3次元の研究を始めました」と当時を懐かしむ。そして、これらのゲームソフト開発で得られたノウハウをまとめて、1996年に3次元グラフィックツール『3Dアトリエ』を開発した。これが現在、3DCGの領域で多くの優れたノウハウを持つマイクロネット社の3DCGにおけるスタート地点となった。「日本でゲームソフト販売量のピークは1995年頃です。その頃は業界も7〜9,000円台のゲームを数多く開発していました。そのうち、携帯電話の普及からか中高生はゲームであまり遊ばなくなり、ゲーム人口は次第に高齢化し、ゲーム自体も複雑で高度化していきました。CGは日進月歩で、リアリティの高い3次元グラフィックスは開発のために労働集約が必要で資本投下も大きくなりました。いくつかの3次元グラフィックツールが登場しましたが、国産のツールはほとんどなく、まだツール受難の時代でした」と酒井氏。

2000年のSIGGRAPHで米国マクロメディア社がShockwave3Dのベータ版を発表。Web3Dの時代になるのではないかと考えたマイクロネット社は、グラフィックツールが進化した3DCGオーサリングツール『3Dアトリエ』にWeb3D機能を搭載した。  酒井氏は、「私たちは独自の3DX技術でHTML上に3D空間を構築できるようにしました。この3Dアトリエは3DCGのモデリングやレンダリング、アニメーションなどができるソフトですが、レンダリングについては現在では完全な影計算ができるラジオシティレンダリングまで非公開ですが到達しています。3Dアトリエを使ったコンテンツで、ウォークスルーのプレゼンテーション、たとえばマンションの間取りやインテリア、設備などをWeb上で見せることができます。実際に部屋の中を動き回って各部を見ることができるのはもちろん、家具などは引き出しの内部まで覗くことができます。こうしたバーチャルな体験に加え、HTMLとのインタラクティビティが可能なため、移動点を集約してデータベース化することで、人間の視点がどの部位に多く興味を持って見ていたかといったマーケティングにつなげることができます」と語る。

 さらに、Web3Dサイトの一例として家具配置のサイトも見せてもらった。間取りの平面の中に家具を配置していくと、置いた家具が床に映り込んでいくエフェクトも確認できる。どのような家具を購入したら自分のお気に入りのインテリアや部屋の雰囲気を演出できるかをあらかじめシミュレーションできるため、家具購入の失敗がないなどの経済性にもつながる。

      

酒井氏によれば、建築ではラジオシティレベルのクオリティが求められるとともに、3Dアトリエは従来のVRMLに比べ約1/10前後のデータサイズに圧縮できるため、住宅メーカーやマンションデベロッパーなどに人気が高いという。住宅メーカーとの住生活分野での共同研究として「換気システム」や「日照・通風シミュレーション」の構築も行っている。

3DCGオーサリングツール、Web3Dと開発を続けてきたマイクロネット社は、2001年に、放送用のリアルタイム3DCGタイトリングシステム「3DNIXUS」を北海道日興通信(株)と共同開発した。これはテレビのスポーツ中継やニュース番組などでもうおなじみの「HOMERUN!」とか「GOAL!」、「緊急速報!」などのタイトルがスーパーインポーズされるもの。それまでのスーパーインポーズはデータ量が多かったが、このシステムはPCベースのコントローラーによりコンパクトなため現場に持って行きやすく、かつ、データ量も少なく、リアルタイムレンダリングでスーパーインポーズを生成できる。日本テレビの「2001ワールドグランドチャンピオンズカップバレー」を皮切りに、サッカー、プロ野球、スキージャンプ、マラソン、ゴルフなどのスポーツや参院選など、これまで多数の中継番組で使用されている。
       

 酒井氏は、「タイトリングシステムの描画に関しては、アクショントリガーや文字情報などの書き換えといった放送時に必要となる主要なコントロールを3DCGと直結しました。また、スコアをスーパーインポーズするのは、3Dのハンドリング技術とスコアリングのシステムを融合して生み出したものです」と語り、「当社は3Dハンドリング技術で独自の領域を拓いてきました。たとえば電子回路の設計図からハードウェアの形状を3DCGでまとめあげるという研究も北海道大学と行っています。電子製品の場合、ただ外観を見せるCGだけではなく、中身がどうなっているか、どう機能しているかを確かめる機能も必要です。そのような3DCGと他のコンピューティングの親和性を求める研究も行っています」とこれからのCGのあり方についても指摘された。

 マイクロネット社はこれまで紹介してきた技術開発やその製品販売のほか、テレビ番組やCMなどのCG制作、Webデザイン、DTPなど幅広いコンテンツ制作ビジネスを展開し、文部科学省知的クラスター創生事業の共同研究なども行っている。自身も多くの各種研究開発プロジェクトに参画されている酒井氏は、「永年ノウハウが蓄積された3Dハンドリング技術をベースとして、新しいWebのあり方を提供し、放送のコンテンツ業務にも積極的に進出していきたいですね」と抱負を語られる。

自社にクリエイターもエンジニアも擁する酒井氏は若い人に期待するものとして、「クリエイターなら、アプリケーションを作る側か、それとも使いこなす側かをはっきりと意識すべきです。作る側なら、エンジニア系の知識も完璧なまでに習得しておくべきです。使う側なら、例えば撮影技法の知識やカラーマネジメントに関する知識が基礎として重要です。データの見え方だけを信用しないで、しっかりとカラーマネジメントする必要があります。それでDTP制作のレベルにはっきりと違いが出ます。いずれにしろ、クリエイターはCGに関する教科書の知識をしっかりとマスターした上で、感性をどう磨くかにかかっています。一方、技術者の場合は、教育者とそれを橋渡しする所が薄くなっているのが現状です。

たとえば高校生に「2値化」という用語を教えても、それだけでは挫折してしまいます。習った用語のアルゴリズムをどう作るか、そうしたことに関心を持ち、トライ&エラーしてもらいたいですね。クリエイターにしろエンジニアにしろ、3DCGはふつうのアプリケーションよりも高い能力が求められます。そして、基礎を作らないと、イノベーションも起きません。未来を目指す方はCGの教科書を水先案内人として頑張ってもらいたいですね」とエールをおくられた。


[Vol.13] 5000万アクセスの超ヒットゲーム
『CRIMSONROOM』を制作
[Vol.12] 360°に展開する『めざめの方舟』のデジタル映像制作
[Vol.11] 柔軟な研究姿勢がテーマの広がりをもたらす「地球統計学」からモーションデータ利用の新手法
[Vol.10] 「自動車のデザイン開発における映像プレゼンテーションの役割」
[Vol.9] 映画「HINOKIO」で、子供たちが未来に飛翔する勇気を与えたい。
[Vol.8] 人と人との新しい出会いと深いつながりを求めて。
[Vol.7] 「形状研究を軸に多様な領域に対応」 GPU クラスタによる汎用計算技術の開発へ
[Vol.6] 質感を見て、触って、脳で感じる。日本発の感性情報技術を
[Vol.5] 「CGをコミュニケーションツールに」インタフェース研究でCGに新たな可能性
[Vol.4] SIGGRAPH2005特集
[Vol.3] 公平で円滑なデジタルコンテンツの流通をめざして。
[Vol.2] 世の中に真に役立つ技術を求めて。
[Vol.1] 人間の個性や人間らしさをデジタルでサイエンスする。
個人情報保護方針ウェブサイトにおけるプライバシーポリシー 個人情報開示請求について