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2012/07/12更新

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ゲームエンジンを多用した実践的教育のSupinfogame

同校への取材では3年生と4年生の授業を見学できました。3年生のクラスではFlashを用いて、特定テーマに基づいた2Dゲームの制作実習が行われていました。

こちらは二画面による対戦シューティング。左右でハイスコアを競争する。

今回設定されたテーマは「二つの世界」で、ゲームデザインコースとゲームアートコースの学生が混じり合い、さまざまなアイディアのゲームが制作されていました。あるチームはアイテムを取得して自分の領地を拡げていく固定画面の対戦アクションゲームを制作し、別のチームでは両者が同時にゴールすることが求められる、協力型シューティングゲームを制作していました。ちなみに、みなプログラミングは入学後に学んだとのことです。

男女二人のキャラクターで進むアクションアドベンチャー。グラフィックのクオリティが高い。

4年生の授業ではUnityを用いた制作実習が行われていました。あるチームが開発していたのは、協力プレイ専用の3次元(3D)アクションアドベンチャーです。プレイヤーはそれぞれ主人公とヒロインを操作し、はじめにフィールド上でさまざまな危険を避けながら相手を探索。つぎに二人で協力して、フィールド上の仕掛けをクリアしていく仕組みです。全5ステージで総プレイ時間は約40分と、なかなかの大作。プログラミングは他大学生が務め、サウンドはフリーの素材が使われていました。

Supinfogameの卒業制作風景。Unityを用いたゲーム制作が行われていた。

もっとも卒業制作は3Dゲームだけでなく、Flashによる2Dゲームも多いとのことです。これには産業界でもカジュアルゲームなど、2Dゲーム制作の需要が高いという背景もあります。そのためレティエック氏は2Dと3Dの両方のスキルを習得することが理想だと語りました。とはいえ就職さえできればいいという「技術者」を育成することが目的ではなく、あくまでアーティスト的な感性を養うことを重視していると強調していました。

他にキネクトやiPhone、iPadなどでの制作実習も取り入れるなど、カリキュラムは毎年のように見直されます。学内ではマイクロソフトのタッチパネル機能付きのテーブル型ディスプレイ「Surface」上で動作するゲームアプリも開発されていました。宇宙空間を舞台に対戦プレイができるカジュアルな戦略ゲームといった雰囲気で、抽象的なグラフィックによるエフェクトが美しく、高い技術力が感じられました。


人材育成から産業集積へと進む地域戦略

もともと地域経済活性化のために開校したSupinfocom Groupですが、前述の通り開講して25年間で、大手企業に多くの学生を供給するまでに成長しました。

Supinfogameでも、アクションゲーム「The Uncanny Fish Hunt」が2011年度のユニティアワードでグランプリを受賞したのをはじめ、学生作品が全世界で数多くのアワードを獲得しています。ちなみに、同作の制作チームは卒業後にUncanny Gamesとして起業。他にタブレット向け電子書籍配信のbyookなども卒業生によって設立されるなど、ベンチャー企業も生まれています。

もっとも、大半の学生は卒業後に地元を離れてしまいます。そこでヴァレンシエンヌでは商工会議所の旗振りで、ベンチャー企業の育成と外資を含む周辺企業誘致のため、産学集積地「Serre Numérique(デジタル温室)」の建設を進行中です。敷地面積は15,000平米(日本武道館と同規模)で、Supinfocom Groupのヴァレンシエンヌ校も、2013年9月に移転が決まっています。企業と教育機関が同じ場所で活動することで、さらなる飛躍が期待できそうです。

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小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム評評」(inside)など。著書に『ニンテンドーDSが売れる理由』(共著)『ゲームニクスとは何か』(構成協力)がある。IGDA日本・SIG-Glocalization共同世話人。