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2012/07/12更新

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チームで作品をつくり上げる力をもつクリエイターを育てるSupinfocom

筆者らが学校を訪れたときは、2年生と5年生の授業を見学できました。2年生のクラスでは3ds MAXを用いた静物画のCG制作が行われていました。

Supinfocomの2年生のコース。皿やコップなどの静物を正確に3Dモデルにおこしていく。

学生はまず、コップや皿などの静物をデジタルカメラで撮影し(写真撮影に関する授業もあります)、写真や実物を見ながら、正確なポリゴンモデルを作成して、画面上に配置していきます。ポリゴンモデルが完成したら、ライティングの後にレンダリングしてCGを完成させるのですが、モデルの形が狂っているとリアリティが損なわれるため、何度もやり直すことになります。モノの形状を注意深く観察して、CG空間で正確に再現することを目的とした授業となっています。

教室には実習用の大きな机が配置され、デッサンなどアナログの授業が行われる。

ちなみに教室は中央が大きな机で占有され、壁際にPCが配置されるという変則的な構成でしたが、これはデッサンなどの授業も行われるため。とくに2年次までは、アナログとデジタルの両方を行き来する、立体的なカリキュラムとなるように配慮されているとのことです。また即戦力となる学生を育てる意味から、モデリングツールにはMayaも併用されています。


一方、隣の教室では2Dアニメーションの作成実習が行われていました。学生はまず3ds Maxでキャラクターモデルを作成し、それをパーツごとに分解して、After Effectsでアニメーションを作成していました。After Effectsにはカット単位でエフェクト制作などを行うコンポジットツールという印象がありますが、一つのツールをさまざまな用途で使いこなすという意図があるように感じられました。

卒業制作の最中という5年生のクラスも視察できました。壁にはキャラクターデザインやビジュアルコンテなどを記したメモが貼り付けられ、ほぼ1年かけてつくられるチームでの作品制作がまさに佳境といった雰囲気。卒業制作の善し悪しは、そのままインターンや就職に直結するため、連日徹夜で制作が続いているそうです。そんな緊張感あふれる制作ルームではありますが、壁の作品資料の横には映画やゲームのポスターなどが貼られ、クリエイティブな環境であることが伝わります。

事前に作成した絵コンテに沿ってアニメーションがつけられていく。
チーム制作を通して学生はツールの使い方とともに制作管理なども学んでいく。
卒業制作を行っている教室。壁にはゲームや映画のポスターが貼られていた。
大量のブレードサーバが並び、冷却ファンが回り続けるレンダーファーム。

なお学内には専用のレンダーファームも設置されています。部屋にはブレード型のサーバが100台程度設置され、冷却用のファンがうなりをあげていましたが、それでも熱気がこもっていました。レンダーファームと学内のPCはギガビット・イーサネットで結ばれ、サーバ群のCPUは800個、総HDD容量は84テラバイトでした。

商工会議所管轄の職業訓練校的な側面

ヴァランシエンヌはもともと、14世紀に活躍した作家ジャン・フロワサール、アンリ四世の宮廷音楽家として活躍したクロード・ル・ジュヌ、18世紀フランスのロココ様式を代表する画家アントワーヌ・ヴァトーらを排出した、芸術的な背景をもつ土地柄です。

もっとも19世紀以降は、石炭と繊維産業の街として発展しました。街には数多くの工場が建てられ、賑わいを見せます。しかし1970年代に入り、これらの産業が衰退するとともに地域経済が疲弊し、人口流出が続きます。

こうしたなかで地域行政は新しい成長分野としてデジタルクリエイションに着目し、1987年にISD、1988年にSupinfocomを相次いで開校させました。当時はCG技術が黎明期で、まさに先見の明があったといえるでしょう。

またフランスの教育行政は国民教育省の管轄ですが、大学の授業内容は学術的で、必ずしも産業界の要望に即していない面があります。一方でISDやSupinfocomは商工会議所の管轄で、当初から職業訓練校的な性格をもつ教育機関として設立されました。そのため産学連携もさかんで、講師陣には企業人が多く含まれています。

SupinfogameのFlashゲーム制作実習の教室。パーティションがなく、開放的な雰囲気。

ゲーム開発者を育成するSupinfogameも同様で、カリキュラムにはUBIなど大手企業の意見が多く反映されているそうです。同校ではゲームデザインとゲームアートの2コースがあり、1年生と2年生が各20人、3年生以降は各25人となっています。また秋から4年制のプログラミングコースが新設され、15名の学生が加わる予定です。


もっとも、両コースともプログラミングの授業が存在し、授業にはUnity、UDK(Unreal Development Kit)、CryEngineなどのゲームエンジンが積極的に取り入れられています。またカリキュラムにはFlashによる2Dゲーム制作も含まれており、簡単なプログラミングは学生が自分たちで行っているとのことです。

Supinfogame全体統括を担当するフランク・レティエック氏。

学生は在学中に平均して4から6本のゲーム制作を手がけ、最終年度には近隣の理工系大学と共同で5から6人のチームを編成し、卒業制作が行われます。同校を統括するフランク・レティエック氏は、「シリアスゲームをはじめ、さまざまなプロジェクトを学生のうちに体験して、創造性の幅を高めることを主眼としている」と話しました。

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小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム評評」(inside)など。著書に『ニンテンドーDSが売れる理由』(共著)『ゲームニクスとは何か』(構成協力)がある。IGDA日本・SIG-Glocalization共同世話人。