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2012/07/12更新

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25年におよぶSupinfocom Groupの歴史

フランス北東部、ベルギーとの国境に面したノール=パ・ド・カレー地域圏。寒冷な土地柄からワインよりもビールの名産で知られ、ロンドン・パリ・ブリュッセル・アムステルダム・ケルン・ルクセンブルクを結ぶ交通の要所。デジタル産業ではパリ、リヨンに次ぐフランス第3位の経済圏です。

その首府リールから、南東に50キロ離れたヴァランシエンヌに位置するデジタルクリエイションの学校法人がSupinfocom Groupです。

四半世紀にわたって優秀な学生を輩出しているSupinfocom Groupのヴァランシエンヌ校。

郊外に位置する、緑に囲まれたキャンパスはホテルの跡地を活用。インダストリアルデザインのISD(Institute Superieur de Design)、CGアニメーションのSupinfocom(シュパンフォコム)、ゲーム制作のSupinfogame(シュパンフォゲーム) という、3つの学校から構成されています。同校はほかにアルヌ地域と、インドのプネーにもキャンパスを拡大。総学生数は約1,200名におよび、PIXARDREAMWORKSUBISOFTGAMELOFTといった有名企業に人材を供給しています。

今回筆者はフランス駐日大使館主催のツアーに同行し、ヴァランシエンヌ校のSupinfocomとSupinfogameを取材することができました。このデジタルクリエイションの分野では世界的な知名度を誇る同校の概要や授業風景について、紹介していきましょう。

元ホテルの跡地に3つの異なる学校が作られ、色によって校区が分かれている。

Supinfocom Groupの歴史は25年におよびます。まず1987年にISDが開校し、翌1988年にSupinfocomが続き、2001年にSupinfogameへと展開。2000年にはアルヌにもキャンパスが設立されました。さらに2008年にはインドで地元資本の投資を受けて、ムンバイから南東150キロに位置するプネーに校舎を設立。なおSupinfocomとSupinfogameはそれぞれ、フランスで初のCG・ゲーム系高等教育機関でもあります。

受賞作品の数々。ゲームの受賞作の中には製品として発売されたタイトルもある。

教育制度は5年制で、日本の職業訓練校と大学が融合したような高等学院です。受験資格はフランスで高等教育入学資格を認定するバカロレアの合格者であること。ヴァランシアンヌ校の学生数は700名(ISD270名、Supinfocom200名、Supinfogame230名)で、全体の約2割を留学生が占めています。授業はフランス語で行われますが、プネー校の設立を契機に英語での授業も増やしていく方針。受験倍率は学校によって異なりますが、Supinfocomでは約3倍となっています。

5年制のカリキュラムで優秀な人材を輩出

全校でカリキュラムは前期3年と後期2年に分かれ、座学よりも実習に力が入れられており、とくにグループワークが重んじられています。このうちSupinfocomでは3年間を全員が同じコースで学び、4年生になるとアニメーション、ディレクター&プロジェクトマネジメント、アートディレクター&特殊効果という専門分野に分かれていきます。

1年生ではまず、概論やデッサン、遠近法、映像、タイポグラフィなどのアナログな授業が行われます。2年生から徐々にデジタル関連の授業が増え始め、Flashによる2次元(2D)アニメーションや、Maya、3ds Max、After EffectsなどのDCCツールの使い方を習得していきます。3年生になるとナレーションや素材管理などの技術も学び、CGによる短編フィルムを制作します。

4年生では脚本術やレイアウト構成、編集技法、キャラクターデザイン、ライティング、エフェクトなどを学び、作曲やサウンドデザインの授業も加わります。そして5年生になると卒業制作として4から7分の短編アニメーションを、4から6人のチームメンバーとともに、ほぼ1年をかけて完成させることになります。

学校を代表して取材担当をしてくれたマネージングディレクターのアン・ブロトーさん

同校で注力されているのは、CGアーティストとしてのスキルだけでなく、チームで作品をつくり上げる力。同校でマネージングディレクターを務めるアン・ブロトーさんは、進行管理やマネジメント能力を育てることも重要な指標の一つで、そのためにチーム制作が多く取り入れられているといいます。こうした学生の総合的なスキルは企業からも高く評価を受けており、卒業生の昇進速度も他国より早い傾向にあると説明されました。

卒業制作で作られた作品は、ヴァレンシエンヌ校とアルヌ校で毎年15本程度。15人の試験官で2日間にわたり審査されます。その後、学生展示会を兼ねて街の映画館で一般公開されるのが好例行事。ほかに毎年50社程度、企業のリクルーターを招待した内覧会も開かれています。

学生作品のクオリティはおしなべて高く、ハンバーガーのモンスターが街中を暴れ回る「HAMBUSTER」がイマジナアワード2011でプレミアを受賞したのをはじめ、シーグラフやアヌシー国際アニメーション映画祭など国際的なCGコンテストで多数の入選作品を排出するまでに至りました。前述の通りハリウッドの大手CGスタジオにも多数人材を供給しています。

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小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム評評」(inside)など。著書に『ニンテンドーDSが売れる理由』(共著)『ゲームニクスとは何か』(構成協力)がある。IGDA日本・SIG-Glocalization共同世話人。