2011/02/16更新

本連載ではゲーム業界の人材教育・キャリアパスについて、第一線で活躍されている方々へのインタビューを通して、さまざまな角度から紹介していきます。
第6 回目では、ゲーム会社で3DCGアニメータとして働きながら、趣味で同人活動もされている、こののさんにスポットを当てました。「ゲームが好き」「キャラクタが好き」といった動機からゲーム業界を目指す学生に向けて、そうした気持ちを大切にしつつ、プロとして働くためのヒントなどについて伺いました。
また当日はゲーム業界をめざす、アーティストやゲームプランナー志望の女子学生3名にも加わっていただき、学生ならではの率直な意見も交えながらのインタビューとなりました。

これまでの経歴を教えてください

ブースに設置されたパネル

デザイン系の専門学校を卒業後、2D アニメータとして動画を3 年、原画を1 年経験しました。その後、あるプレイステーション用ゲームの映像演出に感動して、3DCG アニメータ(※1)としてゲーム業界に転職。そこから再び別のゲーム会社に転職し、現在はチーフアニメータとして働いています。

※1 3DCG アニメータ:3DCG のキャラクタに動きをつける職業。ここではテレビアニメなどに代表される、従来の2D(手描き)アニメータと区別する意味で、3DCG アニメータとよんでいます。会社によって、モーションデザイナーとよばれることもあります。

その一方、趣味で同人活動も行っています。Autodesk 社のDCC ツール(※2)を擬人化した「Autodesk でBL」という漫画をWeb 上で発表中です。ありがたいことに、Autodesk社主催のグローバルコミュニケーションイベント・セミナー『Autodesk 3December 2010』の会場で、漫画を製本した同人誌を販売する機会もいただきました。

※2 DCC ツール:Digital Content Creation の略で、ゲームやCG などのデジタルコンテンツを作るために使用するソフトの総称のこと。

オタク的な感性が仕事で役立つことはあるんでしょうか?

こののさんのブース

こんな風に、私もオタク属性のあるクリエイターなんですが、そもそもゲーム会社ですから、似たような趣味をもっている人は多いですし、タイトルによってはオタクでなくては共感できない感性も必要です。時にはアイディアの比喩として使われることもありますよ。ミーティング中に「この攻撃は、あの漫画の、あの技みたいな感じでどう?」なんて会話が飛び出したり。そのままでは説明しにくいことでも、皆に共通のイメージがあると、意思疎通がしやすいです。

ただしファミリー向け、一般層向けのタイトルでは、また話が別です。グループインタビューなども参考にしながら、一般性のある仕様を考える必要がありますね。

仕事をするうえで、気をつけていることはありますか?

こののさんのブース

ゲームユーザ向け、アニメファン向けのタイトルでも、必ずしも自分のオタクな感覚が正しいとは限りません。そのため私自身、常に自分の好みと市場の違いを意識して仕事をするようにしています。わかりやすくいうと「わかっているはず」と過信したり、「わかったふり」をしたりしないことでしょうか。たとえば私の経験談をご紹介しますと、男性ウケを狙って女性キャラクタの胸を揺らそうとしたんですが、周りの男性から、のべつ幕無しに揺れすぎているのはかえって萌えない、さりげない瞬間に揺れるのが良い、という意見をもらいました。パンツはチラっと見えるのが良い、というのはわかっていましたが、胸もそうなのかと勉強になりました。学生の皆さんが就職されて、仮に自分の得意なジャンルの表現を行うことになった場合でも、他の人の意見も聞くように心がけることをお勧めします。

エフェクトはゲームの爽快感を演出する大きな要因でもあります

私も会社で3DCGアニメータ志望の学生さんのポートフォリオを見る機会があります。アーティスト系の場合は、基礎力・柔軟な感性・のびしろの3 点が注目されるようですね。「デッサン力」「多彩なテーマの製品開発に対応できる柔軟性」「さまざまな技術を吸収して、成長し続けられる向上心」ということです。作品を見れば、その人の実力が大体わかりますので、全力で作品を作ってくださいね。

一方、私が直接携わるわけではありませんが、面接では主に「学生のひととなり」が注目されるようです。たとえば好きなアニメの話題をふられて、つい嬉しくて一方的に話したりしてしまうと、「コミュニケーション能力の低い人」と誤解されてしまうかもしれません。好きなことほど、一歩引いた立場で話すようにした方が良いかもしれませんね。

誤解して欲しくないのですが、好きなことや、熱中できる趣味があるのは良いことです。あえて隠す必要はありませんが、うまく面接官にアピールできるように気をつけるようにすると、いいのではないでしょうか。

「好き」という気持ちから業界を目指す学生へのメッセージをお願いします

学生のうちは自分の好きな作品を作れますが、会社に所属すると、そうもいきません。想像してみてください。今あなたは「プロジェクトα」にいます。そこは希望したプロジェクトではありませんでしたが、上司にも恵まれ、やりがいもあります。そんな時、憧れだった「プロジェクトβ」に欠員がでました。異動の希望を出すか否か・・・。皆さんなら、どうしますか?

学生Aさん
「私は今の仕事を続けます。たとえ自分の希望とは違っていても、周りから求められる仕事をするのが、いいと思うんです。プロジェクトの途中で抜けることで迷惑もかけますし」

学生Bさん
「今のプロジェクトに満足しているのなら、ずっと続けていくと思いますが、何かひっかかる点があるなら、異動に手を挙げるかもしれません。自分が納得しないまま働いていても、そのプロジェクトに良くないと思うんです」

学生Cさん
「私も、納得しないまま仕事をしていても、自分でステップアップできないし、あとあと良くない結果になると思うんです。後任を探すなどして、自分が抜けることに対するフォローをしたうえで、手を挙げると思います。やっぱり、やりたい方にはいきたいですね」

悩みますよね。ではもう1つ条件を加えましょうか。その後調べてみたら、憧れの「プロジェクトβ」の仕事は、言われたとおりの作業をするだけで、あまり創造的ではないようです。一方、今の「プロジェクトα」は提案の場がもらえるし、いろんな技術を覚えられます。上司も自分のキャリアを考えると、まず今の仕事を最後までやるべきだと言ってくれています。どうしますか?

学生Aさん
「やっぱり、今のプロジェクトを続けます。常にキャリアアップを目指したいじゃないですか」

学生Bさん、学生Cさん
「うーん、迷いますね・・・」

ますます迷いますよね。でも企業に入ると、こうした選択を迫られることは日常茶飯事です。「好き」な気持ちと「プロ意識」の両方を考えてほしくて質問してみました。ここで大切なのは、今自分がやりたいことだけを見るのではなく、今のプロジェクトや会社の状況を踏まえつつ、今後の業界で自分がどう活躍していきたいか、自分の将来像を見据えて判断することです。そうやって、自分なりに考えれば後悔しないでしょうし、そんな真摯な姿勢を見ている人は必ずいます。就職後、すぐに希望のプロジェクトに就けなくても、いずれ必ずチャンスはやってきます。「好き」な気持ちを大切にしつつ、スキルを磨いていってください。それこそ、チャンスが来た時に自分のスキルがともなっていなければ、夢を逃すことになってしまいますから。

ゲーム作りのプロを目指す学生と、指導される先生へのメッセージをお願いします

他に学びたいこともなく、「ゲームをプレイするのが好き」という理由で入学する学生さんも多いと聞きます。そんな学生さんが、先生から「ゲームを好きなだけでは、作り手になれません。ゲーム以外のことにも興味をもちなさい」と言われても、何をどうすれば良いのか、わからなくなるかもしれません。

そういう場合は、自分の好きなゲームに関するものを、とにかく作ってみることをお勧めします。そして、できあがったものをいろんな人に見せて、フィードバックをもらってください。時には厳しい意見もあるでしょうけど、がっかりした経験は成長するためのバネにしましょう。そうやって自分に足りないものに気づくたびに、ゲーム以外の世界から必要なものを吸収して、視野をどんどん広げていけば良いと思います。

たまに「オタクじゃない人のほうが面白いゲームを考えられる」と言う人がいますが、ゲームや自分の仕事を愛している人は、そうでない人では絶対に敵わない力をもっています。そんな「好き」という気持ちと、スキルが揃った時に、面白いものを実現できるようになります。

いつか皆さんと一緒に仕事ができる日を楽しみにしています。
頑張ってください。