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世界的な新型コロナウイルスの流行により、私たちの日常生活も大きく変化してまいりました。これまでの学び方や働き方が一変するなか、企業ではリモートワークが進み、学校ではオンライン授業が導入され、また、新卒採用活動においても面接のオンライン化など、その環境が大きく変化したことと思われます。

こうした状況の中で、CG・ゲーム分野の新卒採用における履歴書、ポートフォリオのデジタル化が現時点でどの程度進んでいるのかについて、現状を把握することを目的として、アンケート調査を実施させていただきました。今回のアンケートは、企業向け、学校向けに分けてそれぞれに回答いただきました。以下の結果報告では、同内容の質問については、企業・学校が比較できるように並列して表示しております。

アンケート方法
調査方法/対象:企業向けと学校向けの2種のアンケートを用意し、CG-ARTS会員企業、認定教育校を主として、そのほかVFX-JAPAN会員、NPO法人IGDA日本のWebページやCG-ARTSメールニュース・SNS(Twitter)、協力校の日本工学院専門学校からの呼びかけで回答を募集しました。
調査期間:2021年4月16日~4月30日
有効回答数:企業:34(CG18,ゲーム11,その他5)、学校:74(大学17,専門56,高校1)
協力:日本工学院専門学校 CG映像科 松永・坂本、一般社団法人VFX-JAPAN

回答者の属性に関する質問

Q1.採用活動、就活指導にどの程度かかわるか?

 

Q2.企業側の履歴書・作品提出を求めている状況について

回答者は、採用活動および就職活動指導に関わる方が多く、今回のアンケートの回答者として適したスクリーニングができているといえます。また、履歴書および作品提出が必須になっている企業に回答いただいたことが分かります。

 

履歴書に関してのアンケート

Q3.履歴書の入力・提出方法(企業側)/ 履歴書の学校指定の有無・指導方法(学校側)

企業の状況

企業が求める履歴書の記入方法については、アナログ優先と回答した方はおらず、全ての方がデジタル入力もしくはどちらでもよいという意見でした。提出方法についてはデジタル優先の割合が高い一方、最終的には紙で提出を求める企業が一定数ありました。

学校の状況

学校側の履歴書指導の状況については、学校の指定フォーマットがあり、そのフォーマットへの記入が必須となっている学校が82%と大半を占めました。入力方法については、デジタル入力優先、アナログ優先の意見が分かれていました。

 

Q4.履歴書の形式についての理由と今後の方針についてお考えがあればお聞かせください

企業側の意見

∇「デジタル優先」のご意見 10件

ご意見をまとめると、リモートワークが進んでいることもあって、デジタルのほうが、他部署とも共有や管理もしやすいという意見が多くありました。また直筆でも入力でもデジタル提出が良いというコメントや、元々は手書きでの提出を求めていた企業も人数の増加や近年のデジタル化の傾向からデジタル提出に移行したというコメントもありました。

∇「どちらでも」のご意見 2件

記載内容が重視されるもので、記入方法にはこだわらないとする意見でした。

∇「アナログ優先」のご意見 4件

性格や人柄が手書きに現れるため提出を求めているというものが中心でした。

学校側の意見

履歴書の形式についての理由と今後の方針についてお考えがあればお聞かせください。

∇「デジタル優先」のご意見 6件

内容をまとめると、アナログだと学生の書き直しの負荷がかかる、また指導する教員とのやり取りもアナログになり、時間と対面での受け渡しが必要になるという理由から、デジタル化を推進してほしいという意見が多くありました。CG系の企業様はPDFで応募書類を受け取ることがほとんど、または手書きを求められたのは1社のみだったので、デジタル入力できるように指導しているという声もいただきました。

∇「どちらでもよい」のご意見 12件

内容はさまざまで、エントリーシートがメインになりつつあるので、履歴書にこだわらないという意見、受験する業界によって使い分けている、字の上手い学生は手書き、苦手な場合はデジタルでよいのではないかなどが寄せられました。「印」が必要か必要でないかも業界に合わせてもらいたい、企業側で「履歴書はデジタルでOK」と明記していただけると悩まずに助かるという意見もありました。

∇「アナログ優先」のご意見 6件

現状は、これまでの学校の方針や履歴書がアナログで用意されているためとした意見が多く、手書きをしてもPDF変換し、デジタルで提出しているというコメントもありました。また、手書きの場合、文字の巧拙によって学生の特性を見ることができる一方、多くの企業に履歴書を送りたい場合、その手間から積極的な就活を阻害することが多く、デジタル入力に移行したほうが良いとという意見もありました。

なお、アナログ・デジタルにかかわらず、エントリーシートにその役割を任せるべきとする意見も寄せられました。

 

Q5.業界推奨の履歴書フォーマットの必要性について

業界推奨の履歴書フォーマットについては、現状学校側に一定数求める声がありつつも、企業側も学校側も強く求められていない事が分かりました。

 

Q6.業界推奨の履歴書に必要な項目を選択してください。

企業も学校も必要と思う項目は個人情報、志望動機、使用ソフトウェア、学歴、趣味などが共通して上位にはいっていました。一方、乖離が見られたのは資格(企業41%,学校76%)、自己PR(企業36%,学校76%)などでした。

 

Q7.上記以外に履歴書にあったほうが良い項目があればお書きください

∇企業の意見 5件

意見が多様なため、まとめずにご紹介します。

  • 受賞歴については、受賞していなくてもコンペやコンテストなどの参加歴
  • ポートフォリオの内容について、どのパートにどのように関わったかなど
  • 「志望動機」のところで、「業界(アニメ業界など)に志望する動機」と「その会社を志望する動機」が混同している、もしくは業界志望動機しか書いていない学生が多い。明確に「会社への志望動機」としてほしい。
  • その他:外国籍の方の場合は日本語レベルの表記
  • 好きな映像作品(映画、TV、CM、WEBなど、ジャンルは問わず)

∇学校の意見 13件

意見が多様なため、まとめずにご紹介します。

  • 興味のあるCG分野や働き方
  • 応募先企業に対する質問
  • 大学院生は研究テーマが必須。学部生は研究室配属直後くらいに就活に入るため,卒論の研究テーマについて書かせるのは無意味。また,工学部では広く浅く基本が身につくように教育をしているため「主に取り組んだ科目」にも答えにくい
  • 志望する会社の「どんなところに魅かれたのか」「どんなところに強み(他企業との差別化)があるのか」など(志望する会社をしっかり調べているかどうかを見るため)
  • エントリーシートとの棲み分け希望。履歴書は基本情報だけに留め、会社固有の質問(資格、受賞歴、研究テーマ以下)は、エントリーシート
  • 技術経歴など時系列の経歴書は必要と考えている
  • ラーニングアウトカム(大学内外の学修を通じて、自分は何をどこまでできるようになったと自己評価しているか、それを直接・間接に提示可能な実績は何か)
  • 作品制作で大事にしている自分の軸やマインド
  • 作品を公開しているSNSやサイト等のURL
  • 自分の作品の傾向
  • その学生の代表作(静止画像)を2枚程度、貼り込めるスペース
  • 任意記入として障碍者採用に関連する項目、配慮が必要な項目についての記入

 

Q8.【企業】作品提出の形式について/【学校】ポートフォリオの指導形式について

作品の提出方法・制作形式については、企業、学校ともにデジタルを推奨している傾向が強いですが、学校側としては、どちらの対応もしておくという意見が半数以上あると言えます。

 

Q9.作品提出形式・作品に関して、その理由と今後に対するご意見

企業側の意見

∇デジタル優先のご意見 15件

DVD/Blurayなどアナログなものでの提出は、閲覧する側にとって負担が大きく、情報整理や共有、保管、返却の観点でも望ましくなくデジタル提出を求めるという意見が大半を占め、アナログでの送付に関して学生の負担を指摘する意見もありました。
デジタル優先だが、アーティスト職種の場合スクラップブックやスケッチブックが作品として提出される可能性がある、また面接時はアナログのポートフォリオ持参するケースが多いというコメントもいただきました。デジタル提出の場合の容量については、容量が大きすぎて扱いが難しいものがあるため、ある程度制限をかけているという意見や、職種によっては動画よりもMayaの実際のデータの確認を求める場合や、画質が劣化しないデータでの確認が好ましいという意見もありました。

∇どちらでもよいのご意見 2件

今後はデジタル提出のみに移行予定という意見と、採用に関わるメンバーとの情報共有にはデジタルの方が便利だと感じているが、窓口を広くするため両方を受け付けているとの意見がありました。

∇アナログ優先のご意見 1件

他の必須書類と併せて郵送での提出としていますとのご意見でした。

学校側の意見

∇デジタル優先のご意見 22件

ご意見を総体的にまとめると、企業のニーズに合わせ、応募にあたってはデジタルで作成しておくほうが利便性が高く、リール、ポートフォリオをデータで作成する指導をしている学校が多いようです。また、WebポートフォリオやVivivit等の作品紹介サービスを使用する、またはいつでもどこでもスマホやタブレットで作品をプレゼンできるように指導しているというツールの活用に関する意見もありました。コロナ禍による就活スタイルの変化が起因してデジタルで作成することを推奨するようになったとの声も寄せられました。アナログでの提出の場合は、印刷や郵送にかかるコスト等学生の負担が大きいとのコメントもいただきました。

∇どちらでもよいのご意見 17件

志望する企業の求める提出方法によってデジタル・アナログを使い分けているという意見が大半を占めましたが、デジタルにはデジタルの、アナログにはアナログの良さがあるので、志望企業によって使い分けるのが良いとする意見や、自身の作品を表現するにあたり、一番良いと思う表現方法を自身で選択すべきという意見もありました。また、全てデジタルに切り替えたい気持ちはあるが、業界的に「紙は不要」とならない限り、アナログの指導も継続しなければならないというコメントもありました。

∇アナログ優先のご意見 9件

地域や職種によってはまだまだアナログでの提出を求められることも多く、受け入れ企業側の体制によるという意見が大半を占め、面接も対面形式が大半であるとのコメントもありました。また、アナログであれば電源がなくても見られるし、アナログで制作することで人に見てもらうということをより深く意識できるという意見もありました。アナログでの作成を基本としながらも、動画についてはアナログで表現しきれない部分もあるため、近年はYouTubeやSNSを活用した作品公開を併用するというコメントもりました。

 

Q10.ポートフォリオのデジタル提出方法で使用されているツール・サービスどのように組み合わせて使われているかなど貴校で工夫されている方法などありましたら可能な範囲で回答してください。

30件のご意見をいただいたが、使用ソフトやサービスは以下の通りです。

ソフトウェア:Photoshop、Indesign、AcrobatDC、Illustrator
ストレージサービス;Firestorage、GigaFile便、データ便
ドライブ:GooglDrive、OneDrive
ストリーミングサービス:Vimeo、YouTube
SNS:Tumbler、Instagram、Twitter、ArtStation
求人サービス:Vivivit、キャリマップ、Wantedly
HP制作サービス:Jimdo、Wix、Strkingly、googleサイト、Adobe portfolio
その他:企業へメール添付、応募フォームに添付

アンケートを終えて

コロナ禍において、企業・学校ともにこの1年での急激な変化に対応し、履歴書やエントリーシート、ポートフォリオのデジタル化が進んだといえます。結果として今回ご回答いただいた企業のなかでは、手書きの履歴書を優先する企業は無かったことは、これを象徴しているといえます。提出方法においては郵送を求めるケースもまだありますが、傾向としてはデジタル提出が一層進むものと思われます。一方、エントリーシートと履歴書の棲み分けが望まれていることも伺えました。

ポートフォリオについても、デジタル化が一気に進んでいることが把握でき、動画・映像の提出に至っては、デジタルが必須であることは企業・学校ともに共通した意見となりました。ポートフォリオは、地域によって状況がかなり異なること、職種によってもアナログ提出が有用との考えもあることが分かりました。

CG-ARTSでは、今後も企業・学校の双方がマッチングする方法や、有用なフォーマットの有無を含め、引き続き検討を進めていきたいと考えております。 この度、お忙しい中アンケートへのご協力をいただきました企業と教育機関の皆様に心より感謝申し上げます。

アンケート集計・分析:小澤賢侍
編集:篠原たかこ、宮内舞