2011/11/25更新

リポーター/尾形美幸

求めているのは、アニメの方向を向いて、アニメのCGをやりたい人

ーー新人を採用するときには、何を重視しますか?

3DCGを作るにあたって、どの方向を向いているかですね。よく誤解している人がいるんですが「CG業界」なんていう大きな業界は存在しないんですよ。あるのはアニメ、実写、CM、ゲーム、建築、パチンコなど、細分化された各種業界です。CGはただの技術であって業界ではない。サンジゲンが欲しいのは、アニメの方向を向いていて、アニメのCGをやりたい人です。

どの方向を向いているかは、ポートフォリオの作品を見れば一目瞭然でわかります。作っているものがまったく違います。ただ3DCGが作れれば良いのか、アニメをやりたいのか、その差は凄く大きいですね。サンジゲン以外の会社でも、ほかの業界でも同じだと思うんですが、僕らが欲しいのは、より専門性をもっている人間です。アニメ的な表現が得意で、アニメ的なものの見方ができる人が良い。ただソフトウェアを使えるだけの人がアニメ業界に入ってきても長続きしないし、よりアニメをやりたい人に比べれば成長スピードが圧倒的に遅いんですよ。教育する側から見ると非効率ですから、採用するならアニメの方向を向いている人が良い。

ーーアニメをやりたい人、というのはアニメが好きな人なんでしょうか。

そうですね。僕のような営業が主体のプロデューサーはアニメファンである必要はありませんが、少なくとも作り手はアニメ好きでないとやってられないと感じています。たまにアニメが好きっていいながら、全然好きじゃない人もきますけどね(笑)。演出をやるなら特撮モノが好きとかでも良いんですが、とにかく好きで好きで、作りたくてしょうがないという人でないと続かないですね。

ーー松浦さんもアニメ好きなんですか?

僕は違います。田舎で育ったので、子供の頃はアニメを見られる環境ではなかったんですよ。でも、たまたまアニメ業界に入って、演出さんたちの話を色々聞いたりするうちに、アニメって面白いなと思いはじめて、そこからドンドン深く関わるようになり今にいたっています。

大人になってからアニメを見はじめたので、ある程度客観的に見ていますね。もちろん面白みはわかるし、価値もわかる。わかるんだけど、一方でビジネスとしても捉えています。アニメ業界は、産業としてはまだ発展途上なので、僕のような発想が必要だと思っています。アニメ業界にとっては、調度良い時期に3DCGが出てきたんじゃないでしょうか。3DCGをうまく使うことで、産業としての構造をよりしっかりとしたものにできると考えています。

ーー方向性以外で、重視する採用時のポイントはありますか?

僕の場合は、ミスが許せる人間かどうかも重視しますね。初対面で会って、話をしてみて、その人がミスをしたときに僕が許せるかどうかです。

ーーわかるような、わからないような…。別の言い方で説明してもらえますか?

制作現場は、ときにものすごくギリギリのスケジュールで進行します。夜遅くまで仕事をすることもあるし、たまには徹夜だってする。ストレスを抱えて仕事をすることになります。しかも仕事はチームワークでやらなければいけない。誰かが困っていれば、誰かが助けなければいけない。サンジゲンの仕事は、サンジゲンのスタッフ全員であたらなければいけない。

そういう状況下では、コミュニケーションとか、相手に対する印象、相手に与える印象がもの凄く重要だと僕は思っているんです。なので、やっぱり嫌みのない人が良いですし、愛嬌がある方が良い。話をもとに戻すと、その人がミスをしたときに、理屈抜きで「まあしょうがないかコイツは」って僕が思える相手を採用したいと思っています。サンジゲンは僕がオーナーの会社なので、なんだかんだで僕がすべてに関わっていて、スタッフにも色々な影響を与えています。僕が良いと思える人であれば、サンジゲンの中で大きな摩擦が発生することはないだろうと思うんです。

組織で制作することと、新人を育てることは切り離せない

ーー昨年末に専門学校で講演をされたそうですが、学生の反応は如何でしたか?

3つの学校で、就職に直結した講演をやらせてもらいました。その中で、学生から直接質問を受けたりもしたんですが、「学校の課題で作ったゲーム系の3DCGをポートフォリオに入れて、サンジゲンに提出しても良いですか?」って聞かれたんですよね。「入れても良いですが、うちはアニメ会社なので、アニメ的な表現をしてくる方が有利ですよ」と答えましたが、実のところ、学校から指示されたからというだけの理由で作った課題であれば、魅力を感じないんですよね。学校から指示されたことが、今やるべきことだと学生が思っているのであれば、完全にずれています。

別にオリジナリティはなくても良い。パロディや模倣でも良いので、学校に言われたものではない、自分が本当に作りたいものを作る方が良いですね。それが自分の向き不向きを見つめ直すきっかけにもなります。就職するため、という動機で作ったものは、仮にその作品の質が高かったとしても価値を感じないですね。好き、やりたい、そういった動機から作られたものを見せて欲しいです。

そして、サンジゲンとしては「アニメをやりたい」という動機を強くもっている人を採用したいです。

アニメ作りの現場を維持するために設立した、ウルトラスーパーピクチャーズ

ーーでは最後に、先月発表された新会社、ウルトラスーパーピクチャーズについて聞かせてください。インパクトのある社名ですね。

とにかく前向きな社名にしたかったんです。スカした社名なんて似合わないし、意味を考えさせるようなのはナンセンスだとも思いました。しかも「ウルトラスーパー」ってアニメっぽいでしょ。でもネットでは小学生みたいとかいわれましたね(笑)。本当に小学生みたいな発想でやってるんで、まあ良いかなと思ってます。

ーー問答無用感が出ていて、凄く良いと思います。新会社設立の目的は何ですか?

ウルトラスーパーピクチャーズは、アニメをちゃんと作れる現場を、ちゃんと維持するために作りました。サンジゲンでは今後、オリジナルや元請けのアニメを積極的に作っていきたいんです。そうなると、原作権の管理、運用が必要になります。でも、それをサンジゲンの中だけでやるのは良くないと思ったんです。1つの会社内に色々な機能をもたせると、パフォーマンスが悪くなってきます。サンジゲンはすべての力を作ることに注ぐ。そして、経営や商売のことは、ウルトラスーパーピクチャーズが担当する。サンジゲンという「作る現場」を維持し続けるためには、その方が有効だと思ったんです。ウルトラスーパーピクチャーズには、サンジゲン以外に、トリガーとオースという手描きアニメの会社も参加しています。これら3社が、それぞれの色をもったアニメを自立して作っていき、ウルトラスーパーピクチャーズが、それらを下から支えるイメージですね。

ーー新会社は、「持続可能な組織でアニメを作り続ける」というサンジゲンのポリシーを実践するために設立されたわけですね。では、トリガーやオースでも、次世代のための人材育成を重要視しているんですか?

もちろんです。彼らも人材育成を行っていきます。ウルトラスーパーピクチャーズは、まだ立ち上がったばかりで、結果を出すまでには時間がかかります。少しずつ、計画を実践していきたいと思っています。

ーーサンジゲンから日本のアニメ業界を牽引していく新人が育つよう、応援しています。ありがとうございました。