2011/09/28更新

リポーター/尾形美幸

今回のスペシャルリポートは、ゲーム・CG・映像業界を目指す、デザイナーやアーティストのためのポートフォリオやデモリールの作り方、というテーマで、前後編に分けてお届けします。

業界研究フェア2011で開催された、ポートフォリオのセッション

2011年9月6日〜8日にパシフィコ横浜で開催された、CEDEC(Computer Entertainment Developers Conference/日本最大規模のゲーム開発者向けカンファレンス)に合わせて、今年も『ゲームのお仕事』業界研究フェア2011が開催されました。3回目となる同フェアは、毎年、CEDECを主催するCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)が、経済産業省の委託を受けて運営してきました。主なターゲットはゲームに関係する仕事に興味のある学生で、仕事の内容や、業界の最新事情、就職事情などについて、実際に業界で活躍しているプロフェッショナルの方々が、セッション形式で解説するのが恒例となっています。昨年のようすは、本サイト内でも新さんがリポートしています。

1日に5セッション、3日間で合計15セッションが開催された今年の業界研究フェアのなかから、本リポートでは筆者がモデレータを務めた、「センスとスキルをアピールできる、ポートフォリオ(作品集)の作り方(Part 1)」(6日開催)、「同(Part 2)」(8日開催)の内容を紹介します。本セッションは、業界を目指すデザイナーやアーティストの就職では必須とされているポートフォリオやデモリールに関して、実際に採用に携わっているプロフェッショナルの生の声を、学生に届けたいという思いから企画しました。セッションは2部構成で、前半はゲーム会社やCGプロダクションの方々を登壇者としておまねきし、各社がポートフォリオやデモリールに求めていることを話していただきました。後半は現在教育機関で勉強中の学生に、ご自身のポートフォリオやデモリールを持参してもらい、登壇者の方々にレビューしていただきました。

学生に持参してもらったポートフォリオをスクリーンに投影しながら、レビューを行いました

ポートフォリオの制作経験がある来場者に挙手をしていただきましたが、まだまだ少数のようでした

登壇者の方々には、本セッションの準備段階で、とくにつぎのことを学生に伝えて欲しいとお願いしました。

・ポートフォリオを作る目的は何か?
・ポートフォリオは誰が、どんな視点で評価するのか?

6名の登壇者の方々は、セッションのなかで、これらの疑問にしっかりと答えてくださいました。前編では、6日に開催したPart 1に登壇いただいた、つぎの3名の方々のメッセージを中心にお伝えします。

・(株)セガ 第一CS研究開発部 第二デザインセクションマネージャー
  細川 一毅 さん
・ポリゴンマジック(株) 開発本部 プログラムプロセッション 技術研究準備室 室長
  南野 真太郎 さん
・(株)オー・エル・エム・デジタル ディレクター
  佐藤 誠 さん

なお、本セッションに先立ち、ポートフォリオの意味や実情を伝えるコラムをCEDECのWebサイトに寄稿しています。本リポートと合わせて参照いただければ幸いです。

グラフィックデザイナ採用には必須のポートフォリオの話

採用は、開発現場の具体的なニーズで決まる

セガ「龍が如く」チームで、アートディレクターを務めてこられた細川さん

細川さんは、セガの人気ゲーム「龍が如く」シリーズの制作チームで、アートディレクターを務めてこられました。最新作の「龍が如く OF THE END」では、ディレクターを担当しています。話の冒頭で、細川さんは同チームに採用された2名の新卒のポートフォリオとデモリールの事例を紹介してくださいました。


1人目は、モーションデザイナー志望者の事例でした。モーションデザイナーなので、デモリールで見せるモーションスキルが最大のアピールポイントでしたが、それでもセガに応募するのであれば、ポートフォリオも欠かせないと細川さんは強調しました。

「セガには毎年数千点の作品が送られてくるので、1作品の審査にかけられる時間は限られています。デモリールの内容が一覧できる、インデックス代わりのポートフォリオは必須だと思ってください」

この方は、学生時代からモーションデザインを中心に学んできたそうで、デモリールとポートフォリオの内容も、モーションのセンスや技術、経験のアピールが中心となっていました。本人の希望と作品内容が一貫しており、制作現場に入った後、どのような活躍が期待できるか、具体的に想像しやすかったことが評価につながったそうです。また、ゲーム作りには欠かせない、モーションキャプチャの運用に関する知識をもっていること、龍が如くチームのメインツールであるXSIに精通していることも、大きな採用理由となったそうです。

2人目は、エフェクトデザイナー志望者の事例でした。細部のデザインにまで気配りが行き届いたポートフォリオで、幻想的な雰囲気の作品から、作者の豊かな感性が伝わる内容でした。この方が採用にいたった大きな理由として、細川さんは、志望職種がエフェクトデザイナーだったことをあげました。

「龍が如くチームでは、当時手薄だったエフェクトデザイナーの増強が急務でした。そのため、エフェクトデザイナーのチーフの強力な推薦で採用が決まりました。このように、開発現場の具体的なニーズで採用が決まることはとても多いです」

キャラクターデザイナー、ステージデザイナー、モーションデザイナー、イベントデザイナー、エフェクトデザイナー、2Dデザイナーなど、ゲーム開発には多種多様なデザインパートがあり、それぞれに独自のニーズがあります。どういったパートで、どういった仕事をする素養があるのか、採用担当者に具体的にアピールするポートフォリオを作ることが有効な戦略だと、細川さんは語りました。

また、応募者の人気はキャラクターデザイナーとステージデザイナーに集中しており、これらを志望する人には、高い競争率のなかで勝ち残るセンスやスキルが求められることも認識しておいて欲しいとのことでした。

「ゲーム業界を目指すうえで、デザイン全般の総合力で勝負することは悪いことではありません。しかし『何でもできます』というアピールは、往々にして高い平均値を求められることを理解してください」

細川さんは、ポートフォリオやデモリールのなかで、漠然とした希望ではなく、自分のストロングポイントを明確に打ち出すことの重要性をとくに強調されました。セッション後半の学生作品のレビューでも、学生ごとに異なる強みや訴えたいポイントを効果的にアピールするための方法を、具体的にアドバイスしました。

志望する会社が作ったゲームやCG雑誌の制作事例などから情報を集め、会社の仕事内容と自分のストロングポイントとのマッチングを分析すること。そのポイントを、ポートフォリオでどのようにアピールするのが有効か、戦略を立てて考え、実践すること。そういったアプローチが大切だというお話が、とくに印象的でした。