2011/12/14更新

本連載ではゲーム業界の人材育成・キャリアパスについて、第一線で活躍されている方へのインタビューを通して、さまざまな角度から紹介していきます。第15回で登場いただくのは、イニスでレベルデザインチームを統括するT.Nさん。イニスにおけるレベルデザインの位置づけも含めて、お話を伺いました。

レベルデザイナーって何ですか?

レベルデザイナーは、文字通り「レベルデザインをする人」ですね。レベルデザインとは何かというと、一般的にはFPS(一人称視点シューティング)や、TPS(三人称視点シューティング)、アクションゲームなどの「ゲームステージの制作と演出」のことを指します。たとえばアクションゲームでいえば、ステージにブロックや敵を配置して、マップを作り上げていく仕事などですね。ゲームのおもしろさの鍵を握る仕事の一つです。

海外でゲームエンジン(※1)を用いた開発が普及する中、ゲームデザイナーが3Dツールでステージ制作を行うことが一般的になり、次第に「レベルデザイナー」という専門職に枝分かれしてきました。

※1 ゲームエンジンについては、本連載の第10回を参照。

イニスにおける「レベルデザイナー」の位置づけは何ですか?

イニスの最新作「The Black Eyed Peas Experience」でのレベルデザインを例に、説明しましょう。本作は、アバターを操作してダンスバトルを繰り返し、最後に世界的なヒップホップグループ「The Black Eyed Peas」に挑戦し、一緒に躍ることができるKinect専用のダンスゲームです。

こちらは、ステージ上をキャラクターが自由に動き回るタイプのゲームではありません。しかし、先ほどの「ゲームステージの制作と演出」と「ゲームエンジン」というキーワードに照らし合わせれば、イニスにおけるレベルデザイナーの役割が自ずと導き出せます。

イニスの最新作「The Black Eyed Peas Experience」は、アバターを操作してダンスバトルを繰り返す、Kinect専用のダンスゲーム

本作は、ゲームエンジンの「Unreal Engine 3」上で開発されています。イニスのレベルデザインチームは、ディレクターの指示のもとで、アーティストやプログラマと協業しながらゲームを制作し、最終的なルック(見た目)を統括するセクションです。ダンススポットの選択から、UI(ユーザ・インタフェース)、エフェクト、ライティング、シェーダー制作など、ルックに関する事柄はすべて担当します。ゲームエンジンという統一的なプラットフォームの上で、絵作りの最終的な責任をもつチームというイメージですね。レベルデザイナーは「ゲームステージの制作と演出」全般に携わり、最終的なゲームバランスとクオリティを左右するスペシャリストとして、重要な役割を担っています。

大まかなワークフローを教えてください

はじめにディレクターのイメージにもとづいて、アーティストがコンセプトアートを制作します。次にレベルデザイナーがコンセプトアートを確認し、スクリプターやプログラマと相談して実装手段を決めます。その後、モデラーやアニメーターに実装データの制作を依頼します。実際にモデルとアニメーションのデータを作る前に、AfterEffectsなどを使い、必要に応じてレベルデザイナーが動きのイメージを伝える動画を作ることもあります。

このようにイニスでは、レベルデザイナーがプログラマとアーティストの間を仲介することで、よりテクニカルな面でのスタッフ間のつながりが密になっている点が特徴です。個人的にはテクニカルアーティスト(※2)に近いのかな、とも感じますね。

※2 一般的にはプログラマとアーティストの橋渡し役として、3DCGのデータを制作するツールのサポートや、プラグインの開発、グラフィックス表現のサポートなどを行う職種のこと。本連載の第3回を参照。
さらに具体的な仕事内容を説明していただけますか?

たとえばステージの制作であれば、モデリングアーティストと相談しながら、プリビズ(※3)用にステージのメッシュ(※4)概要を作ります。その概要を使い、どんな風にダンススポットを回っていくのか、その際の背景はどうなるのかを事前に確認します。アーティストは、それをもとにステージの見える範囲を重点的に作り込むので、効率的なステージ制作が可能となります。

※3 プリ・ビジュアライゼーションの略。事前に映像制作の設計を行うことで、制作チームのイメージの共有や、開発の効率化が図れる。

※4 ポリゴンメッシュのこと。ここでは「粗いポリゴンモデル」の意味。

UIなら実際に触れることが大切です。そのため、アーティストが描いたコンセプト画をもとに、レベルデザイナーがUI間の遷移アニメーションや、モックアップ(※5)とよばれるイメージ動画を作ります。ディレクターのOKが出たら、それにもとづいてスクリプトチームと実装していきます。

※5 一般的には「外見を実物そっくりに似せた模型」のこと。ここでは「試作品」の意味。

ライティングやシェーダーといった、まさに「見た目」に相当する部分は、実際にレベルデザイナーがゲームエンジン上で調節していきます。開発の終盤では、ディレクターと直接やりとりをしながら進めていますね。

イニスのエフェクトアーティストは、アーティストチームではなくレベルデザインチームに所属しています。そのためエフェクトについても、エフェクトアーティストとディレクターが直接やりとりをしながら進めていきます。エフェクトは、画面を構成する大切な要素の一つです。最終的な画面の整理をする際に、同じチーム内で密に協力できるので非常に効率的です。

レベルデザイナーの魅力は何ですか?

ゲーム作りの最初から最後までかかわることができる点ですね。ゲーム作りの美味しいところをすべて堪能できます。たとえば最近注目度の高いスマートフォン向けゲーム開発の場合、小規模なプロジェクトであれば、レベルデザイナーを筆頭に、数人のスタッフで作り上げることが可能です。デザインとテクニカルの両面から、マルチに開発にかかわれるポジションだからこそ、「ゲームを作っている」感覚を味わい尽くせます。

昔からレベルデザインに興味がありましたか?

うーん、どうだろう。もともと僕は背景モデリング出身なんですよ。昔から街に興味があり、デジカメを片手に街をぶらつきながら、風景写真を頻繁に撮っていました。もともとゲームも好きで、3DCGを学びたくて入った専門学校時代に、背景モデリングに興味をもったんです。背景モデリングの仕事はゲーム画面に占める面積が大きいわりに、自分の色を出しやすいんですよ。キャラクターモデリングの場合、キャラクターデザイナーの意向が重視されることが多いですが、背景はそれほど縛られない。その分、自分の感覚やセンスを自由に表現できる気がしたんです。

実際に前職ではアクションアドベンチャーの舞台となる街のモデルを、1、2名の少人数でじっくり制作しました。その頃はレベルデザインの視点からモノ作りをする意識はあまりなかったです。将来、絵作りの全てを統括する役職を担当するようになるとは想像していませんでしたね。

レベルデザイナーになるには、どのような勉強が効果的ですか?

最近は、フリーのゲームエンジンをインターネットからダウンロードできます。それを使ったMOD(※6)作りなどを通して、自分なりに研究してみると良いでしょう。Unreal EngineやUnity、CryENGINEなどは、無償版が公開されています。

※6 Modificationの略。FPSなどの付属ツールを用いて、ゲームエンジン上で作られた自作ステージなどを指す。

日本のゲーム会社でも、こうしたゲームエンジンを用いた開発への関心が高まりつつありますが、これらに精通している人がまだ少ないんです。そのため直近であれば、ゲームエンジンに慣れ、知識を身につけておくことはアドバンテージになと思います。

それに加えて、イニスではレベルデザインチームが最終的な絵作りに責任をもつので、高いセンスが求められます。センスを磨くために、アンテナを高く張って、引き出しを広げて欲しいですね。知識の幅を広げるための取り組みとして、チームのメンバーが自分の関心のあることを教えあう「引き出しを広げる会」を定期的に開催しています。B級映画マニアだったり、おもしろいプロモーションムービーを色々と知っていたり、インダストリアルデザインに造詣が深かったり、さまざまな方向性の人がいます。そうしたアンテナの高い人が、レベルデザインチームに自然と集まっている感じもしますね。

Webプログラマをめざす学生にアドバイスはありますか?

頭の柔らかいうちにプログラムを勉強しておけば良かったですね。先ほど「テクニカルアーティスト」に近いといいましたが、実は僕自身はプログラムが書けないんです。Kismetという、Unreal Engine専用の簡単なスクリプト言語くらいは書きますが、それ以上はなかなか・・・。今になって独学しようと思っても、どうしても目の前の仕事を優先してしまいますからね。

学生時代に教わった先生の中に現役のテクニカルアーティストの方がいて、CGの授業時間の中で、プログラムの基礎も教えてくれたんです。今から思えば、あの授業は非常に貴重な体験でした。基礎を知っているだけでも、プログラムに対する抵抗感はずっと減りますからね。授業時間は限られていると思いますが、映像系の学生もプログラムの基礎を学べる場があると、将来の活躍の場が広がって良いと思いますね。