2011/10/13更新

本連載ではゲーム業界の人材教育・キャリアパスについて、第一線で活躍されている方へのインタビューを通して、さまざまな角度から紹介していきます。第13回で登場いただくのは、「Mobage」を展開するディー・エヌ・エー(以下DeNA)で、ソーシャルゲーム開発のチームリーダーとして活躍されている船橋慶充さんと、渡部紋歌さんです。ソーシャルゲームという新しい分野で求められるデザイナー像について伺いました。

自己紹介をお願いします

船橋:大手電気メーカでモバイル機器のインタフェースデザインやアートディレクションを9年務めた後、2011年3月に転職しました。現在は「Mobage」の内製ソーシャルゲームの中でも、スマートフォンアプリに特化したタイトルのデザインマネジメントとアートディレクションを担当しています。これまでに手がけたタイトルは「忍者ロワイヤル」「アクアコレクション」「牧場ホッコリーナ」「プティの王国」の4作です。

船橋さんが担当したクリエイティブ
(C)DeNA

渡部さんが担当したクリエイティブ
(C)DeNA

渡部:私はアパレル業界のWebデザイナーを経て2009年2月に転職しました。今はフィーチャーフォン向けに、ブラウザベースのソーシャルゲームを担当していて、クリエイティブのマネジメント全般と、ディレクションを行っています。これまでに手がけたタイトルは15作くらいで、代表作は「怪盗ロワイヤル」ですね。あと、スマートフォン向けの、ブラウザベースのゲームタイトルも担当しています。

シューマゲームと、ソーシャルゲームの違いは何ですか?【

船橋:ひらたくいえば、ソーシャルゲームとは、SNS上で遊ぶオンラインゲームです。コンシューマゲームとの違いは、ゲームを遊ぶのに特別なゲーム機や、ゲームソフトを購入する必要がないことですね。そのため、ユーザ層や、ゲームに対するユーザのモチベーションにも、大きな違いがあります。コンシューマゲームのユーザは、ゲーム機とソフトに3万円くらい投資して、クリアするまでに数十時間もかかるゲームを遊ぶモチベーションの高い人たちです。これに対してソーシャルゲームのユーザは、お店をのぞくような感覚で、ふらっと来て、隙間時間にちょこちょこと遊ぶ人たちです。この「ユーザ層」と「モチベーション」の違いが特徴です。

渡部:コンシューマゲームは基本的に売り切り型のビジネスモデルです。一方でソーシャルゲームは、リリースした後に発展していくことが大きな違いですね。ユーザにとっては、遊びながらどんどんコンテンツが増えていく楽しさがありますし、運営側は、ユーザの反応を見ながら、コンテンツの内容を徐々に変えていけます。開発期間も数ヶ月から半年くらいなので、長い場合は3年くらいの開発期間を要するコンシューマゲームと比較すると、非常に回転の早いビジネスモデルです。

ソーシャルゲームの作り方を教えてください

渡部:開発のスピードや体制以外は、基本的にはコンシューマゲームと同じだと思います。プランナーと、エンジニアと、デザイナーがいて、この三者がブレインストーミングをしながら企画を固めて、同時並行で作り始めます。DeNAのフィーチャーフォン向けのゲームでは、各セクション1名ずつ、合計3名の少人数で開発をスタートすることが多いです。

企画概要が固まったら、プランナーが仕様を固める一方で、エンジニアは仕様書なしでも進められる下準備を行い、デザイナーもキービジュアルなどを描いていきます。仕様書が固まったら、それに基づいて、エンジニアとデザイナーが本格的に作業を進めていきます。チーム人数は次第に増えていきますが、それでも最大で6〜7人程度ですね。

あと、ソーシャルゲームならではの要素がページ遷移図の存在です。特にフィーチャーフォン向けのソーシャルゲームの構造は、Webサイトの構造とよく似ているので、ホワイトボードに遷移図を描いていく作業がつきものです。エンジニアやデザイナーの作業にも影響するので、みんなで話し合いながら作っていきます。

船橋:スマートフォン向けのアプリゲームでも、基本的に作り方は同じです。アプリといっても画面数がかなり多いので、遷移図が必要になります。チームの人数はフィーチャーフォン向けに比べると、倍近く必要になりますが、それでも合計で10名ちょっとです。渡部が説明したように、企画・仕様・開発がほぼ同時に並行して走っていくので、いかに精度の高い仕様書を作れるかが、効率化の上で重要になりますね。

ソーシャルゲームはこれから、どのように進化していきますか?

渡部:業界自体がどんどん変化しているので未知数な部分もありますが、「ソーシャルゲーム」という枠組みではなく、ゲームにさまざまな形で「ソーシャル」という要素が組み込まれていく、組み込まれるのが当然、という流れになるのではと考えています。今は大半のゲームに「オンライン」の要素が組み込まれていると思いますが、それと同じイメージですね。

船橋:確実にいえるのは、今後も携帯端末の性能がどんどん向上して、映像の表現力もより進化していくことですね。それこそ、コンシューマゲーム機並みの性能をもつ携帯端末も、近い将来に登場するでしょうし、そうなればフル3DCGのソーシャルゲームも出てくるでしょう。コンシューマゲーム業界で培われたクリエイティビティはますます重要になっていきますし、ソーシャルゲームの開発者を目指す学生にも、同様に高いクリエイティビティが求められると思います。

その一方で、入力側の進化は我々も模索している段階です。ソーシャルゲームの場合は、ボタンをポンポンと押していくだけで、レベルアップしたり、アイテムがもらえたりという手軽さが重要です。入力が複雑になると、それだけで敬遠されがちなんです。アウトプットが派手になる未来は予想できても、インプットの未来はまだまだ未開の領域というところでしょうか。

ソーシャルゲームのデザイナーになるには、どういった勉強をすれば良いですか?

渡部:ソーシャルゲームは、Webサイトとコンシューマゲームの要素を合わせもつ、複合的なサービスです。専門学校などでは、Webデザイン科やゲームデザイン科といったコースに分かれていると思うのですが、現場ではある程度、双方のスキルをもっていることが求められます。もっとも、学生のうちに両者をマスターするのは難しいと思います。ですから学生の間は、ある1つの分野を習熟して、就職後に働きながら違う分野を勉強する、そんな意識で臨んでもらえると良いですね。

船橋:まずは、自分が興味をもって学んできた、ここが強みだという点を示せるようになって欲しいですね。もっともDeNAに限らず、まだまだソーシャルゲームは、各スタッフが専門分野の業務を行うだけでは完結しないところがあります。たとえば3DCGが得意なデザイナーでも、現状では、まだ2DCGのユーザインタフェースやアイテムなどを描く仕事も合わせて担当することが求められます。最初から全部できる必要はありませんが、徐々にハイブリッドな人に育っていって欲しいですね。

渡部:あと、プロジェクトの速度が非常に速いですし、他の職種とオーバーラップしながら開発や運営を行っていくので、コミュニケーション能力や柔軟性なども必要です。採用でもコミュニケーション能力や柔軟性の有無は重視しています。

船橋:今ではスマートフォン用のゲームなどは、個人でも作れますよね。ソーシャルゲームを作ろうとすると、サーバ運営などが必要になりますが、Flashベースのスタンドアローンのゲームなら、比較的手軽に作れます。学生のうちに、こうしたゲームを数多く作って、経験を積んでおくと良いですね。DeNAにも、学生時代に有名アプリをリリースしていたクリエイターが何人かいます。

学生時代にやっておいた方が良かったことはなんですか?

船橋:英語ですね。たとえば「忍者ロワイヤル」は日本だけでなく、グローバル市場向けのタイトルという位置づけなので、海外のデザイナーと協業で制作しています。背景やキャラクターは海外のデザイナーが作り、ユーザインタフェースやアイテムなど、エンジニアと密接な打ち合わせが必要な素材は、日本側で作るという分担です。そのため一日の半分くらいは英語でディレクションをしています。

前職でスウェーデンに3年弱居住していましたし、帰国後もアメリカ向けの仕事が中心でしたので、ほぼ英語で仕事をしていました。ただし、会社に入ってから必要に迫られて勉強したので、もっと学生時代に英語を勉強しておけばと痛感しました。人間、必要に迫られないと勉強しませんし、自分の強みを明確にするという意味でも、一度海外に出ることは重要かなと思います。

渡部:私も同じですね。私の部署では、英語で仕事をする必要は今のところありませんが、グローバル市場でナンバーワン企業になることを標榜しているので、自分で英会話学校に通って必死に勉強しているところです。もっとも語学以前に、クリエイティブに関するグローバルなセンスが欠落しているという自覚もあるんです。そのため、学生時代に海外に住めば良かったと思うこともあります。

学校に対する提言はありますか?

渡部:今年の8月に私たちの部署で1ヶ月間、インターン生6名を受け入れたんです。受け入れに向けて専門学校生を約30名面接したんですが、その時に学生の画一化を強く感じました。たとえばゲームのデザイン画の場合、ほとんどの学生がキャラクターデザインを描いてきたりだとか、作るものが似ていたんですよね。

就職のため、現場ですぐ使えるスキルセットを習得させることを重視した結果により、平均化してしまったのかもしれませんが、学生一人ひとりの個性や、オリジナリティを伸ばすような教育をお願いしたいです。たとえばキャラクターデザインにこだわらないとか、アプリを作って配信してみるだとか。

先ほど、ソーシャルゲームではWebサイトとコンシューマゲームの両方のスキルセットが必要になるといいましたが、同じように学校でも、複数の分野にまたがるコースを新設したり、産学協同の取り組みなどを、もっと進めて欲しいですね。

船橋:自分自身を振り返っても、学生時代は好き勝手なことばかりしていて、いよいよ就職だという時に、あわてて業界研究などを始めたんです。今の学生も同じように、自分自身の個性や強みを、よくわかってない場合が多いんじゃないでしょうか。そんな中で周りと同じような生活をしていると、影響されあって、均質化されちゃうと思うんですよね。なので先生方には、学生の良いところを見つけて、そこに気付かせて、伸ばす後押しをしてあげて欲しいです。

それから、モノ作りが本当に好きな人じゃないと、仕事を続けていくことが辛い環境だと思うんです。開発スピードが速いので、それなりにタフな局面も多くあります。だから、モノ作りが苦にならない人が良いですね。その上で、色々な人と連携しながら日々の仕事をこなしていくことが求められるので、高いコミュニケーション能力も必須です。両者を兼ね備えたデザイナーになることは大変ですし、DeNAとしても、デザイナーたちをサポートし、スキルアップ支援できるような仕組みをこれから作っていくつもりです。一方で、業界を目指す学生や先生方にも、こうした点を気にとめていただければ嬉しいです。