2011/07/20更新

神奈川工科大学の講演会場

本連載ではゲーム業界の人材教育・キャリアパスについて、第一線で活躍されている方々へのインタビューを通して、さまざまな角度から紹介していきます。第11回で取り上げるのは、いつものゲーム業界ではなく、ハリウッドの映画業界です。ScanlineVFXでエフェクト・テクニカル・ディレクターとして活躍されている、村上勝和さんにご登場いただきます。

村上さんは高校卒業後数年を経て、単身アメリカに留学し、そのまま現地で就職した経歴の持ち主。ゲーム業界でも海外との協業が増えており、今後は海外の開発スタジオに就職したり、転職する例も増えると考えられます。村上さんのお話は、映画業界はもちろん、ゲーム業界を目指す学生にも参考になる内容です。

なお、本稿は5月28日に神奈川工科大学で行われた、村上さんの講演「アメリカ学生生活、就労生活、そして映画のビジュアルエフェクト」の内容に基づいてリポートしています。

ハリウッド映画でCGエフェクトを担当しています

これまでに、映画「ナルニア国物語/第2章」「2012」「ガリバー旅行記」などのVFXを担当しました。「2012」では、大津波が襲ってきた直後の俯瞰シーンをメインで担当しています。現在は今秋に全米で公開予定の映画「Immortals(インモータル)」のVFX制作を手がけています。

弊社はドイツのミュンヘンに本社があるCGスタジオで、ハリウッドの大作映画向けに、炎や嵐、海洋といった、フォトリアルなVFX(※1)を制作しています。特に流体シミュレーションを駆使したVFXでは、世界でもトップクラスの技術を有するスタジオとして知られています。2008年にはロサンゼルスに支社が設立されました。僕は普段、ロサンゼルスで生活していますが、映画「2012」の制作時にはミュンヘン本社に長期滞在しました。

※1 VFX:Visual Effectの略語で、主にCG技術を使用したSFX(Special Effects=特殊効果)の意味。

「ターミネーター2」で衝撃が走りました

高校時代は数学・物理が大好きな理系タイプで、大学もロボット開発志望でした。一方で子供の頃からハリウッド映画が好きで、中でも中学生の時に観た「ターミネーター2」は衝撃的でした。その後も沢山のハリウッド映画を見る中で、だんだんVFXに対する関心が高まってきたんです。それで高校卒業後、数年間の社会人経験を経て、VFXアーティストをめざしてロサンゼルスに留学しました。両親からは大反対されましたが、最後は許してもらえました。

英語の文法には自信がありましたが、ヒアリングとスピーキングは苦手でした。そこで日本にいる間に、この2つを集中して学べる英会話学校に半年間通いました。その一方でTOEFL(※2)の試験も受けて、2回目でようやく留学に必要なスコアに達しました。

ただ、英語は一生勉強が必要だと思っています。英単語を覚えるなら『DUO』という書籍が最強ですね。また海外テレビドラマ「ビバリーヒルズ高校白書」は、アメリカの学生生活を舞台にした名作ですし、英語の勉強にもなるのでお勧めです。

(※2)TOEFL:英語圏の大学への留学などを希望する者を対象とした、英語能力を測定するテスト。学校によって必要な獲得スコアが異なる。

はじめに短大に入り、続いて四年制大学に編入しました

ロサンゼルスにある、サンタモニカカレッジという短大に留学して、3Dキャラクタ・アニメーションと、エンタテインメント分野のコンピュータ・アニメーション全般を学びました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の近くにある寮で暮らしていて、約400人の学生のうち、アメリカ人が半分、留学生が半分でしたね。月曜から木曜まで必死に勉強して、金曜の夜から土曜日は徹底的に遊ぶ。そして日曜は試験勉強をする。そんな毎日でした。勉強と遊びはどちらが欠けても、あとで後悔すると思います。

さらに当時、外国人である僕が一般的な就労ビザを取得するためには、四年制大学の学位がどうしても不可欠でした。そのため、卒業後サンディエゴにあるプラットカレッジに編入し、メディアアートを専攻しました。そこを9ヶ月で卒業して、映画業界に入ったんです。

手描きアニメとCGの2つの授業がありました

大学でのCGの授業は、コンピュータを使わない表現から始まりました。ペンや鉛筆で日常生活やモデルさんをドローイングする。ストーリーボードを描く。ストーリーボードをもとにして、秒間15コマ程度のパラパラ漫画(アニマティック)を作る。こういった伝統的な手描きアニメの授業が1年間ほど続きました。

村上さんのドローイング作品

学生時代の村上さんの作品

それが終了すると、コンピュータを使った授業になりました。モデリング、テクスチャ、レンダリングなどの科目がたくさんあって、自由に選択して履修していきます。「Maya1」「Maya2」というように、同じツールでもステップに分かれていて、ある授業で一定以上の成績を修めないと、次の授業に進めないようになっています。それら以外に、自由に選択できるオプション科目もありました。

実力があれば、どんどん飛び級していけます

前述の場合とは逆に、授業を受けるまでもなく内容を理解できているのに、履修しないと次の授業に進めない、なんてこともありますよね。その時は教授に作品を提出して、実力を認められれば、その授業の履修をパスできるんですよ。すごくまれなケースですけど、実力があれば、こんな風にどんどん飛び級していけます。卒業までの道は、日本のようにワンパターンではないんです。

一方で学生たちは、履修したい授業を取りながら、在学中、または卒業間近に、デモリールを作ります。それを制作スタジオに送って、インターンや就職が決まったら、たとえ卒業前でも学校に来なくなるんですよ。学期の途中で学校を一時中退しても、中退した学期から、すぐに復学できるんです。中退してRhythm&Huesなどの大手スタジオでの制作に加わった知人もいます。つまり、実力があれば学歴は問われない。仕事が一段落してから、再び学校に戻ってくる人もいますね。

DVD教材を販売している専門学校もありますよ

余談ですが、The Gnomon Workshopという、CG教育に特化した専門学校がハリウッドにあります。講師陣が非常に優秀で、レベルが高いことで有名です。プロとして活躍しているアーティストでも、自分のスキルアップのために夜間コースに通ってくるほどです。もっとも授業料も非常に高いのですが。

ただ、この学校はDVD教材も販売しています。アメリカで最も優れたDVD教材で、僕もいくつか所有しています。英語での解説ですが、ツールの使い方などを映像で見せてくれるので、だいたい内容は理解できると思います。Webサイトから購入できるので、興味があればチェックしてみてください。

インターンシップで業界に入るのが一般的です

アメリカは実力社会で、日本のように新卒一括雇用といった慣習もないので、最初に業界に入る時が一番大変です。そのため、学生期間中に無給のインターンシップ枠に応募します。そこで認められればアルバイトになり、社員、またはフリーランス契約へとステップアップしていくのが一般的です。大学の掲示板にはインターンシップ募集の張り紙があり、自由に応募できます。そこで重要なのが、自分の作品をまとめたデモリールです。

僕も在学中に100~200社くらい、手当たり次第にデモリールを送って、はじめにNGTVというCGスタジオにインターンシップで入りました。そこで実力を認められて、アルバイトから社員になりました。NGTVで1年間働きながら実力を磨き、再び新しいデモリールを制作して送付という、抜き差しならない努力を重ねた結果、現在勤務しているScanlineVFXに社員として入ることができました。ハリウッドのVFX業界への就職やビザ取得に関する情報は、映像ジャーナリストの鍋潤太郎さんの書籍『ハリウッドVFX業界就職の手引き』を参考にすると良いかもしれません。

アメリカはレイオフ(解雇)が頻繁にあるので、プロでも次の仕事を探すために、常にデモリールを作っておく必要があります。自分のWebサイトを作って、作品をアップロードしておき、いつでもアピールできるようにする、などの姿勢が重要ですね。

デモリールはベストショットだけで構成しましょう

デモリール作りで大切なのは、2分から3分以内にまとめることと、自分の希望職種に関係する作品で、最も自信のあるものを先頭に入れることです。僕の場合はVFXアーティスト、専門はエフェクトなので、デモリールの前半は過去に手がけた映画のエフェクトショットを並べています。後半はプライベートで作った映像を入れて、エフェクト以外のスキルについてもアピールします。とはいえ、あくまで冒頭の部分が最も大切です。

村上さんの作品

各スタジオの採用担当者の元には、毎日100通くらいのデモリールが届きます。そのためデモリールを観てもらえる時間は、1本につき1分くらいしかないんですよ。短くて良いので、デモリールには自分のベストショットだけを入れるようにしてください。

スタジオには、世界中からCGアーティストが集まっています

スタジオで勤務するスタッフの数は、プロジェクトによって大きく変わります。現在は70人くらいがフリーランスで、正社員は10人くらいです。社長はドイツ人で、ほかのスタッフは、マレーシア人、韓国人、オーストラリア人、カナダ人、イタリア人とブラジル人のハーフなど、世界中から集まっています。公用語は英語で、仕事の指示が理解できるくらいの語学力がないとつとまりません。ソフトバンクの孫正義さんが提唱されていましたが、国語、英語、IT語の「3種類の言葉」が仕事に必須とされる時代がやってくると思います。

一般的に、1つの映画作品につき、半年くらいの時間をかけます。映画の目玉となるフルCGショットの場合は、200回くらい作り直すこともあります。1ショットが50レイヤーくらいに分かれていて、場合によっては細かい要素を20パターンくらい作ります。合計するとバージョン数が400~1000くらいに達することもありますね。基本的には自分の専門作業の繰り返しですが、1人で10ショットくらい担当しますし、常に新しい技術を追加、学習しないといけないので、毎日が刺激的です。

ちなみにゲーム業界は、1人のCGアーティストがさまざまな役割を任され、プロジェクト全体を見ることができる機会が多いようです。同じアーティストでも、映画は専門性が強く、さらに映画全体のほんの数分を担当することがほとんどです。どちらが合うかは、その人の好みによると思います。

アメリカは徹底的な実力社会です

アメリカでは、実力がある人はどんどん伸びます。階段を10段飛ばしくらいで駆け上がっていく人も珍しくありません。そのため、実力を試したい人には最適な国ですね。逆に実力がない人は没落する一方です。日本と違って保険制度に加入できない国民も多く、そういった人たちは病気にかかると苦労しますね。入院するだけで、1日20万円くらい請求されたりしますから。

それからアメリカは自由な国だと言われていますが、意外な面も多く、路上や海水浴場で飲酒したり、夜中などに花火をすると逮捕されます。また、車がないと身動きが取れないですね。こういった点は日本と違うところです。

大きな夢をもち、努力を重ねて、チャンスを活かしてください

学生の皆さんは、大きな夢をもってください。実際に、社会に出た後の現実は厳しく、夢はせいぜい75%くらいしか叶わないと思います。「卒業後は、普通にどこかの企業に就職できたら良い」といった程度の夢しかもっていないと、結局は就職すらできないでしょう。絶対に第一希望のスタジオに、第一希望のポジションで採用される。それから独立して、将来はこんなビジョンで仕事をする、といった大きな夢をもって就職活動に臨んでください。

さらに、努力と運と成功について意識してください。努力は人の3倍やるつもりでいること。その上で成功するには運も必要です。努力して技術を蓄積しておけば、チャンスが来た時に逃さず捕まえられます。そして成功するまで諦めない。当たり前のことですが、とても大切です。実際の話、学生時代の寮で知り合った外国の友達の中で、アメリカ就労を望んでいた人のほとんどが母国に帰ってしまいました。そんな現状でも自分はやってやる、という固い決意がある人は、ぜひ海外(アメリカ)を目指して欲しいと思います。

自分の将来だけでなく、社会への貢献も意識していきたいですね

最後に、僕の夢についてお話します。まずはビジュアルエフェクト・スーパーバイザーになりたいですね。10年くらいで叶えたいと思います。それから何年、何十年かかるかわかりませんが、監督になって、観た人が勇気づけられたり、幸せになれる作品を作りたい。過去の自分より一歩でも前へ、そして一歩でも目標へと近づいていく。その姿勢が大事であり、結果的に監督になれなかったとしても、またそれとは違った境遇で人生に勝利することができると確信しています。

仕事を選ぶ時は「好きであること」「生活ができること」「社会に貢献できること」という、3つの要素を満たすことが大切だと思います。自分の将来だけじゃなくて、社会への貢献も意識する。そういったことを考えられるような、大きな人間になりたいですね。