スタッフのモチベーションにも配慮した、チームマネジメントの実践
貴重な経験を得た、リーダーやシニアデザイナーとしてのプロジェクト参加
学生時代に、共同作業の感覚を経験しておいて欲しい
最初の3 年間は大いに振り回され、自分の力を見極めれば良い
前編では、就職への戦略的アプローチとして、デモリールやポートフォリオに掲載する作品は1人で作るべきだと紹介した。しかし、将来プロとして働きたいのであれば、学生時代に集団での共同作業を経験して欲しいと元生さんは話す。

「CGに限らず、学生時代に共同作業に取り組む機会があれば、実践しておいて欲しいです。プロダクションに入れば、必ず共同作業が発生します。他人と苦しい思いを共有し、その先の大きな喜びを目指すという感覚を、実際に経験しておいて欲しいですね」
チームで何かを成し遂げる喜びを知る。これを経験している人間と、していない人間では大きな違いがある。チームスポーツの部活を経験している人ならば、周りの足を自分が引っ張らないために、どの部分を磨くべきか、どのようにスキルアップするべきか、考えた経験があるだろう。プロダクションにおけるスキルアップも、ベースとなる動機は同じといえる。
では、スキルアップに繋げるため、元生さんは実際に何を行っているのだろうか。
「それほど特別なことではないですが、映画を週に3本、必ず観ると決めています。CGを多用している作品はほとんど観ますし、それ以外の作品も、邦画洋画に関わらず幅広く観るようにしています。それらの情報を頭の中にストックし、いつでも引き出せるようにしておくといった感じですね」
また、ストーリーテリングの力を強化し、社会人としてのビジネススキルや教養を身に付けるため、本をたくさん読むように心がけてもいるそうだ。このように、クリエイターとしての情報感度を高める努力を日々続けている元生さんだが、テクニカル面に関しては、どのようなアプローチを実践しているのだろうか。
「最近NUKEを使ってみたいと感じています。社内でも同じような声を頻繁に聞くようになりました。ただし、DFではAfter Effectsで強固なパイプラインを構築しているので、リスクとコストを考えると簡単には導入できないと思っています。10名くらいの専門チームを編成して、導入に向けたR&Dなどができればベストかもしれないですね」
「自分の好きな言葉に『徒然草』の150段 “能をつかんとする人”があります。そこには『上手い人のところに飛び込んで、いっぱい恥をかきなさい』といったことが書かれています。学生時代に読んで、なるほどなぁと思いました。『恥ずかしいから』とか、『実力がないから』と自分で判断する前に、『実力がないからこそ、プロの中で自分を磨く』と考えるようにしました」
大学や専門学校でCGを学んでも、実際に業界へ就職する人間は多くない。昨今は業界に関する情報が充実しているため、それらの影響で業界を知り得た感覚に陥り、就職を諦める学生が多いのではないだろうか。しかし、情報だけで自分に向いていないと判断するのではなく、まずは実際に業界に入り、経験することが重要だろう。
「自分も最初は業界で働くことに対して、ビビりまくっていました。だから学生のためらう気持ちは理解できます。でも、中途半端なイメージだけで自分の可能性を殺さないで欲しいですね」
前述したように、元生さんは自身の経験も踏まえた上で、就職したら3年間は頑張って欲しいと、業界を目指す人達へのアドバイスを語った。
「3年間頑張れば、業界のことや、その中での自分の立ち位置などが見えてきます。中には3年未満で、キャリアアップのために転職される人もいますし、CG業界から離れる人もいます。ですが、一生CGをやっていくならキャリアは30年以上続きます。最初の3年間なんて、たいしたことはありません。大いに振り回されてみれば良いと思います。いずれその先に、自分がやりたいことや、自分に合ったものが具体的に見えてくると思います」
3DCG制作は昔に比べると高度化・複雑化が進んでおり、業界を目指す学生は、どこから手を付ければ良いのかと悩んでしまうことも多いだろう。しかし、思い切って飛び込んで来て欲しいと元生さんは語った。今後は日本でも高度なCG・VFXが作れる時代が到来することは間違いない。自分の肌で、それを直接体感して欲しい、という言葉で話を締めくくった。

CG-ARTSリポートは「人材育成」、CGWORLD.jpは「ワークフロー」の視点から、今注目のプロダクションのリポートを、それぞれのサイトで紹介しています。


1973年、京都出身。1997年に新日軽株式会社に就職するも、PCブームでクリエイティブな情熱に火がつき2001年にデジタルハリウッドに進学する。卒業後は株式会社デジタル・フロンティアに入社し、ゲームから映画まで数多くの作品に参加。携わっている業務ポジションもモデリング、レンダリング、アニメーション、コンポジットと幅広く、現在はシニアデザイナーとして活躍中。プロジェクト全体の進捗状況とクオリティを把握し、ディレクターの意向と照らし合わせつつ、期日内に間に合わせるべく日々奔走している。
【主な参加作品】
Xbox『ディノクライシス3』(2003)、PS2『ゼノサーガ エピソード II [ 善悪の彼岸 ] 』(2004)、PS2『ネオコントラ』(2004)、映画『真夜中の弥次さん喜多さん』(2005)、映画『亡国のイージス』(2005)、PS2『新 鬼武者 DAWN OF DREAMS』(2006)、PS3『メタルギア・ソリッド4・ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』(2008)、映画『バイオハザード ディジェネレーション』(2008)、映画『GANTZ』(2011)、映画『GANTZ PERFECT ANSWER』(2011)、映画『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』(2011)ほか多数