孵化日記

デジタルメディアとネットワーク技術の発展は、私たちが暮らす世界を包括するような一種の「メタメディア」を形成し、コミュニケーションをはじめとする私たちの日常生活を支える様々な活動の基盤へと成長した。……などというのは実はほとんど錯覚かも知れない。インターネット上で得られた断片的な情報を頼りに、どうやら森に暮らしているらしいチョウをたどたどしく探し求める様を捉えた本作は、その過程において、圧倒的に広大で、細密で、多層的で、そして恐るべきスピードで変化する世界の姿を瑞々しく描き出すことに成功している。そして、自然の前に露呈される作者のマッドな不器用さ。それは彼女だけのものではなく、今日に生きる人間全体のものなのではないか。
(渡邉朋也)

何の前置きもなくとことん独特な抑揚でナレーションが始まったので、最初は天才小学生の自由研究が送られてきたのかと思った。その後、ビニール傘をビニール袋と言ったり、映像の構図がキマリまくっているのをみて、フェイクドキュメンタリーなのだと思った。(虫食いの葉っぱがスマイルマークになっているところとか。)何回か観た今でも、どこまで本気でどこまで本気じゃないのか分からない。自分が何を観ているのかわからないという体験を可能にしてくれる危ういバランスが素晴らしい。そのバランスに平衡感覚を揺さぶられつづけた後に訪れる孵化シーンはCGかと思うくらいにとことんきらめいていて、世界は魔法のような現実を寄せ集めてできたものなのだということを素直に実感させる。
(土居伸彰)

青柳 菜摘
東京藝術大学
映像