2011/09/14更新

フレイム 山崎伸浩さん インタビュー 〜前編 コンペに出すことはメリットしかない!〜

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/弘田充

前回に引き続きお送りする、株式会社フレイムでリードデザイナーを勤める山崎伸浩さんのインタビュー。後編では、山崎さんがプロになってから思うことや、現在CGを学んでいる人たちへのアドバイスを中心にお伝えしていく。

仕事を通じて目指していること

前編でも若干触れたことだが、キャラクタ表現よりも、近未来的でファンタジックなランドスケープを描くことにカタルシスを覚えるという山崎さん。そのための表現手法として3DCGを選択したわけだが、CGへの造詣を深めていくにつれフォトリアルなVFXだけでなく、ダイナミクスなどを用いた複雑なモーショングラフィックスへの関心も高まってきたという。

「僕はCGを武器にしたデザイナーなので、やはり3DCGならではの表現というものは常に意識しています。以前、ある音楽もののゲームタイトル向けの映像制作を演出込みで担当させていただいたのですが、このプロジェクトでは、暗闇の中に光のラインが入ってきてステージができあがっていくという抽象的なラインアートを、一般的な2Dベースのモーショングラフィックスではなく、SoftimageのICEなどを用いて3DCGで作り込みました。音楽とのシンクロにも自分なりにこだわったので、思い出深い作品になっています。こうした表現もチャンスがあれば積極的にやっていきたいですね」

海外ではPsyopMotion TheoryLOGANなどに代表される、 3DCGを積極的に用いた複雑なモーショングラフィックス表現を売りにしたスタジオがいくつも存在するが、日本ではまだまだ少ない。それゆえに山崎さんはこの領域を切り開いていきたいのだという。そうした思いもあってか、昨年末に公開された『トロン:レガシー』のレトロフューチャーなデジタル表現には大きな感銘を受けたそうだ。

『トロン:レガシー』

「もちろん、実写映画のVFXやゲームタイトルのアニメーション制作にも参加させていただいており、フォトリアルなVFXについても日々勉強中です。近頃は海外のゲームタイトルの映像クオリティが凄く高くて、去年観たものだとBlur Studioが手掛けた『Star Wars: The Force Unleashed II』トレイラーの素晴らしいでき映えには本当に驚かされました。感心ばかりしてもいられないので(笑)、この会社と一緒に自分もレベルアップしていければと思っています」

『Star Wars: The Force Unleashed II』E3 2010: Exclusive Betrayal Cinematic Trailer


山崎さんは、近年の海外勢によるハイクオリティなゲームトレイラーも時間があれば勉強のために観ることを欠かさないという。こうした常日頃から新しい技術や表現に接する心がけは、R&Dの一貫といっても過言ではないだろう。プロを目指す学生諸氏は今のうちから実践することをお勧めしたい。

とはいえ、仕事をしながら国内外の最新映像や新しい技術をキャッチアップしていくのは難しいもの。山崎さんの場合はどのように時間を確保しているのだろうか。

「R&Dというと大げさですけど、仕事で必要に迫られて調べるだけでなく、日頃から表現や技法の勉強は心がけたいと思っています。ですが、僕もやっぱりなかなか実践できませんよ(苦笑)。仕事とは関係なく、自分の腕を磨くための時間も確保していくのが今後の課題ですね。そんなわけで、今のところは、『CG Society(The Computer Graphics Society)』『3D Total』や、フレイムのメインツールがSoftimageなので『XSI Base』あたりは定期的にチェックするようにしています。また、フレイムでは『STASH』 を定期購読しているので、最新の表現を知る上で重宝していますよ」

まだ1回しか開催できていないそうだが、社内の有志による「STASH勉強会」を開いたりもしているとのこと。このように新しい技術をキャッチアップする姿勢は、ツールの仕様に縛られることなく、自分が目指す表現を具体化していくためには欠かせない素養である。実は山崎さん、デジタルハリウッド(※以下デジハリ)時代からツールに縛られずに表現を追究することを実践していた。

「デジハリ時代はMayaを使っていました。卒制の『扉』では、壮大な景観を描きたかったのですが、当時の力量では、Mayaだけで納得のいくビジュアルを実現できませんでした。そこで何か方法はないものかと自分なりに制作手法を調べていたところ、自然景観制作ソフトのVueの存在を知りました。デジハリに限らず、専門学校にはそうした特殊なソフトを置いていないものですが、直感的に『これが必要だ!』と思ったので迷わず自腹で購入しましたね。結果的に表現としても作業効率的にもクオリティを高めることができたと思っています」

もちろん、市販のソフトやプラグインを探すだけでは本当の意味での“ツールの制約から解き放たれた”とはいえない。山崎さんも、仕事をする上では、ツールだけでなく、作業アプローチの方法もできるだけ多くもつことが大切だと語る。

「例えば、映画『252 生存者あり』(2008)のVFX制作に参加させていただいた時は、水飛沫、煙、炎といった各要素を表現する上で、実写素材(=地割れ、煙など)、MayaのFluid、Softimageのパーティクルといった幅広い選択肢の中から、作業コストに合わせ、煙であれば全体はMayaのFluidで形作っておき、ディテールは実写素材を重ねて独特のニュアンスを加えるといった具合に、要素ごとに最適な手法を選び、ひとつのVFXショットにまとめ上げました。もし、ひとつの手法に縛られていたら、より多くの時間を浪費してしまったと思います」

業界を目指す学生からは、「どのソフトウェアを使うのが良いのか(つぶしがきくのか)」という質問がよく出される。しかし、これほどナンセンスな質問はない。デジハリ時代はMayaを使っていた山崎さんは、フレイム入社と同時にSoftimage XSIを使い始め、現在に至る。最初に学ぶツールは、どれでもかまわない。基本をしっかりと押さえておけば、後からの応用はいくらでも可能なのだ。もちろん相応の努力は必要だが、ゼロからCGを学ぶよりも効率よく習得できるのは間違いない。壁に突き当たっている人は、ツールの制約に自らの表現が縛られていないか、今一度見直してみるべきだろう。