2011/09/14更新

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/弘田充

最初から教わろうとするのではなく、まずは自分なりに考えてみる

ツールに縛られない応用のきく学び方、つまり基本をしっかりと抑えておくことの重要性を、山崎さんは強調する。その学びの姿勢として、一見すると相反しているとも取れる2つの姿勢が重要だと話す。

【1】まずは自力で解決することを目指す
【2】そして、人に教えを乞う

「例えばツール操作でエラーが出た場合、『エラーが出ました。どうすれば良いですか?』ではなく『○○の作業をしていたらエラーが出て、このように対処したんですが解決できませんでした』というように、一度自分で原因を究明することが大事だと思います。逆にひとつもパラメータを触らずに『わかりません。どうすれば良いですか?』と聞きにくる人の感覚が、厳しい意見かもしれませんが、僕には理解できません。まずは自分の力で問題解決に挑戦することが大事だと思います」

だからといって、何時間も何日も解決できない問題に立ち向かう必要はない。闇雲に自力での解決に固執することは、無駄に時間を浪費するだけで逆効果になるからだ(仕事の場合はなおさらである)。

「自分だけで抱え込まずに、わからないことはきちんとわかる人に聞くという姿勢も欠かせません。ただし、教えを乞う前に一度は自分なりに問題に向き合うこと。この順番が非常に重要ですよ」

問題を列挙し、その中から本当に解決できないものだけをピックアップして、それらに対し教えを乞うことで効率的に問題を解決していくという、いわば社会人としての基本でもあるコミュニケーションスキルの向上がポイントともいえるだろう。また、この点において山崎さんは『教わる』と同時に『教える』ことでコミュニケーションスキルの向上が図られるとも話す。

「お互いに教え合う、つまりディスカッションすることで、より効率的に問題が解決できる場合も多いですよ。教えるということは、一回自分の頭の中で理論が再構築されるということです。他者に説明できるようになった問題に対しては、おのずと理解も深まるわけですね」

自分の殻に閉じ籠もらず積極的にディスカッションを繰り返す。それによって新たな表現や制作手法を発見できることも多いはずだ。

「そして、ぜひ学生の皆さんに心がけてほしいのが、作業をする上では『なんとなく行き当たりばったりに進めるのではなく、しっかりと最終的なイメージをもった上で制作すること』ですね。最終的なイメージと聞くと、ディテールまで細かく思い描く必要があるように感じるかもしれませんが、そうではなく“核”となるものを明確にしておくということです」

加えてプロになってからも役立つ資質を養う上では、実際にコンテンツ制作の現場で活躍する、あるいは相応のキャリアを築いてきた人が、教育者として自身の経験を学生に伝えることができれば、より有意義だろうと語る。

「語弊があるかもしれませんが、自分の経験上、プロの現場で働いたことがない人の指導はどうしても実用性の面で限界があるように感じています。CG・映像に限ったことではありませんが、新しい技術がどんどん登場して、それに応じて作業フローも変わっていくものなので、現場のトレンドやニーズを学習の場にリアルタイムでフィードバックしていける方に教壇に立っていただくのは効果的だと思いますよ」

前編でも触れたが、実際に山崎さんもデジハリで当時講師を務められていた北田能士氏(フレイム取締役)から学んだことが、卒業制作だけでなく、プロになってからも役立っているという。

改めて高まるオリジナル作品の制作意欲

山崎さんが在籍するフレイムでは、現在、向こう2年の目標として“30人規模の組織に有効なプロダクション・パイプラインの確立”を掲げているそうだ。これまでのフレイムは、ほぼ全ての社員がデジタル・アーティストだったが、この新たな目標にともない、技術や制作管理など、従来はいなかったスタッフが参加することになった。それと同時に、山崎さんも1人で作業を完結するのではなく、リードデザイナーとしてディレクションを担当するようになり、より広い視点で活動する機会が増えているという。

「後輩も大分増えましたし、チームを率いる立場にもなりましたので、ディレクション力の向上を心がけています。もちろん、1人のデジタル・アーティストとしてもさらにレベルアップしていきたいと思っていますよ。具体的なスキルとしてはまずSoftimageのICEをマスターしたいですね。あとは、現在フレイムでNukeの導入を検討しているので、今のうちから時間をみつけて、自分なりに勉強しておきたいなと考えています」

責任ある立場になった分、自分が手を動かす時間を確保するのが難しくなってきたという悩ましい面もあるそうだが、1人では成し得なかったより大きな表現に取り組めるようになったことで、やりがいを感じているという。そして、さらにその先の目標として新たなオリジナル作品の創作にも挑戦したいと語る。

「『扉』という初めて挑戦したCGアニメーションがきっかけで、現在の自分がいるわけですが、裏を返すとまだ1本しかオリジナル作品を作っていないんですよね(苦笑)。ディレクションまで担当させていただく機会が増えたことで、最近は、改めてオリジナル作品への創作意欲が高まってきています。幸いフレイム自体に、会社の知名度を向上させて、より良い仕事をしていくためにも、渾身のオリジナル作品を作ろうじゃないかという考えがあるんです。社内公募などがあれば、ぜひ挑戦したいですね」

リードデザイナーからディレクターへ、さらには新たなオリジナル作品の制作を目指す山崎さん。次の世代の担い手としてさらなる飛躍に期待したい。