2011/10/19更新

リポーター/尾形美幸

デモリール作りの戦略として、希少価値を考えてみる

ポリゴン・ピクチュアズで制作部の責任者を務めている村本さん(左)と、採用を担当している兼松さん(右)

ポリゴン・ピクチュアズは、映画やCM、ゲームなどの3DCG映像を制作するプロダクションです。同社の制作部で責任者を務められている村本さんと、経営管理部で採用を担当されている兼松さんに、送られてくるデモリールやポートフォリオの傾向と、採用側がチェックするポイントについて、紹介していただきました。

話の冒頭で、兼松さんは2011年の春にエフェクトアーティストとして採用された、新人のデモリールを見せてくださいました。

「エフェクトが好きなんだなぁ、という思いが伝わってくるデモリールです。採用側は、その人がどれだけ映像制作を好きなのか、という点を重視します。好きであればあるほど、作る映像の精度が日々向上していくからです」

このデモリールは5本のショットで構成されており、5本中4本は、エフェクトの技術力をアピールする内容になっていました。最初の1本目だけは例外で、3DCGで作られた体育館のバスケットコートのディテールを見せる内容でした。どのショットも技術力を見せることに注力しており、ストーリーはありませんでした。このデモリールのどこが評価されたのかについて、村本さんが詳しく解説してくださいました。

「なぜこのデモリールが評価されたのか、疑問に思う人もいるかもしれません。その疑問に答えるために、ポリゴン・ピクチュアズという会社の状況を説明します。我々の大きな特徴は、もの凄くスタッフの数が多いということです。国内のCGプロダクションとしては、最大の規模でしょう。これらスタッフの全員が、ジェネラリスト、つまりCG制作のすべての工程を担当できるわけではありません。我々は完全分業制をとっています。モデリング、リギング(セットアップ)、アニメーション、ライティング、エフェクト、コンポジット(合成)など、各工程をそれぞれのスペシャリスト、つまり専業のスタッフが担当しています。日本のCGプロダクションのなかにはジェネラリストを募集しているところも多くありますが、我々のような規模の大きなCGプロダクションや大手のゲーム会社では、分業制をとるのが一般的になっています。CGに限らず、産業が発展すると物事が複雑になり、分業化が進みます。だんだんと1人の力だけで人々を驚かせるものを作ることは難しくなり、色々な専門家が協力することで、相乗効果によって作品の質を高めていくようになるのです」

「状況説明はこのくらいにして、先ほどのデモリールの話に戻りましょう。この人の場合、最初の体育館のショットによって、絵作りのセンスと技術力が伝わりました。仕事をまかせても大丈夫だろうという、安心感をもてたわけです。さらに、その後のエフェクトのショットで、この人の方向性が伝わりました。エフェクト担当のスタッフが見れば、この人はエフェクトのことをしっかり理解しているなと、読み取れる内容になっていたわけです。こういうデモリールは、もの凄く希少価値があります」

ポリゴン・ピクチュアズでは、兼松さんのような人事や採用を担当するスタッフが、送られてきたすべてのデモリールやポートフォリオに目を通し、制作現場のスタッフに確認してもらうものを選別します。送られてくる作品は、第1にモデリング、続いてアニメーションに集中しており、全体の60〜70%を占めています。リギングやエフェクトに特化したものは15%程度で希少価値が高いため、人事・採用担当のスタッフから、制作現場のスタッフへとまわされる可能性が高いそうです。

「デモリール作りの戦略として、まずは希少価値というものを考えてみてください。リギングやエフェクトができるかどうか、自問自答して欲しい。これらの仕事はとくに技術面への理解が必要なので、できる人は限られています。リギングやエフェクトを、そつなく担当できる力を見せつけられるようなデモリールであれば、CGプロダクション、ゲーム会社のいずれでも、今は引きが強いです」

競争率が高いからという理由だけで、モデリングやアニメーションでの応募を諦める必要はありません。また、競争率が低いからという理由だけで、リギングやエフェクトを志望しても、制作のモチベーションを維持し続けるのは困難です。大切なのは、各職種に対する企業の需要を正しく認識し、採用側の心に届くポートフォリオやデモリールを作るための戦略を、しっかりと考えて実行することだろうと感じました。

できるだけ多くの、他の人が作ったポートフォリオやデモリールに目を通す

今回のリポートの最後に、後半の学生作品のレビューで語られた、とくに印象に残ったメッセージを紹介します。

村本さん「技術力を見せることに特化した、ストーリーのないデモリールの方が採用側にとっては有り難いです。我々は1度に何十本ものデモリールを見るので、ストーリーは見ない場合が多いです」

可児さん「デモリールのストーリーと同様に、ポートフォリオの文字も見ない場合が多いです。どれだけ絵力がある人か、ぱっと見の印象で判断します」

ポートフォリオにしろデモリールにしろ、その評価は作り手の想像以上に短時間で行われると考えた方が良いでしょう。そのため、イニスの梅地さんが語られたように、ポートフォリオやデモリールの第一印象はとても大切です。また、長い説明文やストーリーに注力するよりも、短時間で自分のセンスや技術力、方向性を伝えきる方法を考えた方が良いでしょう。

その際に最も参考になるものが、他の人の作ったポートフォリオやデモリールです。学校のOB・OGや、先輩、同級生の作品、インターネット上で公開されている国内外のアーティストの作品など、できるだけ数多くの作品に目を通し、先人やライバルの技術やセンスのレベルを知り、見せ方のテクニックを吸収すると良いでしょう。その上で、自分なりの長所を最大限効果的に見せるための戦略を考え、丁寧に具現化し、おもてなしの心を込めた勝負のポートフォリオやデモリールを作り上げることをお勧めします。