2011/10/19更新

〜センスとスキルをアピールできる、ポートフォリオの作り方とは 前編〜

リポーター/尾形美幸

前編では、2011年9月6日〜8日にパシフィコ横浜で開催された、ゲームのお仕事』業界研究フェア2011のセッションから、「センスとスキルをアピールできる、ポートフォリオ(作品集)の作り方(Part 1)」(6日開催)のようすを紹介しました。後編となる今回は、「同(Part 2)」(8日開催)に登壇いただいた、つぎの4名の方々のメッセージを中心にお伝えします。

・(株)イニス アートチーム グラフィックデザイン マネージャー
  梅地 浩太郎 さん
・(株)フロム・ソフトウェア プロモーションデザイン 係長
  可児 裕行 さん
・(株)ポリゴン・ピクチュアズ 制作部 部長
  村本 浩昭 さん
・(株)ポリゴン・ピクチュアズ 経営管理部 人事担当マネージャー
  兼松 厚 さん

おもてなしの心で、見る人の気持ちになって作る

イニスでアートディレクターを務める梅地さん

イニスは、音楽を軸にしたオリジナルゲームの開発を柱としています。梅地さんはアートディレクターとして、同社の開発タイトルのほぼすべてに関わってこられました。セッションでは、「あなたの就職活動を応援するポートフォリオ作成の必殺技」と題して、2つの必殺技と、その実例を紹介してくださいました。


必殺技 その1〜さらにその奥を突くべし

「イニスにポートフォリオを送ってくださる学生の多くが、就職をゴールに設定しており、その先、就職後の希望を書いている人は少数です。将来を見据えて、就職後に何をしたいのかアピールして欲しいですね。それが書かれていると、入社した後で、どういう風に一緒に仕事をしていけるのか、採用側が想像しやすいですから」

そう前置きしてから、梅地さんは2011年4月入社の新人のポートフォリオを紹介してくださいました。このポートフォリオは、イラストレーションを中心に構成されており、色使いがとても綺麗でした。作者は色にこだわりがあり、将来はカラースクリプトデザイナーになりたいという希望をもっているそうです。就職後の希望が明確で、その希望を実現するための行動や実力がともなっており、一緒に働く姿を想像しやすかったことが採用の決め手になったそうです。

必殺技 その2〜ポートフォリオにオーラを
「オーラがある、執念が漂ってくるポートフォリオというものがあります。そういうポートフォリオは、たくさんのポートフォリオのなかにあっても、何となく訴えかけてくるものがあります」

ここでも、2010年入社の新人のポートフォリオを紹介してくださいました。この方は美術大学の油絵学科の学生で、ポートフォリオはアート作品を中心に構成されていました。この時点では将来のビジョンが明確ではなく、CGの経験もなかったので、自分の長所である絵の経験を徹底的に押し出す構成にしたそうです。梅地さんは、それらの絵から「何かをもっていそうな執念」を感じたので、面接で会ってみることにしたと話されました。

さらに梅地さんは、その他のポイントとして、つぎの3点をあげました。

1.第一印象は大切
「採用側が1点のポートフォリオの審査にかけられる時間は限られているので、初見で、いかに採用側の興味を引き付けることができるかは、とても大切です。『色へのこだわりを見せる』『絵の経験を見せる』など、コンセプトがはっきりしているポートフォリオは、時間をかけて見てもらえる場合が多いです」

2.説明文は短くまとめる
「長い文章で説明するよりも、短く凝縮された重みのある言葉を添えた方が、読む側の負担にならず好印象です。また、情熱も伝わりやすいです」

3.見る人の気持ちになって作る
「ポートフォリオは、一次面接に達する前の『ゼロ次面接』です。おもてなしの心で、見る人の気持ちになって作ってください。たとえばデモリールの場合、DVDで直接再生できない、PCにコピーしないと再生できないような作品は、おもてなしができていないと受け止められます」

「おもてなしの心」という言葉は、後半の学生作品のレビューでも取り上げられました。多くの場合、ポートフォリオやデモリールの審査は、梅地さんのようなアートディレクターやデザイナーが、制作業務の合間をぬって行います。しかも、1度に大量の作品を評価するため、1点のポートフォリオにかけられる時間は限られています。そういった状況のなかで、自分のセンスや技術、情熱を伝えるためには、相手の立場や気持ちを想像できる、心の余裕や広い視野が必要のようです。

作品を「まとめる力」が重視される

フロム・ソフトウェアでデザイナーを務める可児さん

フロム・ソフトウェアの可児さんは、「シャドウタワー」「アーマード・コア」シリーズなどの開発にデザイナーとして携わってこられました。現在は、同社製品のパッケージや雑誌素材などのデザインを担当されています。可児さんも、同社にデザイナーとして採用された、2名の新人のポートフォリオを紹介してくださいました。最初に紹介いただいたのは、イラストレーションを中心に構成したポートフォリオでした。

「作品の最初から最後まで、トータルでまとめる力を感じるポートフォリオです。空間を活かす工夫がしてあったり、ロゴやレイアウトなどの細かいところまで気を配っていたり、考えながらモノ作りをしている姿勢が凄く伝わってきます。プロから見ると、詰めが甘い部分もありますが、会って話を聞いてみたいと思わせる魅力があったので、面接に来てもらいました」

もう1つの実例は、イラストレーションと3DCGの両方がバランスよく掲載されたポートフォリオでした。

「この人は、キャラクターだけでなく、背景もしっかり描けていた点が好印象でした。キャラクターを中心にしたポートフォリオ、よくあるのがFinal Fantasy的なキャラクターなんですが、そういったものを送ってくる人は凄く多いです。でもゲームでは、キャラクター以外にもデザインする要素が大量にあります。たとえば背景や、小物、ユーザインタフェースのデザインなども入っているポートフォリオは、目に留まりやすいです。反対にキャラクターだけで構成されたポートフォリオの場合は、それ以外の要素にどこまで対応できる人なのか不透明なので、見る側は不安になります」

「加えて、イラストをまとめる力と、3DCGをまとめる力の両方が備わっていた点も好印象でした。イラストのイメージと、それを3DCGにした場合のイメージが、凄く近かった。全体を見ながらモノ作りができる力も、採用の決め手になりました」

2つの実例に共通していたのは、作品を「まとめる力」でした。アイデアやイメージを、製品化までの工程を視野に入れて、人に伝えられる形にまとめあげる力が重視されているようです。

最後に可児さんは、今後のデザイナーに求められる要素として「静の表現ではなく、動の表現ができる人」というポイントをあげました。ゲームは動きや音をともなったインタラクティブなメディアで、技術の進化にともなって、その表現力は日々向上しています。ゲームならではの特性を考慮した表現を提案できるデザイナーが、必要とされています。