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2019/5/10更新

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本連載ではクリエイティブ業界で活躍する方々に、ご自身の学生時代から現在にいたるまでの経験や、業界を目指す若手へのメッセージを語っていただきます。今回登場いただくのは、株式会社ハル研究所で、ツール開発を担当している八坂俊さんです。ハル研究所はコンシューマ向けのゲームソフト開発会社で、代表的なタイトルには「星のカービィ」シリーズや「ハコボーイ!」シリーズがあります。ゲーム会社への就職を希望、入社を経て、現職にいたるまでの歩みのなかで、どのような経験を積み、何を感じてきたのかを語っていただきました。


学生時代の研究について教えてください。

慶応義塾大学 藤代一成先生の研究室で、新しい手法でのモデリングツールの開発の研究をしていました。遺伝的概念をモデリングに応用できるのではないかという発想で、異なる2つのモデルを交配させ、それぞれの特徴をもつ新しいモデルを生み出す研究でした。通常は想像したどおりのモデルを作りますが、この研究では、操作をしている人が意図しない新しいものを創り出すことができ、そうすることで自分の発想だけでは思いつかない部分を埋めてくれるツールになるのではないかという思いで研究していました。大学院の修士課程のさなか、ゲーム会社に入社したいと思い就職活動をしていたとき、ハル研究所の企業理念「モノ作りを通じて、お客さんと社員が共にHappyになる」という考え方に共感し、入社を希望しました。

 

会社での仕事の経歴について教えてください。

大学院の修士課程修了後、ハル研究所に入社しました。入社後は研修を経て、ゲーム開発のプロジェクトにプログラマーとして5年間携わり、最近は部署移動し、ツールの開発や改善を行っています。ゲーム開発では、面白さや楽しさ、どのようにしたらユーザーが喜ぶかなど、割と素直な発想で作ればよかったのですが、ツール開発では、特に安定性が求められたり、クオリティだけではなく保守性の高さも考える必要があり、ゲーム開発では意識しなかったことを思案したりと、当初は苦労しました。ですが、チームメンバー同士、仲が良く、先輩が親切に指導してくださったおかげで、わりと早くツール開発の仕事に慣れることができました。以前、自分がゲーム開発に携わったときは、プログラマーとデザイナーがペアになって、常に細かくやり取りをしながら作業を進めていくことが多かったですね。必ずしもペアということではなく規模によって人数構成は変わりますが。特にペアで作業を進めていたときは、自分から新しい挙動などを提案したり、逆にデザイナーからもキャラクターなどの挙動やアニメーションの再生方法について要望があったりと、かなり綿密に話し合いながら進めました。お互いの意思や提案を尊重し、検討しアイデアを出し合い、進めていく。とても風通しの良い職場だと思います。

 

仕事の面白さと大変さについて教えてください。

ゲームプログラマーの目線で話しますと、単純に作ったものが動くのが楽しいですね。特別工夫せずにキャラクターを作ったときは、プログラムしたものがただ動いているようにしか見えないんですが、そこからアイデアや工夫をどんどん詰め込んで、作り込みを続けていくと、突然、まるで生き物のように感じられることがあるんです。あるときを境にふっと、プログラムの制作物ではなくキャラクターに変わるような感覚があって、そこに辿り着いたときはすごくうれしいですね。ですが同時に、そこまで作り込まないといけないんだな、という感覚も湧いてきます。そこに辿り着くまでには、プログラムの都合でこの実装はやめておこうとか、すこし簡単な実装にしようとか、プログラマーとしての自分が歯止めをかけようとすることがあるんです。ある段階までは、10のことに対して10返ってくる手応えがあるんですが、徐々に10やっても2しか手応えがなくなってきて、それならこの辺でやめておこうかな、という気持ちにもなるんですが、その壁を何とか乗り越えると、先にもお話ししましたとおり、生き生きとした動きをするキャラクターになるんです。もちろん、モデルを作ってくれるデザイナーさんの頑張りもあるからこそですが。

 

仕事をする上での信念や大事にしていることを教えてください。

キャラクターの役割を考えるということをいつも意識しています。何も意識せずにプログラマーとしてただ単につくると、敵キャラクターが強すぎたり、仕掛けが意地悪すぎたりするものを作りがちになってしまうんです。例えば、キャラクターが倒れてくる柱に当たるとダメージを受ける、といった仕掛けを作るときはまず、プレイヤーが「ダメージを受けるのは嫌だな」、「どうにか避けて通りたいな」などと思いそうなことを想像するんです。そうすると自ずと、柱の役割が見えてきます。いかにも柱に当たりそうだけど実は当たらない、柱が倒れる直前に少し予兆の動きをいれて柱が倒れてきそうだと見た目に意識させたり、倒れる動きも速すぎず遅すぎず、プレイヤーにスリルを感じさせつつ、でも実はよけられるような速さで、かわしたときによくよけられたな、という絶妙なタイミングで倒れてくる。これが柱の倒れ方の役割として必要だとわかってきます。こういった事は、先輩から学んだ部分が多いですね。とてもすごい見本を作ってくれる先輩が沢山いるので、新人のときに先輩から色々教わりました。それがようやく身に付いたと感じています。

 

検定を受けようと思った理由を教えてください。

プログラマーにとって必要な知識はものすごく沢山あると思うんですが、そのなかの1つとして自分にはグラフィックスの知識が必要だとつねづね感じていました。すこし落ち着いて時間がとれるようになってきたので、この時間を使ってまずはグラフィックスとCGについての基礎知識を深めようと考えていたところ、検定があったことを思い出しました。ただ漠然と勉強するよりも、目標があるほうが勉強もはかどると思ったので、この検定をとおして基礎知識を深めることにしました。実は学生のときに受験を進められたのですが、研究のことで目一杯で受験を断念しました。そのときに受験しなかったことをずっと後悔していて、このまま後悔し続けるぐらいなら今とろう、と思ったんです。 今回、CGエンジニア検定とCGクリエイター検定の併願受験をしました。両検定は関連する分野も近かったので、両方を勉強することで相乗効果が得られるのではないかと思ったんです。
クリエイターとエンジニアのテキストでは、同じ用語でもいい意味で書き方が異なっていて、違う角度から読み解くことができて、より理解も深まり、同時に受験勉強するメリットはとても大きかったです。

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