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2017/05/18更新

 

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2016年11月29日(日)。私学の雄、早稲田大学と慶應義塾大学が神宮球場でも、秩父宮ラグビー場でもなく2016年後期CG-ARTS検定の場で熱き戦いを繰り広げた。これまでも、毎年各校で受験していたが、奇しくも、今回は早慶理工学部3年生それぞれ40人の学生が「CGエンジニア検定エキスパート」を受験した。本レポートは、「CG-ARTS検定 華の早慶戦」と題し、担当教員の早稲田大学森島教授、慶應義塾大学藤代教授にその結果を見ながら、戦いの総括をしていただいた。


いきなりだが、まずは結果からお伝えする。各校40人受験し、合格者は早稲田大学37名(合格率92.5%)、慶應義塾大学36名(合格率90.0%)となり、なんとわずか1人差で早稲田大学が勝利を収めた。「早稲田辛勝、慶應惜敗」という結果ではあったが、慶應も負けてはいない。平均正答率では、慶應義塾大学が早稲田大学をわずかな差で上回っていた。

両校とも存分にその力を発揮し、非常にハイレベルな戦いであった。両校がどのような姿勢でこの戦いに臨んだのか、その結果を振り返りながら、両校教授にお話をしていただいた。


ー この企画を受けてくださったときのお気持ちをお聞かせください

森島:たまたま受験者数がぴったりあったのは記念すべき瞬間なんですよね。もちろん、「受けてたつぜ!」という感じで臨みました。

藤代:今年度から、森島研究室とは研究交流会を始めていて、研究レベルの交流だけじゃなくて、学習レベルでの交流ができるのは非常に嬉しかったです。

ー 検定を受験するきっかけや意義についてお聞かせください

森島:僕の授業は、3年生が選択して受講する「ディジタル信号処理」という科目で、もともとCGではなかったんです。というのも、僕の所属する「先進理工学部応用物理学科」では、宇宙や物理といったサイエンス寄りのものが多いんです。でも、「それだけでは面白くないな」と思い、CGの授業に取り入れました。こうした物理とか宇宙とかを専門にやる学科の中でCGの研究室があるというのもかなり特異な点だと思います。

そんななか、数年前にCG-ARTS検定を、授業に導入したんですが、その時の学生の反応がすごくよかったんです。「講義が資格につながるのはよい」とか「勉強するモチベーションが上がる」という声を聞いて、目標を定めて頑張るというのは、とてもよい効果を生むと感じました。そして、単に資格を取るだけでは物足りないので、合格した学生には授業の評価に対して加点をしています。資格も取得できて、単位も取りやすくなって、モチベーションも上がって、受験料がかかること以外はいいことばかりですね(笑)。あと、3年生の後期に受験しますが、ちょうど大学院受験と研究室の配属希望を決める時期でもあるので、学習を通してCGに興味をもってもらうきっかけにもなるんですよ。仮にCGを専門にしなくても、ビジュアリゼーション自体は、宇宙だろうがデバイスだろうが、どこにでも必要なので、結果としては役に立つと思っています。

 

藤代:我々は情報工学科で、3つの分野(コンピュータサイエンス・通信・メディア)に分かれています。学生たちは、資格取得に対しては積極的で、「基本情報処理技術者試験」はどの分野の学生も受験しています。そして、次の資格を考えたときに、メディア分野に進もうとする学生にとって「CGエンジニア検定」の内容がぴったり合っているんです。CGの授業の中でCGエンジニア検定の受験をすすめていて、私も森島先生と同じように、合格した学生には授業評価をアップさせる対応をしていますよ。最近は安定志向の強い学生が多いのか、合格に対する加点措置は好評ですね。実際、毎年何人かはこの検定試験に救われているんです。そして、両校の学生にいえることですが、いわゆる受験自体に興味ある学生が多いですよね。ただ、入学して2年間はそうした具体的な目標というか、戦いから遠ざかっていたので、3年生のこのタイミングで検定の話をすると目標が明確になるためか、目の色を変えて取り組む学生も少なくないんですよね。

森島:それはありますね。「久しぶりに燃えた!」という学生も多いですよね。入学して2年間は授業受けて、レポート書いて、過去問を解いて、単位を取ることだけ考えていたけど、こうした公的試験を受けて合格することのプロセスが久しぶりの感覚なのか、新鮮に感じるみたいです。

藤代:大学の定める達成目標に、この検定受験のプロセスをうまく組み込めていると思います。

文部科学大臣賞をW受賞(CGエンジニア検定と画像処理エンジニア検定エキスパート)した、慶應義塾大学の斎藤くん。

森島:いい成績だと、賞ももらえるし、いいですよね!

藤代:そうですね。慶應は、合格率では惜敗でしたが、うちの学生がCGエンジニア検定と画像処理エンジニア検定の2科目で文部科学大臣賞をいただけたんですよね。これは本当に名誉なことですよね。ただ残念ながら、その学生は流行りのAI系の研究室にいっちゃいましたが、その指導教官は、めちゃくちゃ喜んでいましたよ。

ー それぞれの講義での学習方法についてお話しください

森島:半期の講義でテキストを全部カバーすることはできないので、前半の座標変換とか透視投影とか計算を必要とするパートは比較的しっかりやります。ここは教科書を読んでいるだけだと飽きてしまうので、少し難しめの課題を用意して、より興味を引かせるような工夫をしています。一方、後半のレンダリングまわりなどは用語を覚えるようなパートは、時間が限られるので、ピックアップした重要なキーワードを自分で調べてくるような課題を出して、教科書をしっかり読んでそのパートを理解させるような進め方をしています。多少、過去問題をやらせることもありますが、全体としては受験対策ということは特別にはしていません。

藤代:慶應では、3年生の前期で「情報工学実験Ⅰ」という授業があります。その授業では「CG・画像伝送・立体視」という3つの実験を行います。CGの実験では、1週間でPOV-Rayを使いCG作品を作らせています。たった1週間ですが、なかには「おっ!?」と思うような作品も出てきて非常に面白いです。その実験の講義の時に、この検定のパンフレットを配って、後期のCGの講義(座学)に備えるように伝えています。前期で受けちゃう子もいて、実際、今年も一人いて合格してたんですよね。その子を入れれば合格者数は早稲田に追いつくんだけどな(笑)。それはさておき、実際CGを自分で作ってから座学に入るという講義の構成が非常に効果的だと感じています。レンダリングまわりなど後半のパートは講義で網羅できないこともありますが、実験でCG制作を経験していると抜けてしまった内容を自分自身で補完できているんです。あと、授業終了後のFDアンケートでは、「受験対策をして事前に勉強することで、授業はよい復習になりました。」という意見もあったりして、なるほどそういう効果もあるのかと気づかされたこともありました。

ー 結果を受けてどうですか?

 

藤代:シナリオを書いたような結果ですよね。

森島:前期合格した1名を慶應さんに足したとしても合格率では早稲田の勝ちですね(笑)。

藤代:やっぱり意識はしますよね。永遠のライバルですから。

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インタビュー:CG-ARTS 篠原たかこ
テキスト・写真:CG-ARTS 小澤賢侍