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これからの挑戦、各社の想い

続いてトピックは「各社が今後どのようにアニメ業界を変えていきたいか」に移った。オレンジの井野元氏は、フルCGのアニメーション映画が日本でもヒットしはじめた現状から「視聴者のCGに対する許容範囲が広がってきた」と分析。その一方で、『君の名は。』を大ヒットさせた新海誠監督をはじめ、作画アニメの制作経験がないクリエイターも増加中だとして、時代に即した技術開発を進めている最中だとあかした。

同社が取り組んでいるのがモーションキャプチャシステムを用いて、より手付けに近い動きがとれるソリューションの開発だ。またフルCGアニメを制作する上で課題となるのが、アニメ的(漫画的)にデフォルメされた表情の表現。ここでも同社では、デジタル作画で表情の整合性を簡易的にとるためのシステムを開発中だという。井野元氏は「日本からCGを用いた新しい映像表現を創り出していきたい」と抱負を語った。

サブリメイション名古屋スタジオ

サブリメイション須貝氏は作画アニメでは「神アニメーター」という表現があるが、3DCGにはそうした呼称がない現状を指摘した。実際に須貝氏が業界に飛び込んだのも、井野元氏が手がけた『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に登場する「タチコマ」の動きに感動したからだという。須貝氏は「同じCG素材でも、人によってまったく異なる映像になる」として、3DCGでもアニメーターが評価される土壌を作り出したいと語った。

ラークスエンタテインメント・ベトナムスタジオ

このほかラークス奈良岡氏は「フリーランスではなく、スタジオワーク主導の作品制作を定着させ、これまで日本のアニメが壊せなかった限界点を突破したい」。グラフィニカ吉岡氏は「アセット管理の効率化とデジタル作画の強化を進行中」だと語った。最後にサンジゲン瓶子氏はアジア各国をはじめ、世界中でフルCGの高品質な作品が作られている点に触れ、「日本国内で争っていても仕方がない。世界で挑戦していきたい」と述べた。

サンジゲン京都スタジオ

 

こんな人に来てほしい!各社の求める人物像

最後に求める人物像についての紹介もあった。サンジゲン瓶子氏は「アニメが好きであること」をあげ、「作品は見ないがアニメは作りたいという人は、寿司に興味はないが酢飯は握りたいといっているようなもの。そんな職人が握った寿司を、お客は食べたいのだろうか」と疑問を呈した。グラフィニカ吉岡氏は入社以来、屈折6年で才能を開花させた社員の例をあげ、「とにかく諦めない人を採用したい」と語った。

5社5様の各社が求める人物像

サブリメイション須貝氏はゼネラリスト志向の社員が多い社風をあげ、「好き嫌いをせず、多様な仕事が楽しめること」を条件にあげた。「専門学校などではCGの勉強をモデリングからはじめることが多く、その時点で自分はモデラーだと思い込んでしまう学生が多い。しかしアニメーションやコンポジットで才能を開花させる学生もいる。一通りすべての工程にチャレンジして、その中で何か一つ武器を作って欲しい」(須貝氏)。

オレンジ井野元氏は「次世代の映像をめざす意欲がある人」を条件にあげた。「新しいことをやってみて『こういうのってありだよね』といった表現から、実際のカットができていくこともある」(井野元氏)。ラークス奈良岡氏は「監督の意図にそったカットを作るのは当然だとして、実際にカットに命を吹き込むのは現場のクリエイター。そのためには創意工夫が楽しめる人を採用したい」と説明した。

歯に衣着せない登壇者の会話に会場では時折、大きな笑い声が上がった(HAL名古屋)

このように縦横無尽に展開したトークライブ。熱気に充てられたのか、参加した学生からも熱心な質問が聞かれた。はじめによせられたのが「学生の間にやっておくべきこと」。ラークス奈良岡氏は「ゼロからモノを作り上げていくのではなく、先達のクリエイターが創り上げた技術を受け継いで、そこに自分なりの独創性を加えていくのがプロのやり方。学生のうちにプロと自分の作品を比べて、違いを分析してみて欲しい」と語った。

講演終了後も積極的な質問が続いた(HAL名古屋)

海外に対する日本アニメの強みに関する質問もあり、グラフィニカ吉岡氏はキャラクターのクオリティの違いを上げた。「日本は年間200本近い新作が作られ、それぞれで異なるキャラクターが登場する。メディアミックス展開もキャラクターを軸に展開される。いわば『キャラクター戦国時代』の国だといえる。海外ではそこまで作品数が多くないため、脚本や作品性に比べて、キャラクターの魅力に劣る傾向がある。」(吉岡氏)。

セルルックなCG表現を追求する上で、手描きアニメによせていくのか、それとも独自の表現を模索していくのかという質問もあった。これに対してラークス奈良岡氏は「セルルックの質感を踏襲しつつ、グラデーションや質感を工夫して、自分たちが気持ちいい映像を作るのが基本」だと回答。グラフィニカ吉岡氏は「今日登壇した5社はいずれもアニメを作りたい会社ばかり。アニメ的な表現が基調になることは変わらない」と補足した。

業界が大きな変革期を迎える中、一人でも多くの優秀な新人を獲得したい、そのための準備はできている……。登壇者から熱いメッセージが続いたトークイベント。実際に世界がフルCGアニメにいち早く移行した中で、手描きアニメがいまだ健在な日本アニメはユニークな位置にあり、そこにCG技術が加わることで、世界を狙える可能性を秘めている。さまざまな意味で日本のCG産業の勢いが感じられるイベントだったと言える。

 

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小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム評評」(inside)など。著書に『ニンテンドーDSが売れる理由』(共著)『ゲームニクスとは何か』(構成協力)がある。NPO法人IGDA日本代表。