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2015/06/22更新

 

 

『アップルシード アルファ』Motion picture ⓒ 2014 Lucent Pictures Entertainment Inc./Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc., All Rights Reserved.Comic book ⓒ 2014 Shirow Masamune/Crossroad

3月2日に改訂新版を発行した CGクリエイター向け書籍「ディジタル映像表現」と「入門CGデザイン」の一環として、福岡にて4月25日、制作の最新動向をご紹介するセミナー「CG表現のいま-3DCGが変えたアニメ表現とは-」を開催しました。アニメーション分野からSOLA DIGITAL ARTS代表の荒牧伸志監督、神風動画代表の水﨑淳平氏にご登壇いただきました。その中から「荒牧伸志監督が語る-『アップルシード アルファ』のメイキングからみる表現の追求-」をお届けします。

ー ルックは選ぶもの、作品の物語や世界観に合ったルックとクオリティの保持

荒牧監督はおもに「CG映画を作るうえで監督が何をしているのか?」「どんな思いでCG映像を作っているのか?」「スタッフとどういうやりとりをしてるのか?」についてお話されました。

まず『アップルシード アルファ』のルックに関して「フォトリアルのようにしたいと思って作った」と荒牧監督。「アニメーターがアニメーションを作っているという点では同じではあるんですが、どういうジャンルなのかは気にせずに作っている」「リアルなのが偉いのかというと、全てがそうではない」「アニメはアニメの良さがあるし、手描きじゃないと表現できない良さがある」など、手描きのアニメーションで作品を作ってきた経験を踏まえて、「今回こういうルックにしたのは、理由があってのこと。ルックは作品ごとに選ぶものであって、一つに決めてしまうというものでもない」と語りました。

実際に「これまでもセルルックっぽいものや絵画っぽいものも手がけてきている」が、それだけでなく、「作品の物語や世界観に合ったルックを選んでいくのが重要だし、デジタルになって、より選択肢が広がったと思っている」といいます。今回はストーリー的にフォトリアルなルックにすれば表現したいことが伝わるんじゃないか、というのが一番の理由だが、それが全てかというとそうではなく「スタジオとしての方向性というか次はこういうのを作りたいねというスタッフの思いの集積が、最終的な判断になった」といいます。

そして「フォトリアルなルックはコストがかかる」ことから、それを実現するために、力技でやるのではなく予算やスケジュールの制限があるなかでどう実現するのかを模索した、と話し、スタッフの人数も「ハリウッドのプロダクションは300以上のスタッフで2年以上かけてやってると思うけど、その数分の一の人数、三分の一のスケジュールしかないなかで、それでもどう賢くクオリティを保つか?」を腐心しています。

ー 90分を100コマくらいの絵で見れるラフコンテを作成し世界観を共有

次に「アニメの監督であれば、絵コンテを描きますが(それももちろんやっているけど)フルCGアニメだと何やってるのかとよく聞かれる」といい、プリプロ(プロダクションの前工程としてデザイン、脚本、絵コンテなどの作業)の話をされました。

以前は、プリプロができ上がったところで「また新しくCGのスタッフに1から説明しなきゃならない。その辺りで四苦八苦している」「実際のプロダクション工程を同じスタッフでプリプロを進めることができると、都合がいいんだけど、なかなかそうはいかない」といった煩雑さがありました。そこをもう少しプリプロとプロダクションを密にやっていくとイメージの共有が早い段階から、良いかたちでとれるんじゃないか」と考えました。スタジオの経営の側面でも「CGのスタッフがプリプロの間に遊んでるのが良くないので彼らにも何かやってもらおう」「新しいモチベーションが出てくるとスタジオにも活力が出る」といった考えから、人材の活用といった面でも取り組んでいます。

具体的には「脚本が見えてきた段階でスタッフと共通認識を持ちたい」「この話をどう監督は作りたいと思っているのか」という意図から、まず、90分を100コマくらいのコンテで見れるラフコンテを作って共有しています。「このシーンはコストがかかるんでこういう風に変えました」などの積極的な変更案を提示してくれるなど、通常であれば3~4カ月かかってしまうところが2週間くらいで済み、この「自分の覚書でもあるし、スタッフに伝えるための素材でもある」ラフコンテが大いに役立つことになりました。

一方、デザインから3Dモデルを起こす際には、やはりデザイナーとモデラーが近いところにいるのが一番有効で、頻繁にディテールを詰められればお互いに満足したモデルができます。これまでは、綿密な設計図を作りこんでから3Dの現場に渡し、モデルが仕上がってから確認するという進行でしたが、上がってきた時には違うものになっていたり、大きな変更が効かないものになっていたりという問題点がありました。デザイナーとモデラーが近くにいると「細かいスパンで確認する」「モデラーが悩んだらすぐ相談に行ける」といった利点があります。そもそも世の中にない架空のものをつくるとなると、「デザイン画から作りこんでもなかなか一発でOKがでない」「あがってきたもので足りないと思う場合が多い」「ある程度あがってきたものをみないと具体的な指示を出せない」という難点がありますから、その解消としても有効だと語りました。

ー プロダクションとして高いクオリティで映画を作り続けるために

続いて背景では、ただデザインするのだけではなく「キャラクターがどんな芝居をするのか、その場所はどういう意味合いなのか」まで配慮し、「どういうアクションをするのかを考えなければならない」といった気配りもなされます。例えばビル街での戦闘では「動線図を3Dで作った方が空間的に把握しやすいんじゃないかということで作ってみた」と、ムービーで実例が示されました。ここでも先のプリプロの話と絡めて「手描きでコンテを描いてもらったら、非常に上手くて良いものができたが、1シーンに1カ月かかったので、プリビズを並べて画コンテにして効率化を図った」ことを明かしました。このプリビズからの絵コンテ化は、背景やキャラのモデルがあがってきたタイミングで行い、今までの5倍のスピードで作業が進んだといいます。

このほかモーションキャプチャーでも「10年前は簡易なアニメーションをつける装置くらいな感じだったのが、役者さんと話したりしているうちに変わってきた」「役者さんからもキャラクターをもっとこうしたいああしたい、こういうキャラクターなんじゃないかというイメージを膨らましてくれる」との意識の変化が挙げられました。

最後にプロダクションとして映画を作り続けるために「どうやって自分たちのやりたい作品を実現して次につなげていくか」「作業環境、チームの雰囲気、スタッフのスキルをどうあげていくか、モチベーションをどう保っていくかというところを日々悩んでいる」と話し、CGのソフトウェアがバージョンアップして、これまで大変だったことが作業的には簡単になるけれど、それら以外の側面をもっと考えていかなければならない」と語られました。

ー また、この分野を目指す方々へのメッセージとして.......

荒牧「毎年CGソフトウェアはバージョンアップするし、あらゆる状況がすごい勢いで変化してゆく仕事環境ですが、やりたいことと、それに必要な本当のスキルは環境が変わってもちゃんと生かすことができます。そのことはアニメ業界にはいってから30年以上、CGに関わるようになって25年間やってこれている私が証明していると思います。この変化を楽しめて、やりたいことがある!と思える人はどんどんチャレンジしてほしいと思います。」

 

真狩祐志

ジャーナリスト。『スキージャンプ・ペア』実行委員会 関西支部長(2代目)や 『秘密結社 鷹の爪』『やわらか戦車』誕生の契機となったイベント「JAWACON2005」 コーディネーターなどを務め、 アニメ/CG業界・高度人材育成セミナー「クリエイティブと作品をとりまく環境の変化」(2008年)、ASIAGRAPH2009「2000年代の個人制作アニメーションと環境変化」、東京国際アニメフェア2010「個人発アニメーションの15年史」など司会・企画。