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2014/01/15更新

 

2013年11月に世界登録者数が3億人を突破したLINE。PC向けカジュアルゲームのポータルサイトとして草分け的な存在であるハンゲーム。この両プラットフォームへの配信をメインに、さまざまなゲームコンテンツの開発を手がけているNHN PlayArt株式会社。前身となるNHN Japan株式会社から2013年8月1日に社名が変更されました。同社はCG-ARTSの人材育成パートナー企業としても参画し、教育機関との連携、社内の人材育成についても積極的な活動を展開しています。

「日常のちょっとした楽しさ(Play)を豊かな発想と技術で創造する(Art)」(公式サイトより)というNHN PlayArtが求める人材について、アートディレクターと人事担当者にお話を伺いました。

ー 自己紹介をお願いします。

竹内晃朗さん

竹内:NHN PlayArtでスマートフォンゲーム制作チームのアートディレクターを務めている竹内晃朗です。もともとハンゲーム向けに内製PCゲーム開発を行っていました。現在はLINE向けに開発中の新作3DアクションRPGでゲームディレクターを務めつつ、チーム内のアートディレクションも行っています。その一方で3Dツールや開発環境の整備や、プロジェクトごとのメンバーアサイン、採用面接なども担当しています。ゲーム作りと管理業務で半々の時間をとられている感じですね。

柳田裕之さん

柳田:同じくNHN PlayArtで採用の統括を行っている柳田裕之です。弊社は2013年8月1日に前身のNHN Japanから社名変更を行ったのですが、開発体制は大きく変えたことは無く、その以前より組織のフラット化をはじめ、さまざまな社内改革を行ってきました。これまでは開発ディレクターが管理業務も行っていたのですが、できるだけクリエイティブな作業に集中できるように、役職を廃止するなどその一例です。もっとも、竹内さんをはじめ数名の核となる方には、いろいろとお願いする作業が増えているのも事実なんですが。


ー NHN PlayArtのゲーム作りについて教えてください

柳田:弊社はハンゲームの運営を中核事業に据えたうえで、スマートフォンアプリの開発を成長事業と位置づけています。もっとも、それ以外のコンソールや他のプラットフォームにコンテンツを配信する可能性がないというわけではありません。ゲームだけでなく、スマートフォン向けに電子コミックを配信する「comico」事業もスタートしました。今後も、思ってもみなかったようなコンテンツを手がける可能性もありますよ。それでも、何か「おもしろいモノを作る」ことに変わりはありません。

竹内:私はそのなかでもスマートフォン向けのアプリ開発を担当しています。現在かかわっているタイトルは、15名程度のチームで1年以上かけて開発しています。しかし、社内には6~7名の小編成チームが3ヶ月程度で作るような、カジュアルなゲームも存在しますし、その両方が大切です。PC向けからスマホ向けにアプリを作るようになって、よりアプリの「遊ばれ方」を気にするようになりました。通勤中とか、昼休みとか、ユーザーがどんな時に、どんな風にアプリを遊ぶのか、メンバーと考えながら開発進めています。


― 人材採用についての基準は何ですか?

柳田:人材採用については、まず新卒採用ではアーティスト職とプログラマー職に限定しています。その上でアーティスト職については、何か飛び抜けて上手いという人よりも、基礎力がある程度あり、幅広い表現が出来る方を求めています。入社後に表現する範囲を固定してないため、さまざまな方面で活躍してもらえるような、総合的な能力を重視しています。国籍や、美大卒や専門学校卒といった学歴も一切不問です。
これに対して中途採用ではアートディレクター、チーフプログラマー、ゲームディレクターといったように、役職ごとにチームを束ねる力がある人を求めています。新人については3年後から5年後を見据えて、社内で育成していくイメージ。中途採用については即戦力でハイスペックなリーダーを求めているというイメージでしょうか。また、中途採用ではゲームデザイナー職についても募集しています。

竹内:アーティストの新卒採用では、2Dメインと3Dとで募集枠はわけてはいません。なぜなら、実際の現場ではある程度オールラウンドな能力が求められるからです。単純に絵が上手いだけではなく、将来アートディレクターやゲームディレクターになりたい、自分のゲームが作りたい、といった前のめりな姿勢も重視しています。弊社は受注開発を行っておらず、パブリッシャーとしてゼロからゲームを作り出していますので、新しいモノを作り出す力、壁にぶつかってもめげない心、さらには一緒になって1個の粘土を捏ねるかのようなチームワークなども必要です。


― 入社後の研修などは、どのように行っていますか?

柳田:いわゆるビジネスマナー研修なども行いますが、何か特別決まった研修スタイルがあるわけではありません。メンバーの特性でなにが必要か決めますね。特にアーティストは「目で見て成果物がわかる」ため、実力があればどんどんプロジェクトにアサインされていきます。その一方で、実際のゲーム開発環境を模した「仮想プロジェクト」で、新入社員同士で役割を設けて3週間で実際のゲームを作り上げる研修も行っています。そうした研修で鍛えられた後に、プロジェクトに配属します。

竹内:弊社ではゲームデザイナーだけがゲームの企画を立てるのではなく、アーティストやプログラマーも一緒になってゲームを作っていきます。そのため、仮想プロジェクト方式の研修がしっくりくるのです。大作タイトルでも、小規模タイトルでも、みんなで議論しながらゲームを作る経験は重要です。
また、先ほど「将来チームを束ねられるような人材を求めている」と説明しましたが、すべての社員にアートディレクターやゲームディレクターになることを強要しているわけではありません。個々のキャリアプランについては、適正や本人の希望も加味しながら決定しています。


― 学生のうちに、やっておいた方が良いことは何ですか?

竹内:アーティスト志望であれば、絵をたくさん描くことはもちろん重要なのですが、それ以外にも何でもいいので、作ったことが無いモノを1人で最初から最後まで作る経験をしておくといいかもしれません。たとえば木工で何かを作ってみるとか、すごく凝った料理を作ってみるとか・・・。それによって創造力や段取り力、壁にぶつかったときの突破力などゲーム制作にも必要となる力が身につくと思いますので。
私も入社してから、当時PCのカジュアルゲームを作っていましたが、そこからスマートフォンになって戸惑いました。当時はどこの会社もスマホでどうすれば操作がしやすいのか、おもしろいゲームが作れるのか、わからなかったんですよ。その答えを見つける力は、何かモノを作り上げていく過程で磨かれるのではないでしょうか。そもそも、せっかく自由にゲーム作りができるようになったのだから、その自由さをもっと活かしてほしいんですよ。

柳田:ここ数年で学生さんのポートフォリオに、モバイル・ソーシャルゲーム向けのカードイラスト集と見間違うかのようなものが増えました。なかには在学中から原画の受注をされている方も多くいます。それらを否定するわけではありませんが、オリジナリティがなく決められた仕様に沿って素材作りをしている側面もあります。時代はどんどん変化していきますので、弊社では何か新しい仕様を自分たちで作り出せる人に応募してもらいたいですね。そのための柔軟性を養ってほしいと思います。

竹内:アーティスト採用では特別スキル特化した分け方もしていませんし、プロジェクトごとに使用するツールも異なります。そのため、どのツールを学んでおいた方が良い、という限定的なこともありません。逆に何かやりたいことが限定されすぎている人だと、せっかく入社しても、あれ?っていうことになるかもしれません。


― 開発者のモチベーションを活性化させるような施策はありますか?

竹内:ゲームの新規企画はアーティストやプログラマーでも提案できます。プロジェクトの立ち上げ方や開発スタイルはさまざまで、一概に言えませんが、できるだけシンプルにできるようにしています。プロトタイプを何度も作りこんだり、逆に企画書ベースで議論を繰り返したりすることもあります。ただ、どの場合でもゲームデザイナーだけでなく、アーティストやプログラマーが意見を出し合うのが、弊社の特徴です。
また、日々の仕事ではみな、自分の仕事に集中しがちなところがあります。自分はプロジェクト内でリードアーティストとして、8名ほどのアーティストを束ねているので、何か新しいものや、おもしろいニュースなどがあれば、率先して情報をシェアして、共通の話題作りをするように心がけています。

柳田:また弊社では「全社一斉テスト」といって、新作タイトルのデバッグを全社員で行うシステムがあります。たくさんバグを報告した社員は、カフェのチケットがもらえるなどの商品が出たり、これでどんな新しいゲームが出るかが共有できますから、横のつながりや、モチベーションのアップにもつながりますしね。

竹内:開発陣からすれば結果が出るまでドキドキする期間なんですが、みんな楽しんでやっていますね。


― 最後に新卒も含めて、どんな人と一緒に働きたいか教えてください。

竹内:個人的にはモノを作ることが好きな人がいいですね。ゲーム作りは楽しいことだけではなく、苦労の連続でもあります。特に着地点がなかなか定まらないような場面では、現場の雰囲気が悪くなってしまう事もありますが、そんなときでも前向きでいられれるような、強いメンタルの持ち主であったり、ゲーム作りの困難な部分もひっくるめて、楽しめるような人。そういう人と一緒に仕事をしたいですね。

柳田:ほとんど言われてしまいましたが、あえて補足すれば新しいことを楽しんでできる人が良いですね。挑戦に失敗はつきものです。弊社では失敗は怒られませんが、挑戦しないことについては怒られます。これは開発職だけでなく、人事などの管理部門も同じです。新しいことにどんどんチャレンジできる人に来てほしいですね。


 

PC向けのハンゲームから、スマートフォン向けのLINEへと、コンテンツの供給先が拡大するのにあわせて、新たな飛翔を遂げたNHN PlayArt。もっとも国内でハンゲームがスタートしたのが2000年。LINEがスタートしたのが2011年。2022年には、誰も考えられないようなサービスやゲームが登場していることでしょう。ゲーム業界では技術革新に伴い、常に新しいプラットフォームやコンテンツが人気を博していきます。インタビュー中、求められる人物像に「柔軟性」が強調されましたが、それは時代にあわせて「柔軟な企業」をめざすという、まさに同社ならではのコメントのように感じられました。


 

竹内晃朗さん

NHN PlayArt スマートフォンゲーム制作室 スマートフォンゲーム制作チーム アートディレクター

フリーランスを経て、2004年NHN Japan(現:NHN PlayArt)にデザイナーとして入社。ゲームデザイナー、アートディレクターとして多数のハンゲームのPCオンラインゲームタイトルに関わる。後にスマートフォンタイトル「TEIBANゲーム ダーツ」をゲームディレクターとしてリリースし、同社スマートフォンゲームアプリとして初の無料ゲームランキング1位獲得。現在は、2014年リリース予定の新作3D(3次元)アクションRPGスマートフォンゲームのアートディレクターを務めつつ、デザイナーの人材採用や3Dデザインの環境整備などを行っている。


柳田裕之さん

NHN PlayArt GHR室 リクルーティングマネージャー

インターネットプロバイダ、携帯キャリアを経て、2005年NHN Japan(現:NHN PlayArt)に入社。自社オペレーションセンター立ち上げに部門人事として携わり、中国や福岡での子会社NHN ST(現:PlayArt福岡)の拡充、グローバル採用・教育を整備。その後エンジニア・デザインなどのクリエイティブ部門、ビジネス部門含め、NHN PlayArt全体の採用責任者を務めている。

 

小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム時評」(まんたんウェブ)など。2011年にNPO法人IGDA日本理事長に就任し、『ゲームクリエイターが知るべき97のこと 2』を上梓。