TOP > 業界の現状と求める人材

2013/05/28更新

多様化するCGの需要。なかでもアニメーションの制作に関する需要は2D、3D、VFXと広く深くなってきています。最近ではフル3DCGによるリミテッドアニメーションの制作の需要も増えているなか、時代に対応したアニメーション教育とは何か。それぞれの分野における人材育成のニーズは何かについて探るべく、「3DCGアニメ業界、これからの人材育成とは!? ー デジタルアニメーション教育を開拓する」と題したセミナーを開催しました。

フル3DCGアニメーション『トランスフォーマー プライム』でエミー賞を受賞したポリゴン・ピクチュアズ、セルアニメ調フル3DCG作品『009 RE:CYBORG』で話題となったサンジゲン、CGプロダクションとアニメーションスタジオの混血児神風動画を迎え、それぞれの制作における人材のニーズを紹介するとともに、求める教育内容とは何かを教育カリキュラムを取り上げながら明らかにした今回のセミナー。その様子を各社の「人材の採用について」「それぞれが考える教育機関に求める理想のカリキュラム」にフォーカスしてご紹介します。


客観的判断力を身に付け、課題解決にあたる

株式会社ポリゴン・ピクチュアズ  片塰 満則氏

株式会社ポリゴン・ピクチュアズは、「誰もやっていないことを、圧倒的なクオリティで、世界に向けて発信する」ことを創業理念として掲げる、1983年創立の歴史と実績を誇るデジタルアニメーションスタジオです。近年では、米国のテレビアニメーションシリーズとして手掛けた『Transformers Prime』が、デイタイム・エミー賞【アニメーション番組特別部門】最優秀賞を受賞するなど、国内外の市場においてCG映像を制作するなど勢力的に活動しています。
「高い生産性を保持するために、大規模ファクトリー型でパイプラインを整備し、特に海外シリーズなど長期プロジェクトに強い。今後は自社企画の制作に軸足をおいている。」とCGディレクターの片塰満則氏は紹介しました。

ポリゴン・ピクチャアズの人材募集から採用までの流れについて片塰氏は、
「新卒採用は比較的少なく、中途採用が多いのが現状。中途採用は、プロジェクトのスタート時に必要な職種の募集をかけています。中途採用が多くなる理由としては、キャリアの検討ができることにつきます。ですが、新卒を全くとらないわけではなく、新卒の場合にはインターン制度を設け、面接だけではとらえ切れない能力を見ることにしています。」と語りました。

理想のカリキュラムについて片塰氏は、
「ポリゴン・ピクチュアズではAutodesk® Maya®を使っての制作が中心になるため、3D実習ではソフトウェアの使い方はもちろん、制作工程の一連の流れは把握して欲しい。プログラミンやコンポジット、エフェクト、実写・写真・モーションキャプチャなどは、アニメーションのスキルをあげるための表現方法の選択肢として、知っておくことが大事。卒業制作・進級制作は、新人採用の検討材料になるので、力をいれて欲しい。2D実習は、3Dと2Dの違いを知ってもらい、3Dの優位性に気づいてもらう意味がある。また、デッサンは技巧を凝らすことではなく、判断力のトレーニングでなければいけない。描いた成果物と、目の前にあるモチーフを比較し、精度を上げるためにはどこが悪いのかを見きわめ、どのように修正すればよいのか、を判断する力をつけることが重要である。歴史はCGとは無関係に思えるが、よりよいコミュニケーションをとるために相手や自国の歴史を知ることは必要。英語は、マニュアルを読めたり、海外のフォーラム上で質問や回答、お礼ができたりする程度は必要なので、嫌わず学習しておいて欲しい。」と語りました。


行動とその結果を理解し説明できる力を得る

株式会社サンジゲン  松浦 裕暁氏

株式会社サンジゲンは、「すべての仕事をスタッフ全員でやりぬく!」をモットーに、サンジゲンならではのリミテッドアニメーションを発信していくことのできるスタジオづくりを目指しています。近年では、すべてのキャラクターをセルルックの3DCGで描くという革新的な表現に挑戦した映画『009 RE:CYBORG』(2012)が高い評価を受けました。
「アニメに特化し、TVシリーズや劇場など日本の2Dアニメのビジネスラインに乗せた取り組みを行い、日本のアニメにマッチした表現を目指すところに注力している。」と代表取締役社長の松浦裕暁氏は紹介しました。

サンジゲンの人材募集から採用までの流れについて松浦氏は、
「新卒採用は年2回、中途採用は随時、3カ月に1回とか定期的に締切を設けて募集しています。中途採用は、大作の発表とほぼ同時期に募集をかけることが多く、話題性をねらっているということも一つですが、一番の理由はサンジゲンの作品を見て感動や驚き、共感を覚えた人材が応募する可能性が高くなることです。また、秋から春にかけてインターン制度を設けており、専門学校とタイアップをして、インターン期間前の6月末から11月末の約5ヶ月間、サンジゲンの考える必要なこと、学んでおいて欲しいことを専門学校の講師より学生に指導してもらっています。」と語りました。

理想のカリキュラムについて松浦氏は、
「2Dに近い業界ではあるのでデッサンは必要なことだが、仕事としての作法程度でよく、それよりも学校では機材を使って3DCGに時間を割いて欲しい。入社前にソフトウェアに慣れておくことも大事である。また、モデリング、アニメーションでは、特別なもの、唯一無二のものを作れることが大事なのではなく、商品としての完成度を上げることを学ぶ必要がある。CG業界では、感覚的なことが評価されることもあるが、仕事を進める上では、行動とその結果が理解できて、かつ説明できることが重要。用語の知識も重要で、学生のうちに一通り覚えておくと、入社してからの仕事の効率が格段に違う。」と語りました。


多種多様な方法で広がる可能性を知る

神風動画  水崎 淳平氏

神風動画は、作家性を重視し、CG制作よりも企画、演出、デザインなど、プリプロに寄っており、MVやゲーム、アニメのOP、CMなどのショートを中心に斬新な映像を制作しています。
代表作は『ジョジョの奇妙な冒険』オープニング、EXILE『BOW & ARROWS』MV、安室奈美恵『Dr. 』MV、『FREEDOM』 オープニング、『ドラゴンクエストIX』オープニングなど多彩な分野で活躍し、新時代のCGアニメーションを目指すスタジオとして業界から注目を浴びています。「さまざまな映像表現に積極的に挑戦し、アニメーションの可能性を広げ、さまざまな層の人が興味を持つような作品を生み出していきたい。」と代表取締役の水崎淳平氏は紹介した。

神風動画の人材募集から採用までの流れについて水崎氏は、
「まず社内で欲しい職種を話し合い、その職種に合った募集告知用の動画を作成しています。こういった試みを行っているところは稀であり、さもすればおかしな会社だと思われそうですが、それでいい。異色なことをして、変わっている、おかしな会社だな、ということをわかった上で応募してもらうことで、ミスマッチ防止効果になっています。採用後の3カ月間は試用期間を設け、試用期間終了後に入社の意思をいま一度確認し、入社を決意した人材に入ってもらうので、社員の離職率は今日までゼロの記録を更新し続けています。」

理想のカリキュラムについて水崎氏は、
「デッサンは大事であるが、受験の際に高校や塾などで勉強していればベースはできているので、あえて必要はないかもしれない。まずは、3Dアニメーションを作ってみる。そうすることで、3Dがどういう感覚で、どのようにオペレーションされ、どう仕上がるのかを把握することができる。3D撮影は、例えばマスクをたくさんレンダリングして、統合してキャラクタにし、それを色々な作風にしてみることで、3Dの質感表現を学べる。マスクの重ねかたや線の太さを変えることで、多種多様な表現ができることを知って欲しい。また、パソコンで絵を描くことに不慣れな人の基礎の底上げとして、2D実習は必要である。2Dアニメーションは、3Dアニメーションとの違いを知るために必要。2D背景実習は、対象物(被写体)との相対的な位置関係を学ぶことができるので役に立つ。2D撮影実習では、カメラのぶらし方やパーツの切り上げ方など撮影方法を工夫することで得られる効果や手数少なく豪華に見せる方法を知っておいて欲しい。」と語りました。


とにかくいろんなことを経験してきてほしい

上述で紹介したとおり企業理念、求める人材像、理想のカリキュラムは三社三様ですが、共通点も多数ありました。
「ポートフォリオがどれもこれも似ています。本人が見せたいもの、得意なものを、かつ応募する会社に沿ったプレゼンテーションをしている意欲的なポートフォリオを見てみたいですね。」とは松浦氏。水崎氏は「教育の一環としてポートフォリオの指導に取り組んでいる学校が近年多くありますが、指導者の価値観に寄るところが影響しているためか似通ったものが多数見受けられますね。」と続け、片塰氏は「学生が作りたいものを引き出したうえでの指導を先生方にお願いしたい。また、ともすると怠りがち、または全く触れることすらないないかもしれない歴史や英語についても、国際化が進み多様化している今、必要な要素の一つだと感じています。」と語りました。「一見、CGとは関係の薄そうなことでも、興味をもって一通り経験してみて欲しい。その場ですぐに役に立つということはないかもしれませんが、知識や経験として蓄えておくことが自分自身の幅を広げることに繋がると思います。」と水崎氏は言います。「何か一つに特化することも大事ですが、それよりもとにかく色々なことを経験してきて欲しい。自分はこれが得意だから、苦手だから、と決めつけずにあらゆることに挑戦し経験を重ねてください。」と松浦氏。
メインで使用しているソフトウェアは、三社それぞれでポリゴン・ピクチャアズはAutodesk® Maya®、サンジゲンはAutodesk® 3ds Max®、神風動画はLightWave 3D®ですが、求める人材像についての最大の共通点は、オペレーションテクニックの追求だけではなく、さまざまな出来事に関して興味をもち、自分の考えや価値観を持ったうえで、相手の考えや価値観を尊重することができる対人能力をも備えることが大切な要素であると結びました。

CG業界の第一線で活躍される皆さんの経験に裏付けられた言葉は説得力に溢れており、受講者は熱心に聞き入っていました。講演後の質疑応答では教育者の方々との意見交換や、業界を目指す学生からの熱心な質問が飛び交い、学生にとっても動機付けや励みになる講演だったと、好評をいただきました。

取材・テキスト:影山由夏、写真:近藤聖子