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2012/11/21更新

 

本連載ではクリエイティブ業界で活躍する方々に、ご自身の学生時代から現在に至るまでの経験や、業界をめざす若手へのメッセージを語っていただきます。今回登場いただくのは、株式会社エイタロウソフトで2D(2次元)デザイナーとして活躍されている中村まりさんです。もともと3D(3次元)デザイナー志望で就職活動を行ったのに、2Dデザイナーとして採用されたという中村さん。学生時代からこれまで、どのような道を歩まれてきたのか伺いました。


3Dデザイナー志望だったが、2Dデザイナーとして採用される

中村 まり さん

ー 日本電子専門学校を卒業されて、新卒でエイタロウソフトに入社されたんですよね。

はい、今年で入社4年目になります。これまでにフィーチャーフォン向けのMMORPG「ブレイブオンライン」でキャラクターデザインなどを行いました。また、10月3日にリリースされたPlayStation®Mobile向け乙女ゲーム「ラスプレ」では、UI(ユーザインタフェース)をはじめ、リードデザイナーとして2Dビジュアル全般を担当しました。

ー PlayStation®Mobile向けということは、PlayStation®Vitaでもプレイできるんですよね。今年の東京ゲームショウでも出展されていました。どういった経緯で開発が始まったんですか?

本作は、もともとiアプリとして、フィーチャーフォン向けにリリースされていたタイトルです。これを当初はスマートフォン向けにネイティブアプリとしてリニューアルする予定でした。ところが開発を進めていくなかで、急遽PlayStation®Mobile向けにも対応することになったんです。もともと縦長の画面で開発を進めていたので、PlayStation®Mobileの横長画面に対応させるのは、なかなか大変でした。

ー それは確かにたいへんでしたね。

ええ、イベントCGのレイアウトなどで、いろいろと工夫しました。おかげさまで無事リリースされまして、今は運営を行いながら、あらためてスマートフォン版の開発を進めています。ソーシャルゲームで運営型のゲームなので、隔週ペースで行われるイベント向けのスチル絵を制作したり、スマートフォン版のUIデザインを行ったりしています。
また、2Dデザインチームは私を含めて3、4名いますので、チームリーダーとして進捗管理やクオリティチェックなども担当しています。

ー まさに大活躍ですね。もともと2Dデザイナー志望だったのですか?

いえ、それが最初は3Dデザイナーとして応募したんです。学校では2Dと3Dの両方の授業がありましたが、どちらかというと3Dが中心でしたし、私が就職活動をしていた2008年ごろは、もうほとんどの求人が3Dデザイナーになっていました。また私自身も仮想の世界の中でいろいろと歩き回れる、箱庭的なゲームが好きだったので、そうしたゲームを作れる立場になりたいと思っていました。
そこで3Dに強い会社を探して、弊社に応募したんです。それが途中で「2Dデザイナーはどう?」と人事の方に言われまして.....。もともとデザイン全般に興味があったので、2Dデザイナーとして入社しました。

ー わからないものですね。何が決め手になったんでしょう?

さあ、どうでしょうか(笑)。学校ではさまざまな授業がありましたが、なかでもキャラクターデザインの授業が楽しくて、印象に残りました。はじめに2Dでデザイン画を描いて、Mayaを使って3Dモデリングを行い、テクスチャを貼って、ボーンを設定して、アニメーションさせるという、一連の過程をひととおり学びましたね。ポートフォリオも半分以上、3Dの作品で構成しました。キャラクターデザインや背景デザインなどの2D作品も含めましたが......。ホントに、運良く拾っていただけました。
ちなみに弊社でも3Dデザイナーの求人が多かったのですが、最近では「ラスプレ」をはじめとして、乙女ゲームの開発に力を入れています。そのため、あらためて2Dデザイナーを募集しています。

ー ふだん、どのようなツールを使っていますか?

メインはPhotoshopで、UIデザインではFireworksを使っています。Illustratorはあまり使いませんね。液晶ペンタブレットも何度か試しましたが、自分にはあっていない気がして、昔ながらのタブレットで描いています。Photoshopは授業で習いましたが、Fireworksは就職してからですね。もともとベクタ系のツールにあまり慣れていなかったので、先輩に教わりながら、仕事を通して習得しました。

ー 2Dデザインチームのリーダーとして、どのようなことを心がけていますか?

人によってキャラクターが得意だったり、背景が得意だったり、いろいろ得意分野がありますが、できるだけいろんな仕事を振っていって、その人の引き出しを増やしてあげるようにしています。UIをやらせてみたり、アイテムデザインをさせてみたり。かわいい系の絵が得意な人に、リアル系の絵を描いてもらったり。弊社の規模だとプロジェクト専属の2Dデザイナーというわけにはいかなくて、各プロジェクトの状況にあわせて、いろんな仕事を平行で進めていく必要があるんです。

ー 中村さん自身は2Dデザインの中でどんな分野が好きですか?

やっていて楽しいのはキャラクターデザインですね。弊社ではキャラクターデザインがキービジュアルとなって、プロジェクト立ち上げ時の指標になっていきます。ディレクターや企画の人が大まかなたたき台を作って、そこからキャラクターデザインができて、そこでみんなの気持ちが一つにまとまるんです。その根幹に携われるのが、いいですね。


社員の約4割が女性、働きやすい環境作りに会社も投資

ー 御社自体が約10年で急成長されましたし、人材も積極的に採用されていますね。書類選考や面接などの仕事に携わられることもあるのではないですか?

そうですね。ポートフォリオなどのチェックや、2Dデザイナー志望者の面接なども行います。ちなみに弊社では書類選考と一次面接のあとで、約2週間のインターンがあるんですよ。インターンでは実際の業務に近い課題に取り組んでもらって、会社の雰囲気にも慣れてもらいます。そこでお互いに見極めてから、いけそうだと思ったら二次面接を行います。無事に内定がとれたら、4月まで内定者アルバイトで実務についてもらうんです。
もっとも通年で採用を行っていますし、中途入社の方も多いです。既卒者の方にも門戸を開いていますし、ホントに実力次第ですね。なので、常に社内で誰かしらインターンがいて、和気あいあいと仕事をしています。

ー 採用の基準はなんでしょう?

職種にもよると思いますが、最終的には「なぜエイタロウソフトを希望するのか」「将来どんなゲームを作りたいのか」という2点をしっかり持っている人が、求められていると思います。そういえば弊社では、書類選考で作文を書いてもらうんですよ。作文ではこの2点がしっかり書けているかがポイントです。

ー 中村さんは将来どんなゲームを作りたいですか?

実は入社してから、わずか4年でいろんな仕事を経験したので、半分くらい入社前の夢がかなってしまったんですよ。将来キャラクターデザインをやりたいなあ、でも時間がかかるんだろうなあと思っていたら、1年目でキャラクターデザインを担当させてもらいましたし。なので改めて何がやりたいかというと、ちょっと悩みますね。
うーん、なんだろう。たとえば今だとディレクターやプランナーの方の指示でキャラクターデザインをしていますが、最初から自分の企画でゲームを作ってみたいですね。こういう世界観で、ストーリーで、キャラクターで、ゲームシステムで、という感じです。具体的にはオンライン要素のある、3DアクションRPGを作ってみたいです。

ー 楽しみにしています。ちなみに中村さんをはじめ、皆さんお若いですね。

ありがとうございます。社員は80名くらいいるのですが、確かにみんな若くて、来年の内定者12名を含めると、平均年齢は26歳になります。また、社員の約4割が女性なんです。デザイナーだけでなく、プランナーにも女性が多く働いています。

ー それは驚きました。ちなみに女性が働きやすい仕組みや、社員教育のシステムなどはありますか?

たとえば女性の場合、結婚すると家事や育児と仕事の両立が重要になりますよね。弊社ではそのためライフ制度という、定時で帰社できる仕組みがあります。実際に、この制度を使って働かれている女性社員もいますよ。また契約社員にも似たパーソナル制度などがあります。こうした制度を利用して空いた時間を自分で勉強する時間にあてたり、会社で先輩に教わったりすることもできます。
やっぱり、長く一緒に働いてもらいたいですよね。そのための仕組みは充実しているのではないでしょうか。


世の中のモノすべてが資料、すべては観察から

ー ちなみに中村さんは、いま学生に戻れるなら、何を勉強したいですか?

大学などでUIデザインを体系的に勉強したいです。専門学校でもUIデザインは学びましたが、企画の一部になっていて、あまり深く学べなかったので。ところが仕事をはじめるとUIデザインの重要性を身にしみて感じるようになりました。具体的にはレイアウトデザインや素材の作り方、ボタンの質感の作り方などのノウハウを学ぶ機会が欲しいですね。実務においてキャラクターデザインとUIデザインは最も重要だと思っています。
ただ、キャラクターや背景などに比べて、UIの志望者がほとんどいないんです。もっと志望者が増えて欲しいと、切実に思っています。

ー では、学校の先生方に向けて、何か希望はありますか? たとえばUIの授業をもっと増やして欲しい、とか。

そうですね(笑)。ただ、もう少し広い話をすると、学校の授業ではさまざまな課題が出ますよね。いろいろな課題作品のなかから、いちばんの自信作をポートフォリオに入れる学生も多いと思います。でも、たっぷり時間をかければ、良い作品ができるのは、ある意味で当たり前だと思うんです。ポートフォリオでそうした作品ばかり見せられても、仕事で絵を描くイメージがちゃんとできているのかなと、不安になることがあります。時間をかけることが悪いとは言いませんが、限られた時間の中でクオリティの高いものを作ることの意識も、同時に持って欲しいですね。仕事ではそれが求められますから。

ー それは重要ですよね。でも、どうやってそうした意識を学べば良いでしょうか?

たとえば課題を出す際に、ただ締め切り日を設定するだけではなくて、最初のうちはマイルストーンをきちんと設定して、細かく指導してあげてはどうでしょうか? 私も実際に仕事をしながら、そんな風にチームの進捗管理をしています。そうすると、だんだん各工程で自分が何が得意で、何が不得意か、わかるようになるんです。
たとえば私は人より線画に時間がかかる方だと思うんです。だったら、それ以外の工程を短時間でやって、納期に間に合わせようとか。こうしたフォローをしないで、単に締め切りを設定するだけでは、けっきょく自分のペースでだらだらとやってしまって、クオリティが低くなったり、締め切りに間に合わなくなったりするのではないでしょうか。

ー 業務でも納期だけ設定して丸投げするのは、一番簡単ですよね。学生も最後まで手取り足取りでは困りますが、最初のうちは細かい進捗管理が必要かもしれません。では、最後に2Dデザイナーをめざす学生にメッセージをお願いします。

専門学校の卒業直前に、ある先生から印象に残る言葉をもらったんです。自然物であれ人工物であれ、世の中にデザインされていないものはないと。世の中のものはすべて、何か意図があって作られているんだと。それからは電車の中吊り広告や街の看板など、身の回りのものを注意して見るようになりましたし、すべてが資料になるんだなと思うようになりました。いま、一歩立ち止まって、いろんなものを観察することが、すごくおもしろいです。実際に仕事をはじめると、学生のうちは予想もしなかった、いろんな引き出しが必要になります。常日頃から周囲を観察して、自分の中にため込んでいってください。

 

中村まりさん

株式会社エイタロウソフト
制作部デザイン課 2Dリーダー


2009年に日本電子専門学校ゲームCGデザイン科を卒業後、同年4月に株式会社エイタロウソフトに入社。キャラクタ、UI、背景、広告など垣根なくさまざまなデザイン部分を手掛ける。現在は2Dリーダーとしてデザイナーメンバーの統括やプロジェクトのメインデザイナーを務める。

 

小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム評評」(inside)など。著書に『ニンテンドーDSが売れる理由』(共著)『ゲームニクスとは何か』(構成協力)がある。NPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)理事長。