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2012/09/26更新

 

本連載ではクリエイティブ業界で活躍する方々に、ご自身の学生時代から現在にいたるまでの経験や、業界を目指す若手へのメッセージを語っていただきます。今回登場いただくのは、株式会社ミツエーリンクスのインタラクティブ・コンテンツ部で、Webサイトのデザインやインタラクティブなコンテンツの実装を担当している新里優姫さんです。新里さんが初めてWebサイトを制作したのは中学2年生のころ、インターネットが社会で認知され始めた黎明期だったそうです。それから現職にいたるまでの歩みのなかで、どのような経験を積み、何を感じてきたのかを語っていただきました。


中学2年生で初めてWebサイトを作り、インターネットの魅力にはまる

新里 優姫 さん

ー 新里さんにインタビューをお願いしたいと思ったきっかけは、新里さんが大学時代に作ったポートフォリオなんですよね。『ポートフォリオ見本帳』(MdN/2011)の制作で私がミツエーリンクスさんにご協力をお願いした際に、新里さんのポートフォリオを誌面で紹介させていただきました。大学生活が活き活きと紹介されていて、作った方にお会いしてみたいと思ったんです。今日は念願がかなって嬉しいです。

ネット上でのやり取りはありましたけど、リアルでお会いするのは初めてなんですよね。

ー そう。一応、初めましてです(笑)。まずはあの印象的なポートフォリオを制作するにいたるまでの経緯をお伺いしたいです。人生で最初にWebデザイナーという仕事を意識したのはいつごろですか?

中学2年生のころですね。もともと小さい時から絵を描くのが好きだったんです。それを見ていた父が「これからはデジタルの時代だ」といって、Adobe Photoshopを買ってくれたんですよ。それがきっかけで、興味の対象がアナログからデジタルへと移っていきました。時代は2000年前後で、インターネットが徐々に一般家庭にも普及し始めたころでした。大手掲示板が社会の注目を集めてニュースで取り上げられたりして、インターネットに興味をもつ人が増え始めた時代です。当時中学生だった私は、インターネットの魅力にどっぷりはまるようになりました。
そのうちにネットサーフィンをするだけじゃなく、「自分でも作れるんじゃないかな?」って思うようになったんです。そこで当時使用していたPCに同梱されていたMicrosoft FrontPageやメモ帳へのタグ打ちで、Webサイトを自作するようになったんです。当時は「素材屋さん」というWebサイト用の壁紙やアイコン素材を配布するサービスが流行っていました。この「素材屋さん」を中学から高校にかけての3~4年間、ずっと続けていましたね。

ー お父様は先見の明がありましたね。絵を描くのが好きだったということは、イラストレータになる選択肢もあったと思うんですが、どうしてWebの道に進んだんでしょう?

もちろんイラストレータになることも考えました。でも当時は、今後Webが生活のなかで重要な役割を担うようになる、本などの紙の出版物は淘汰されてWebだけになるといった予測がされていた時代で、私自身も将来性のありそうな新しいものに惹かれていったんです。それに「素材屋さん」のWebサイトを更新すると、すぐにユーザが反応を返してくれたのも刺激的でした。ランキングサイトで上位になったり、お礼のメールをいただいたり。本当に楽しくて、どんどんのめりこんでいきましたね。高校時代は部活もやっていなかったので、毎日学校から帰ったらすぐにPCを立ち上げて、寝るまでずっと素材を作ったり、HTMLやCSS、Flashをいじってました。

ー その後は、早稲田大学の第二文学部、表現・芸術系専修(学部改編により、2012年現在は文化構想学部となっている)へ進学したんですよね。美術大学のように、何らかの制作を実践する学部ではなかったとうかがっていますが。

そのとおりです。美術史やデザイン史、映画やメディアアートといった表現のあり方、芸術論などを学びました。だから私の場合、Webサイトの制作技術は完全に独学ですね。ただし大学で学んだことはいまの仕事につながっているんです。たとえばテレビCMひとつとっても、なぜこういう表現方法をしているのか、表現の理由を理論立てて考えるプロセスを大学で勉強しました。いまの仕事でWebサイトを作る時にも、なぜこういうデザインにするのか、常に考えるよう心がけています。ただ何となく作ったのでは、クライアントに対してデザインの理由を説明できませんから。

ー 新里さんのポートフォリオは自身が作ったWebサイトの技術的な説明よりも、コンセプトやユーザからの評価の説明に力点が置かれていましたよね。たとえば所属していた「かくれんぼ同窓会」のWebサイトリニューアルでは、Flashを効果的に使って子供のころに作った秘密基地のような雰囲気を演出したとか、入会希望者を70名から200名に増やしたとか。お話を聞いていて、その理由がわかりました。ミツエーリンクスさんへの入社の決め手も、あのポートフォリオでしょうか?

どうでしょう(笑)。もちろんポートフォリオは持参しましたが、それ以外はあえて何も準備せず、何も対策せずに面接に行きましたね。こういう質問をされるだろうって事前に予測して、その回答を準備しておく、そんな着飾った姿で入社しても面白くないなって思ったんです。いまこうやってインタビューを受けているような、リラックスした感じでお話できたのが良かったんじゃないかと思います。「学生時代に何やってたの?」って聞かれて「4年間かくれんぼ同窓会に所属して、必死でかくれんぼしてました。大人が本気でかくれんぼしたら、どうなると思います?」って話をひたすらしたのを覚えています。あとは同窓会のWebサイト制作に加えて会報の編集長もしていたので、その話もしましたね。

新里さんがミツエーリンクスの採用面接時に持参したポートフォリオでは、所属していた「早稲田大学かくれんぼ同窓会」のWebサイトや会報制作を担当したことが活き活きと紹介されていました


クライアントの意図を汲んで、より良くするのがWebデザイナーの仕事

ー 学生時代に作ったWebサイトと、入社後に仕事で担当したWebサイトとでは、制作の勝手は違いましたか?

違いましたね。かくれんぼ同窓会のWebサイトや会報は、ほぼ丸投げされていたので好きにやらせてもらっていました。アルバイト先でもポスターのデザインなどを任されましたが、似たような感じでした。自分が良いと思ったことを実践すれば良かったんです。でも入社してから関わったWebサイトは、クライアントからのフィードバックが学生時代とは比べものにならないくらいシビアでした。Webサイトの仕上がりが企業イメージや売上に大きく影響しますし、多くの人やお金が動きますから、最初は心が折れっぱなしでした(笑)。いまでも緊張しながら仕事していますね。

ー 最初に担当した仕事はどんな内容でしたか?

ポータルサイト用の、200×200ピクセルくらいの小さな1枚絵のバナーでしたね。バナーは結構奥の深い仕事なんですよ。小さなエリアのなかに、沢山の情報を入れなければいけない。何度も何度もダメ出しをもらってしまい、3、4日がかりで作りました。5、6回は修正しましたね。その度に、デザインの理由を説明する趣意も書き直しました。先輩のデザイナーさんだったら、きっと数時間で終わらせられた仕事だったと思います。でもそのバナーが公開された時は嬉しくて、「私が作ったんだよ」って両親に報告しましたね。

ー クライアントのなかには、Webサイトに関して素人の方もいる。だからクライアントの要求どおりに制作しているだけでは期待どおりの効果を得られない場合もあると、別のWebデザイナーさんからうかがったことがあります。そのように感じることはありますか?

ありますよ。どなたにも好みや年齢に応じた考え方があり、それを根拠に提案されるクライアントもいます。私が良いと思うやり方と、クライアントの意図が違う時には、すり合わせをしていきます。こちらの意見を押しとおした方が良い場合もあります。ただし、こういう理論で、こういう効果を見込んでいるから、こういうデザインになっているんですよと理由を説明しなければ相手は納得できません。こういった説得ができることも、Webデザイナーの仕事じゃないかなと思っています。私たちはアーティストではなくデザイナーですから、自分の考えや好みだけで制作してはいけないんですよ。自分のやりたいことを追求するのではなく、クライアントの意図を汲んで、より良くするのが仕事ですから。

ー そうですね。私も常々、Webデザイナーの仕事の守備範囲は本当に広いなと感じています。色彩やレイアウトなどのデザインセンス、HTMLやCSS、JavaScript、Flashなどの実装技術、さらにはクライアントに説明できる力まで。新里さんは、今後どこに注力していきたいと思っていますか?

私はワガママなので、いろいろなことに挑戦させてもらっています。ミツエーリンクスの場合は分業化されていて、デザインを担当する人、コーディングを担当する人、FlashやjQueryを使ったインタラクティブなコンテンツの実装を担当する人などに分かれています。私はオールラウンドに対応できるWebデザイナーになりたいので、デザイン志望で入社しましたが「実装もやりたい」っていい続けてきたんです。そうしたら、インタラクティブ・コンテンツ部に配属されました。この部署が担当するのは、インタラクティブなコンテンツを含むWebサイトの制作です。私はWebサイトのデザインに加えて、FlashやjQueryを使った実装も担当しています。実制作以前の、コンセプトメイキングや設計の段階から参加することもありますね。動く要素の多いキャンペーンサイトなどの場合、どこまでが実装可能かといった技術的な検討を初期段階からしておく必要がありますから。でも、私のようにいろいろやりたがるケースは社内でもレアだと思います。

ー スタッフの方向性を尊重してくれる会社で素敵ですね(笑)。インタラクティブなコンテンツということは、インタフェースの勉強も相当なさっているんじゃないですか?動くWebサイトのインタフェースデザインは凄く難しいだろうなと思うんですが、何か良い勉強方法はありますか?

ひたすら見る、見る、見る、ですね。ネットサーフィンをして、いろいろなWebサイトを見てまわっています。しかも見る時にはデザインがきれいといった感想だけで終わらないで、Web サイト全体の構造化の方法や、ユーザ導線の工夫、使い勝手、コードの書き方といったところまで、考えて読み取るようにしています。そうして、わかりやすい見せ方のパターンや、業界ごとのデザインのパターンなどを自分の頭の中に登録していくんです。ひたすら見て、ひたすら考えて、ひたすら登録していくってことが大事なんじゃないかと思います。


カッコイイと感じるWebサイトがあったら、自分も作ってみようと思う心が大切

ー 新里さんが入社した数年後からになりますが、ミツエーリンクスさんでは新人教育の一環としてCG-ARTSのWebデザイナー検定をご活用いただいてます。検定対応テキストの『Webデザイン』はご覧になりましたか?

読みましたよ。この本は仕事でWebサイトを制作する前提で、コンセプトメイキングから実制作、公開後の評価まで順番に解説している点が良いなと思いました。たとえばディレクションだけ、技術だけに限定して解説している本と違って、実際のWebデザインの流れが理解し易いので、学生時代に読んでおけば心構えができただろうなと思いました。入社当初は自分以外の人たちがどんな仕事をしているのか、デザイナーがどのタイミングから関わるのか、まったくわかっていませんでしたから。

ー では最後に、Webデザイン業界を目指す学生さんにメッセージをお願いします。

先ほど、Webデザイナーは自分の考えや好みだけで制作してはいけないといいましたが、学生のうちは作りたいものを思う存分作って欲しいです。作っていくうちに、この技術が自分には足りないとか、このデザインを実現したいからこれを勉強しよう、といった方向性が見えてくると思います。私がFlashを勉強し始めたのも、作りたいWebサイトを実現するために必要だったからです。作りたいものを作る方が、漫然と勉強するよりもグングン成長していけます。カッコイイと感じるWebサイトがあったら、自分も作ってみようと思う心が大切です。努力すれば誰でも絶対に作れるはずだから、尻込みしないで勉強しながら作っていく姿勢が大事だと思います。
ただしWebデザインを仕事にするなら、センスの良さや技術力の高さだけではやっていけません。クライアントにデザインを理解してもらうためには、そのデザインでどんな効果をねらっているのか、理論だてて説明できる力が必要です。未来のWebデザイナーを育てている先生方には、学生さんの作るWebサイトでお金が発生する想定で、効果が不明瞭なデザインに対してはあえてきつくダメ出ししてもらいたいですね。理論的に考えて説明する方法は、ジックリ教えてもらって、実践して、ダメ出しされて、修正するというサイクルを何度も繰り返さないと身につかないものだと思います。

ー 自分のデザインの理由を説得力のある言葉で説明できることが、アマチュアとプロの違いなんですね。学生のうちからその心構えがあれば、たのもしいWebデザイナーになれそうですね。

いまの学生さんは小さいころからデジタルに慣れ親しんでいるので、私なんかより技術力があるんじゃないかと思います。今年のミツエーリンクスの新卒も優秀でびっくりしますよ。負けたくないなって思います(笑)。

 

新里優姫(シンザト ユウキ)さん

株式会社ミツエーリンクス
コンテンツ・インテグレーション本部  インタラクティブ・コンテンツ部  デザイナー


最初にWebサイトを制作したのは中学2年生の時。それから大学を卒業するまでの間、独学でWebサイトを制作し続ける。早稲田大学 第二文学部(表現・芸術系専修)在学中は「かくれんぼ同窓会」に所属し、同会のWebサイトや会報制作を担当。アルバイト先でも、ポスターのデザインなどを任される。ミツエーリンクス入社後は、Webサイトのデザインやインタラクティブなコンテンツの実装を担当。現在はWebパブリッシングに興味があり、とくに掘り下げて勉強中。

 

尾形美幸

フリーランスのエディター&ライター。EduCat(エデュキャット)の屋号のもと「教育」を軸足に、Webサイトや雑誌での記事執筆、教材制作などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて、教材やWebサイトの企画制作を担当した後、2011年4月に独立。著書に『ポートフォリオ見本帳』(MdN/2011)、共著書に『CGクリエーターのための人体解剖学』(ボーンデジタル/2002)がある。