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2012/12/12更新

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長期コースと短期コースの両方で人材教育

このうちプロジェクト演習では、1年次から3年次まで継続的に参加し、ゼミ形式でゲーム制作を学習。1年次は導入期と位置づけ、前期でアナログゲームのデザインを学び、後期では全学生を対象にプログラミング言語(C++)による3Dゲーム制作を実施します。

2年次から3年次前半は訓練期で、チームを結成してゲーム開発を行い、東京ゲームショウのアマチュア部門入賞をめざします。3年次後期は再確認・挑戦期で、グローバルゲームジャムにも挑戦。日本工学院に通う専門学校生や、プロのゲーム開発者などと一緒になって、48時間でのゲーム制作に挑みます。ちなみに2年次以降は基本的に自習形式でプロジェクトが進行。大学院生や3年生・4年生といった先輩も、必要に応じてチームに加わって、指導を行うスタイルを取っています。

もっとも卒業に必要な単位ではないので、当初は200名近くいる履修者も、途中からどんどん脱落。最終的に十数名しか業界志望者が残らないが、意欲的な学生が、臆することなく、どんどん失敗しながら学ぶことができるようになりました。同校でゲーム教育の旗振り役をつとめる三上浩司氏は「前向きに失敗できる環境を整えることが大切」だと語ります。

一方メディア専門演習は、2年次の後期または3年次の前期のみの選択必修コースで、集中的にゲーム制作を体験する授業。24のテーマのなかには、Unity3Dを用いたゲームプロシェーディングと、C++ベースの独自ライブラリ「FK」を用いた3DCGプログラミングがあります。本科目は選択必修科目で、それまでゲーム制作に興味のなかった学生も多数存在します。このように学生のスキルが一定ではないため、初期の段階からゲームエンジンを導入にした授業が行われました。


ゲームエンジンの使用が目的ではない

演習で実施される開発環境も、2004年当時と現在では大きく変わりました。2004年時はプロジェクト演習でも2Dゲームが主体で、しばらくするとFKや、マイクロソフトのゲームデザイン、開発、管理のためのツールXNAなどが用いられるようになりました。一方でメディア専門演習では市販の『RPGツクール』という組み合わせで簡単にゲームが作れるソフトを教材に採用したほど。講義科目では座学のみで、ツールの使用はありませんでした。また卒業研究・研究開発でもFKが利用されていました。

これが今日では、プロジェクト演習ではUnity3D、UDK、FKなど、企画に適した環境を学生が自分たちで選択するようになっています。また1年次にはゲーム制作志望者全員に対してFKによる3Dプログラミングを勉強し、ゲームエンジンだけに頼り切ることのないように配慮。メディア専門演習だけでなく、講義科目においてもUnity3DやUDKが使用されるようになりました。卒業研究・研究開発でもFKに加えてUnity3DやUDKが活躍。FKもさまざまなプラグインやライブラリに対応するよう、拡張されています。

最後に研究開発分野でも、ゲームエンジンの活用事例が紹介されました。Unityを利用した研究例では、フロントガラスに付着する雨滴のリアルタイムビジュアルシミュレーションなど。UDKを利用した研究例では、アニメ的な形状変化のリアルタイム表現。FKを利用した研究例では、3Dモデルのリアルタイムな輪郭線の誇張や、オーロラのビジュアルシミュレーションなどです。

授業でゲームエンジンを導入したメリットとして、三上氏は「限られた時間にもかかわらず、演習の質が高まった」と言います。これにはさまざまな機能を活かすことで、作品の質が上がる側面と、産業界でも使われるツールで学習することで、学習体験の質が上がるという、二つの側面がありました。またゲームエンジンの操作に習熟することで、前述のグローバルゲームジャムなどに参加しやすくなり、プロと交流する機会も増加しました。

一方で「ゲームエンジンの使用が目的化しないように、配慮することも重要です」と三上氏は釘を刺します。どのような人材を育成するか設定した上で、それにあったゲームエンジンを学生自らが選択できるような機会を提供することが重要だというわけです。最終目的がより高度な技術習得にある場合は、あえて高度なゲームエンジンは使用するべきではありません。また使用する場合も作品や制作意図を重視した選択が推奨されています。ゲームエンジンはあくまでツールにすぎない・・・三上氏はそう強調していました。

東京⼯科⼤学メディア学部ゲーム教育資料


大学の研究分野にもゲームエンジンが普及

また研究開発におけるゲームエンジンの導入事例については、神奈川工科大学の小島一成氏からも発表がありました。小島氏はバーチャルリアリティをおもな研究フィールドとして、身体情報処理や映像&キャラクターコンテンツの研究開発などに従事。モーションキャプチャやAR技術なども積極的に活用してきました。

これらの研究開発を進めたり、公開したりする上で必要となる副次的な技術は、これまで研究室が独自に開発する例が一般的でした。しかし、それでは時間やコストがかかりすぎるリスクがあります。そこでゲームエンジンを適切に導入すれば、開発速度が向上するというわけです。小島氏はまた開発過程での視覚的な確認や、頭の中のイメージを具体的に設計できるなどの効果があるとも説明しました。

会場で紹介された研究事例は、デジタルコンテンツエキスポ2010で出展された「R2Chara AR」です。これは日本科学未来館とイマジカ、そして神奈川工科大学をインターネットで結び、モーションキャプチャによるリアルタイム処理や、AR(拡張現実)技術を用いたバーチャルキャラクターの展示を、未来館で実施するというものです。デモの3Dグラフィックエンジンには千鳥が採用されています。

「ゲームエンジンを適切に利用すれば、コンテンツの量産が可能になります。一方でゲームエンジンの導入は、教育カリキュラムにも影響を与えざるを得ません」。小島氏もまた、このように語ります。高性能で無料のゲームエンジンが複数存在し、自分たちで自由に選択できる時代が到来したいま、教育界でもどのようにゲームエンジンを導入し、使いこなしていくかが求められるようになったといえるでしょう。


「ゲームエンジン教育活用セミナー」の映像紹介

「ゲーム制作教育におけるゲームエンジンの役割と事例紹介」
   三上浩司氏

「画像情報関連研究へのゲームエンジンの活用と事例紹介」
   小島一成氏

「Unityの紹介及び教育事例紹介」
   高橋啓治郎氏

「千鳥エンジンの紹介及び教育事例紹介」
   山路和紀氏・浅井康平氏

「アンリアルエンジン(UDK)の紹介及び教育事例紹介」
   下田純也氏


ハンズオン形式のゲームエンジン導入セミナーのご案内

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「Introductory Course」2013年2月5日(火)9:45~18:00
「Advanced Course」 2013年2月26日(火)9:45~18:00

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小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム評評」(inside)など。著書に『ニンテンドーDSが売れる理由』(共著)『ゲームニクスとは何か』(構成協力)がある。NPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表。