2011/09/28更新

リポーター/尾形美幸

応募する会社や職種によって、評価されるポートフォリオの内容は違う

ポリゴンマジックで、プログラマとして同社のゲーム開発に携わっている南野さん

ポリゴンマジックの南野さんは、プログラマとして同社のゲーム開発に携わっており、CEDEC2011ではゲームAIのラウンドテーブルも共同主催されました。本セッションでは、同社のデザインセクションのリーダーの意見に加えて、プログラマがどういう視点でデザイナーのポートフォリオを見ているのか、といった点も紹介してくださいました。


南野さんは、ポートフォリオで重視することとして、つぎの3点をあげました。
1.オリジナル作品であること
学校の課題や、自分の好きな版権物の模倣作品だけでは、評価が難しいです。
2.人物、動物など、有機的な対象物のデッサンがしっかり描けていること
デッサン力を重視します。
3.さまざまなテイストの作品が入っていること
デザイナーは1人で絵を描くわけではなく、チームで絵作りをします。ほかのデザイナーのテイストや、クライアントが求めるテイストに合わせた絵作りができるかどうかも重視します。

さらに、ポートフォリオやデモリールを作る際に気をつけて欲しいこととして、つぎの3点を紹介しました。
1.ひとつひとつの作品のクオリティを上げることに力を入れて欲しい
2.作品数は多すぎても少なすぎても駄目。15〜20作品を目安にして欲しい
3.デモリールはどんな環境でも再生できるように、ベーシックなコーデックを選ぶなどの配慮をして欲しい

南野さんは、ポートフォリオを作ることは手段であって目的ではない、とも説明されました。

「ポートフォリオを作る目的は就職なので、どの会社に、どんな職種で応募するかによって、ポートフォリオの内容は変わってきます。会社は色々ありますし、同じ会社でもタイミングによって求めるものは変化します。同じ会社に同じポートフォリオを送ったとしても、採用されることもあれば、されないこともあります」

会社の需要を満たしていることが判断できるような内容のポートフォリオを送れば、採用の可能性があります。しかし、会社の需要は刻一刻と変化するので、タイミングや運に左右されてしまう部分も少なからずあります。つねに情報収集を怠らず、過去の成功事例をうのみにしない、そんなアプローチが求められるようです。

後半のレビューでは、作品のポリゴン数をアピールする学生に対して、プログラマらしいアドバイスをくださいました。

「ゲームの描画負荷は、ポリゴン数の多い少ないだけで決まるものではありません。たった1枚のポリゴンでも、もの凄くリッチなシェーダを使って、画面いっぱいに表示されていれば、負荷は大きくなります。描画負荷は、シェーダの重さや画面の占有率にも左右されます。もし興味があれば、ゲームのハードウェアやプログラムについても、もう少し踏み込んで勉強して、制作に活かしてもらえれば良いなと感じます。たとえば、シェーダのパラメータを操作できるデザイナーがいれば、凄いなと思いますよ」

デザイナー志望の学生が、テクニカルもある程度理解し、使いこなすことは容易ではないと思いますが、それが実現できれば強力なストロングポイントになることは間違いないと感じました。

何らかの一芸に秀でた作品の方が、採用側の印象に残る

オー・エル・エム・デジタルで、CG映像制作のディレクターを務める佐藤さん

オー・エル・エム・デジタルは、「ポケットモンスター」をはじめとする、TV・劇場用アニメーションや、実写映画のCGなどを制作するプロダクションです。同社でディレクターを務める佐藤さんに、CG・映像プロダクションならではの視点から、ポートフォリオにやデモリール期待することを紹介していただきました。

佐藤さんは、採用時に見ているポイントとして、つぎの4点をあげました。
1.センス
どういった絵心、映像センスがあるかが伝わるポートフォリオを求めています。デッサン力や、その人のもつ世界観がわかる作品が入っていると有り難いです。一定のセンスがある人なら、ソフトの使い方は社内に入ってからのトレーニングで身に付けられるので、CGのスキルは重視しない場合もあります。
2.技術
制作現場では、モデリング、リギング、ライティング、エフェクト、コンポジットなど、それぞれのパートに分かれて作業を行います。そのなかで、どのスキルに長けている人なのか、会社に入ってからどんな活躍が期待できる人なのか、具体的に見えてくるポートフォリオでないと評価が難しいです。使用しているソフトの種類は問いません。どんなソフトでも、それを使いこなしていれば、今後ソフトが変わっても同じクオリティの映像を作れるだろうと予想できるからです。
3.性格
性格は面接で判断されるものと思うでしょうが、意外とポートフォリオやデモリール、履歴書からも見えてきます。制作途中で妥協した作品と、ギリギリまでねばってクオリティを上げた作品の違いは、見る側に伝わるものだとスタッフたちがよく話しています。ポートフォリオのレイアウトや説明がすごく丁寧だったり、誤字脱字が少なければ、細かいところまで気がまわる、ミスの少ない人なんだろうなと想像できます。
4.その他
CGと直接関係しない経験や資格でも、CG制作に活かせるものがあるかもしれないので、盛り込んでいただければと思います。

さらに佐藤さんは、同社に採用された2名の新卒のポートフォリオとデモリールの事例を紹介してくださいました。

1人目は、アニメータ志望者のポートフォリオとデモリールでした。この方はアニメータ志望であることを第一に伝えるため、掲載する情報をアニメーションに関係することだけに絞り込み、何がしたいのかがぼやけてしまうことを避けるよう気を配ったそうです。

2人目は、とくにライティングに注力している方のデモリールでした。ライトをたくみに使い、世界観や質感を豊かに表現している点が、とくに評価されたそうです。1つの作品内の序盤と中盤で、ライティングに差をつけるなど、自分の強みをわかりやすくアピールする工夫を盛り込んだことが、評価につながったようです。

「これらの事例のように、アニメーションやライティングなど、何らかの一芸に秀でた作品の方が、たくさん送られてくるポートフォリオやデモリールのなかにあっても、印象に残ります」

作品にしろポートフォリオにしろ、制作にかけられる時間は限られているので、まんべんなく注力して、低いレベルのトータルバランスに留まるよりは、どこかにこだわりをもって学習し、その成果をポートフォリオでプレゼンテーションする姿勢の方が、採用側の目に留まりやすいし、思いも伝わりやすいというアドバイスで締めくくられました。

前編で紹介した3社の登壇者のメッセージには、微妙に異なる部分もあれば、共通する部分もあったと思います。ポリゴンマジックの南野さんが語ったように、ポートフォリオに求められることは、会社によって、タイミングによって異なります。その一方で、どの会社にも共通するポイントも存在します。それを具体的に感じていただくため、後編ではさらに3社の事例を紹介します。

〜センスとスキルをアピールできる、ポートフォリオの作り方とは 後編〜