2011/05/25更新

リポーター/尾形美幸

プロダクション制作を意識した、フィルムアカデミーのカリキュラム

「フィルムアカデミー・セッション」と題されたセッション群では、アニメーション、 VFX、テクニカルディレクター(TD)、インタラクティブメディアなどの分野に分かれて、在校生たちが作品の制作工程を自らプレゼンテーションしていました。各分野とも、1時間弱のセッション枠のなかで、5人前後のプレゼンターが順番に登壇しました。学生が主役のセッションでしたが、約150人を収容する会場は常時満席に近いにぎわいで、時には入場制限によって入室できない人が出るほどでした。

アニメーションやVFX分野のセッションでは、チーム制作による短編映像の制作工程を、チームの代表者が紹介していました。表現手法は、実写合成、フル3次元CG、2次元CG、人形アニメなど、非常にバリエーションが豊かでした。ただ、2次元CGや人形アニメといっても、作品の世界観を壊さないように配慮しつつ、様々なデジタル処理が臨機応変に施されているようでした。3次元CGだけでなく、様々な手法を学ぶ選択肢が用意されている環境は、学生の感性を磨き、視野を広げる効果があるように感じました。

どの作品も、芸術性、エンタテインメント性の両面でレベルが高く、また、プレゼンテーション自体も洗練されており、よく訓練していることが伺えました。とくに驚いたのは、学生たちが、作品の制作をプロダクションの大規模制作になぞらえ、小規模ながら本格的な制作工程、ワークフロー、パイプラインの実現を目指していることでした。

たとえば、2次元CGアニメーションのプレゼンテーションを行った学生は、実制作(プロダクション工程)に入る前の準備段階(プリプロダクション工程)にかなりの時間を割いたことを紹介していました。作品の世界観を膨らませるため、大量の写真や映像資料を集める。色が人の心理に与える影響を考慮して、シーンごとの配色やライティングを決定する(ハッピーなシーンでは明るいオレンジ色を使い、主人公が危険な目に合うシーンでは濃い茶色を使うなど)。アニマティクスによってアニメーションのテンポやカメラワークを確認する、といったことを実践したそうです。

フル3次元CGアニメーションのチーム制作でTDを担当した学生は、チームの他のメンバーの多様な要望を受けて、解決策を提案し、実際にツールを作成して使用してもらい、フィードバックを受けて、さらにツールを改良する、といったプロセスを実行していました。キャラクタの動きに合わせてその皮膚をリアルに変形させるための筋肉シミュレーション、キャラクタの個性に合わせたリグの設定、異なるアプリケーション間でのデータ変換、炎のエフェクト、シェーディングネットワークの作成など、その守備範囲は多方面にわたっていました。

アニメーションセッションのスライド

TDセッションのスライド

学生支援という目的に、多くの人と組織が賛同

FMXを牽引してきたトーマス教授

国内外の多くの専門家と学生を巻き込み、大きく成長したFMXですが、第1回が開催された当初は、その規模は非常に小さなものだったそうです。当時を知るフィルムアカデミーのOBは、学生のための小さな勉強会にすぎなかったと語っていました。今日までのFMXの成長は、同校のアニメーション科の責任者で、FMX2011のカンファレンス・チェアを務めたトーマス教授(Prof. Thomas Haegele)の情熱によるところが大きいと、多くの人が語っています。FMXの運営スタッフや、フィルムアカデミーのOBなど、何人かにインタビューしましたが、全員が口を揃えてトーマス教授の情熱と牽引力を称えていたことは印象的でした。

現在、バーデン・ヴュルテンベルク州は、シュトゥットガルトをアニメーション・メディアのクラスター地域とするため、様々な活動を行っています。たとえば、FMX会場の徒歩圏内では、アニメーション・プロダクションどうしのビジネスを支援する“Animation Production Day”と、一般市民が気軽にアニメーションを楽しめる“Stuttgart Festival of Animated Film”というイベントも同時開催されていました。アニメーションを制作する専門家と、それを楽しむ観客、制作者を育成する指導者、制作者を志望する学生が集うことで、地域が盛り上がり、世界中から才能ある人々や、ビジネスの機会、多様な文化、情報が集まってくると、トーマス教授は語ります。同州は財政面でのサポートも行っており、2010年には、同州内のフィルムメーカのために、200万ユーロ以上の支援がなされています。

FMX会場からほど近い、上写真右側の建物が
"Stuttgart Festival of Animated Film"のメイン会場

市内中心部の公園に野外上映用の巨大スクリーンが設置され、
常時アニメーションが上映されていました

FMXの運営においても、同州の財政支援は欠かせない存在のようです。冒頭で紹介したように、FMXの参加費は学生の参加を考慮して、低く抑えられています。その裏には、同州と、セッションに協力する各プロダクションの理解があると、FMXの運営スタッフは語ります。
「FMXの目的は、学生を支援することであって、運営で利益をあげることではありません。この考えに多くの人が賛同してくれているお陰で、FMXは成り立っています」

FMXは、日本の学生はもちろん、大学やスクールの教員、プロダクションの人材育成や採用担当の人にとっても、得るものの多いカンファレンスだと感じました。FMX2012の開催時期は、5/8〜5/11です。ぜひ来年は、より多くの日本人が参加し、欧米の産学連携や人材育成の現状を体感してくださることを願っています。