2011/12/21更新

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/大沼洋平

ディレクションへの新たな挑戦

(C)SEGA /(C) Crypton Future Media, Inc. VOCALOIDはヤマハ株式会社の登録商標です。

初音ミク –Project DIVA-』(2009)から最新作『初音ミク –Project DIVA- extend』(2011)まで、OPムービーのアニメーションを担当している木下さん。キャラクターの動きで個性を演出するため、次の点に気を配っているという。

「OPムービーでは、キャラクターごとの個性を反映したカッコ良さや可愛さを、顔の表情や身体の動きで表現するように意識しました。たとえば走り方1つでも、色々な見せ方があります。『こういう走り方をさせた方が可愛いんじゃないか?』とか、『このキャラクターらしい走り方は?』といったことを、つねに考えながら制作しました。こういったアプローチは、初音ミクのシリーズに限ったことではありません。ほかの作品の場合も同様ですね」

最近の同シリーズでは、アニメーションスーパーバイザーを任せられるようになっている木下さん。ライブイベント『初音ミク ライブパーティー 2011』の東京、札幌公演用の映像制作では、プライベートで何度となく通ったライブの経験が役立ったという。このイベントでは、実際のライブ会場のステージに配置したスクリーン上に、CGキャラクターの初音ミクが投影され、ライブパフォーマンスを行う。木下さんは、イベントの主役である初音ミクのアニメーションはもちろん、それに付随するライブ全体のディレクションにも関わられたそうだ。

「ゲームムービーと音楽ライブ用の映像では、求められる演出が大きく違います。たとえば、しっとりした曲を歌っているときでも、間奏に入ったら観客を盛り上げるためのアクションを入れる、といった工夫が必要です。こういった演出を考える上で、過去に観客として通ったライブの経験がとても参考になりました」

実際のライブ会場では、全体のアニメーション構成を知っている木下さんが、カメラアングルや照明に関する要望を舞台監督に伝え、包括的な演出を行ったそうだ。通常の映像制作は納品によって完了するが、今回のケースはそれだけに留まらない。出力先の状況に合わせて、観客のリアルタイムな反応までも考慮した映像演出を行う木下さんの仕事は、業界でも希有なものといえるだろう。木下さんは自らの今後の課題として、ディレクションをする上で必要な、総合的な知識の向上を考えているという。

「今までは、アニメーションのスペシャリストを目指して、アニメーションに注力して頑張ってきました。けれど、ディレクションをする立場となってからは、キービジュアル用の1枚画から、全体的なワークフローの見直しまで、広範囲の要素をコントロールすることを心掛けています」


(C)SEGA /(C) Crypton Future Media, Inc. VOCALOIDはヤマハ株式会社の登録商標です。
最新作『初音ミク –Project DIVA- extend』(2011)で、木下さんはアニメーションスーパーバイザーとしてOPムービーを担当。初音ミク独自の文化に合わせたアニメーションの制作は、試行錯誤を繰り返しながら進められた。

やりたいことを明確にして、芯の通った作品を作る

昨今、CG業界へと進む学生の数は昔に比べ減少しつつあるといわれている。こういった状況の中、木下さん自身は業界に若い人材がもっと必要だと考えているという。

「学生の作品を見せてもらった際に、『何を見せたいのか、何をやりたいのかが伝わってこない』と感じることがありますね。自分のやりたいことが明確で、きちんと作品に芯が通っている、そんな人に会ってみたいです」

自分のやりたいことを自覚しているかどうかは、作品に表れてくるという。最後に木下さんは、業界を目指してCGを学んでいる学生達に向け、次のように語ってくれた。

「1つのことを続けていくと、モチベーションが落ちることもあります。そういう時こそ、何故それをやりたいと思ったのか思い返してほしいです。初心を思い出すことで、もちこたえられる場合もありますから」

一見すると飄々とした印象を与える木下さんだが、話を通して、内に秘めた情熱や、芯の強さ、学びへの真摯な姿勢が伝わってきた。日々技術が高度化するCG業界では、プロであれ学生であれ、学び続ける姿勢が重要なことに変わりはないのだ。