大学・企業現場リポート ディジタル最前線

Vol.20 博報堂のDNAを引き継ぐクリエイティビティの高いWeb制作

日本で有数の総合Web制作会社。

ブロードバンド化が進み、ブログやソーシャルネットワークなどが隆盛を迎えるネット状況の中で、Webを活用した、より実効性の高いインタラクティブコミュニケーションやWebコンテンツの新しい魅力づくりがますます求められている。
そうした中、博報堂の伝統ともいえる高いクリエイティブ力を発揮しながら、企業サイトやキャンペーンサイトなどの企画・プロデュース、制作、システムの構築・運用・管理までワンストップで行い、一流企業をはじめとするクライアントから高い信頼と評価を得ているのが、日本でも有数の総合Web制作会社『博報堂アイ・スタジオ』である。2000年に博報堂100%出資のグループ会社として設立された。

岩本社長は、「設立当時は、広告業界もマス中心の"オールド・エコノミー"の時代。商品のブランディングやキャンペーンを考えるとき、Webという新しい発想がまだ出てこない頃だったんですね。私は2代目ですが、初代社長の石川さんが苦労して組織をつくられ、現在では約200名を数える体制までになりました。Web業務はネットワークシステムをベースに、クリエイティブとプログラミングの2つの制作機能の融合が必要だと思います。そういった面で、わが社はプロデューサー集団であるWebソリューション部の統括のもとに、編集・解析・コンテンツ開発を行うコンテンツ企画部、デザインを行うクリエイティブ部、HTML・CSS設計・更新を行なうグラウンドワークデザイン部、Webによる新しいサービスメニューを創り出すビジネス開発部、さらにネットワーク構築・事務局運営を行うシステム&オペレーション部が有機的に機能しますので、対応のキャパシティと質の高さの両面でお得意様から評価をいただいていると思います」と語られた。




さらに岩本社長は、「今はWebが生活者のすぐ隣りにある時代です。Webの強みはまずブランディングの深化・拡大ができること、次に企業の顔となること、さらに購買導線の役割を果たすことなどです。たとえば、購買導線という点では、自動車メーカーさんの場合、新聞広告よりもWebのほうがアクセスが多いです。そうした強みを活かして、マス4媒体とどう組み合わせて、商品ブランディングやキャンペーンの戦略的な構築を行っていくか、この辺の全体像を博報堂と一緒になってご提案できるのがわが社の強みではないかと自負しています。 Webは直感型コンテンツよりも学習型コンテンツのほうが効くメディアです。
たとえば食品や飲料などはTVスポットをやらないとコンビニが商品を置いてくれませんので、当然TVスポットはやるとして、そこから雑誌広告などを飛び越して、いきなりWebの学習型コンテンツに誘導するという手法も多くなっています。学習型というのは、たとえばビールの場合なら、そのビールの開発の歴史や製法、そのビールに合ううまいものといったうんちくなどを紹介していくもので、こうした学習型に見合ったサイトづくりが重要なわけです。
ユーザーが知りたい知識の階層も当然深くなりますから」と商品特性によるサイト構築の違いについて語られる。

数多くの賞を獲得したクオリティの高いサイト制作

博報堂アイ・スタジオが手がけたサイト構築は一流企業のブランディングサイトやキャンペーンサイトなど数多くあるが、コンテンツ企画やWebデザインなどにさまざまな新しい試みが行われている。
たとえば、第4回東京インタラクティブ・アド・アワードのサイト部門<キャンペーンサイト>に入賞したトヨタ『Search! AVENSIS』では、トップページにPIP(Person in Presentation)という画面内の歩いている人物をクリックするとこちらに話しかけてくる手法が用いられるとともに、ヨーロッパの地図上でロンドンやコペンハーゲン、ベルリンなどの都市をクリックすると、現地のアベンシスユーザーが愛車を運転しながら自分の街の紹介やアベンシスの魅力などを語る映像が放映される。

「アベンシスは欧州風ではなく、欧州生まれのクルマであることがコンセプト。そのため、ヨーロッパでの話題を逆輸入しようということで、この映像のためにチームを組み、主要都市で直接ユーザーに取材・撮影しました。マス媒体のクリエイティブと一緒に作業を進めることで、アベンシス・ブランドとして、より統一感のあるコンテンツになりました。これまでのWebは予算面などでもマス媒体のおまけ的なことがあったのですが、アベンシスはまさにWeb中心の媒体計画でしたし、楽しみながらブランド理解が深まる学習型コンテンツの例といえます。
Search! AVENSIS
トヨタ『Search! AVENSIS』


ボーダフォンの『Design File』の場合は、Webだけがつくられ、TVCFはつくられていません」と岩本社長。
第3回東京インタラクティブ・アド・アワードの金賞や第9回文化庁メディア芸術祭の優秀賞、第52回カンヌ国際広告祭の銅賞を受賞した作品。プロダクトデザインに優れたリリースモデルやコンセプトモデルのデザインや機能、ユーザーインタフェースが紹介されるとともに、オリジナルBGMとFLASHコンテンツによりさまざまな動きの中で各端末の世界観が体感できるようになっている。
Vodafone Design File
ボーダフォンの『Design File』

岩本社長は「優れたプロダクトデザインの製品を紹介するサイトですから、そのWebデザインも優れたものでなければなりません。見せる写真をよりきれいにするため、各端末の写真もこのサイトのためだけに撮影するなど、スタッフも相当苦心したようです」と制作の狙いや苦心を語られる。     

Webサイトを超えて、店頭プロモーションシステムも開発

「One show Interactive 2006」や「New York ADC(85th)2006」といった海外の賞を受賞したのは博報堂と博報堂DYメディアパートナーズの採用情報サイト『Recruit 2007』。運命の赤い糸をモチーフとして「むすぶ」をテーマに制作しており、各項目の英文タイトル同士が糸で結ばれているというユニークな仕掛けだ。とくに「Freshman's day」というページではさまざまな新入社員の一日が糸で結ばれた写真カットとそれをクリックすると現れるショートコメントで構成され、見ているだけで楽しくなるサイトである。

 さらに、Web制作のみならず、ソリューションビジネスの新しいカタチとして、店頭プロモーションシステムも手がけている。ある自動車メーカーの全国の店頭ショールーム用に開発したもので、50インチ大型モニターで店舗内に展示していないクルマや顧客の好みの車体色・アクセサリーなどを実車に近いCGと映像で見られるようにコンテンツ制作とシステム構築を行った。
 岩本社長は、「小さい店舗では、多くのクルマを置くスペースを確保できません。このシステムがあれば、タッチパネル的に実車と同じような状態で確認ができ、これだけで店頭でのプレゼンテーションが可能です。また、ディーラーは展示車を買わないですむため、コストの削減にもつながります。このように、Webで培ったグラフィックデザイン力やユーザビリティ、技術力などを店頭まで結び付けられるのがわが社の強みだと思っています」と語られた。
Hakuhodo & Hakuhodo DY media partners_ @Recruit 2007
『Recruit 2007』


ボールを投げれば、しっかりと跳ね返ってくる仕事を心がける。

博報堂アイ・スタジオでは、クライアントからオーダーがあった時、プロデューサーが仕事を請け、プランナーやコピーライター、デザイナーも加わり、スタッフミーティングでアイデアや企画をまとめ、デザインの組み上げやコーディングへと実制作を進めていく。

 岩本社長は、「Web制作は広告会社が行うものと情報系Web会社が行うものと、ほぼ2通りあります。広告会社は広告的な手法やキャンペーンのノウハウが活かせ、プランニングやグラフィックに強いのが特長です。また、情報系Web会社は情報システムや情報デザインに強いのが特長だと思っています。わが社の最大の経営資源はまさに博報堂であり、プランニングやグラフィックなどにもその文化的なDNAを引き継いでいます。広告は経済活動であり、経営戦略です。常にお得意様が満足するソリューションは何かという視点を持ち、ボールを投げればしっかりと世の中から跳ね返ってくるような仕事を心がけています。CGMやWeb2.0などカスタマーの情報発信力が高まっていますが、そうした進化をうまく活用していきたいですね。これからも決して単に技術ありき、表現ありきだけの技術屋や芸術家のタコ壺にならず、得意先や生活者のニーズを見極めたうえで自分たちが何をつくりたいかをまず大切にしたいと思います。そして、そこから必要なものをどう組み合わせてソリューションしていくか、そのソリューションを実現するための技術の最適化をどうはかっていくかを実践していきたいと思います」と抱負を語られた。



これから期待する人材として岩本社長は、「わが社の場合では、一流の企業サイト、一流のキャンペーンサイトの制作が中心になりますので、大きい仕事が多く、表現の自由度も高い分、必然的に仕事の要求レベルが高くなります。ですから、基礎がしっかりしていないと駄目ですね。色彩、情報デザインやグラフィックデザイン、映像、ギミックなどの幅広いセンスが求められます。Webサイトもブランディングですから、裏側のソースも含め、表現だけでなく高い情報デザイン力が必要です。当然、それぞれの分野のスペシャリストがいますが、Webデザイナーも、社会や企業や生活者を俯瞰的に眺めて大きな方向性をつくるような『構想力』をもつことが大切です。それを身につけるために、基礎からしっかりと努力を重ね、センスを磨いていただきたいと思います」とエールをおくられた。

 

[Vol.19] 大ヒットの話題作
『デスノート』のCGを制作
[Vol.18] 産学連携により、学生や研究者に夢を与えながら地域を活性
[Vol.17] 次世代コミュニケーションテクノロジーの創出
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[Vol.14] 札幌から発信する独自の3DCG開発ノウハウ
[Vol.13] 5000万アクセスの超ヒットゲーム
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[Vol.9] 映画「HINOKIO」で、子供たちが未来に飛翔する勇気を与えたい。
[Vol.8] 人と人との新しい出会いと深いつながりを求めて。
[Vol.7] 「形状研究を軸に多様な領域に対応」 GPU クラスタによる汎用計算技術の開発へ
[Vol.6] 質感を見て、触って、脳で感じる。日本発の感性情報技術を
[Vol.5] 「CGをコミュニケーションツールに」インタフェース研究でCGに新たな可能性
[Vol.4] SIGGRAPH2005特集
[Vol.3] 公平で円滑なデジタルコンテンツの流通をめざして。
[Vol.2] 世の中に真に役立つ技術を求めて。
[Vol.1] 人間の個性や人間らしさをデジタルでサイエンスする。
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