大学・企業現場リポート ディジタル最前線

Vol.19 大ヒットの話題作『デスノート』のCGを制作

原作コミックも実写映像も大きな話題を呼んでいる『デスノート』。

豊嶋氏 “このノートに名前を書かれた
               人間は死ぬ”。
その衝撃的な内容と独自の世界により、週刊少年ジャンプでの連載スタート以来大きな話題を集めた大場つぐみ原作、小畑健画の超人気コミック『DEATH NOTE(デスノート)』。
退屈な死神が人間界に落とした、文字通り、人の死を決定付ける“死のノート”。拾ったのは一流大学のエリート学生・夜神月(やがみライト)。彼は世の中に放置されている犯罪者たちに次々と死の制裁を下していく。そして、捜査に乗り出したもう一人の天才L(エル)との壮絶な頭脳戦がはじまる・・・というストーリー。
それが、2006年6月ついに実写映画化された。映画は平成ガメラ3部作の評価が高い金子修介監督がメガホンをとり、主人公の夜神月を藤原竜也、探偵Lを松山ケンイチが演じた。その素晴らしい出来栄えが評判を呼び、原作を読んだ人は映画館に通い、映画を観た人は原作を読むという相乗現象を引き起こした。
6月の前編公開では開始2日間で30万人以上を動員し、『ダ・ヴィンチ・コード』を抜いて初登場第1位を記録したという。 また映画の大ヒットを受けて、原作コミックスも2000万部を突破する大ベストセラーとなっている。
 
  この話題作のCG制作を担当したのが、映画『ピンポン』や『亡国のイージス』、
『テニスの王子様』などのCG制作やフルCG映画『アップルシード』など数々のCG作品を手がけて
きたデジタル・フロンティア社である。


CGプロダクションとして急成長したデジタル・フロンティアと豊嶋氏の出会い。

これらの作品のCG制作に携わり映画『デスノート』でもCGプロデューサーを務められた豊嶋勇作氏は、東京農工大学工学部の大学院在籍中に、「専攻していた化学より映像制作に興味をもち、コマ撮りかCGかと考え、これからはデジタルの時代、CGの時代がくる」と確信し、CG業界への進路を決められたという。
大学院卒業後CG-ARTSのCG検定2級を受験し、見事合格。その認定証を持参し、デジタル・フロンティアに入社された。当時会社はまだ7〜8人の規模だったという。
「CG検定のお陰でこの会社に入れました(笑)。
2006CG検定自分で大学の研究室にあったMacでCGを作ったりしていましたが、学校での専攻がCGとはかけ離れていたので、CG検定というお墨付きがあったことで、会社側に安心してもらえたようです。」と豊嶋氏。
入社後1年半のCGデザイナーの経験を経て、プロダクションマネージャーからプロデューサーへ。

少人数ながら、ゲームやCMのCG制作に定評のあったデジタル・フロンティアは2003年にフルCG映画『アップルシード』を実質制作期間11ヶ月という非常に厳しい状況を乗り越えて完成させる。この作品制作をきっかけにCGプロダクションとしての知名度をあげたデジタル・フロンティアは、会社の規模を拡張し、いまやスタッフ数170名の規模になっている。
これからは、今までの実績と体制を生かして、より多くのCG作品を手がけていきたい「フルCGのテレビシリーズなども近いうちにやってみたいですね」と今後の抱負を語られた。

カット数が多く、長尺のCGを短い制作期間内でいかに実現するか。

『デスノート』について豊嶋氏は、「実は原作にインパクトを受け、フルCG映画を提案していたんです。
その企画は実現しませんでしたが、実写映画化にあたり、巡り巡って、CG制作を担当することになりました。
実写映画の中で、夜神月とからむ死神リュークだけが架空の存在です。身長2m30cm、長い手足という体型のため造形では難しく、リュークをCGで表現することになったわけです。映画に使われるCGの75カット中、70カット弱がリュークです。しかも、今回は1カットの尺が長く、一番長いもので1分半近くもありました。このように長尺のものはCGの作り込みが難しくなり、制作時間がかかります。
夜神月役の藤原竜也さんの撮影スケジュールが全部で1ヶ月しかありませんでしたので、リュークとからむシーンの撮影終了時期がまず心配でした」と制作への経緯を語られる。

            

原作がもつ死神リュークのコミカルさや人間くささをどのようにして描くのか。

制作期間の制約から、今回はCG担当のディレクター、VFX担当のディレクターのもと、CGのプロダクションと撮影現場での指示という2系統の制作体制が編成された。
CG制作にあたえられたのは2ヶ月。先に作られていた等身大のリューク人形と原作コミックを参考にして制作は進められた。

  豊嶋氏は、「このリューク人形の顔、これが、実物の迫力で原作より怖い(笑)。
まずは造形ありき、でこの人形からベルトやチェーンまわりをつくり、あとは原作コミックを忠実に再現して、手足の長さや猫背の感じ、口の裂け具合、髪の毛などをつくっていきました。テクスチャはリューク人形から素材撮りして加工。 肩の羽の部分や首の細かい筋、髪の毛などは実写映画になじませるための細かいディテールの処理を行いました。
リュークの動きはモーションキャプチャを基本にし、原作がもつコミカルさを活かしています。キャラも原作から読み取って、より人間くさいものに仕上げるようモーションデータを加工しました。
フェイシャルアニメーションは手つけでやっています。
苦労した点はリュークの顔を特長づける歯を常に見せつつリップをあわせることでした。やはりリップがあっていないとリアリティが急になくなりますからね。」と語られる。

 「今回注力しなければいけなかったのはリュークをどう本物らしく表現するかという点です。
形状や質感、アニメーションから合成にいたるまで全スタッフがその点に細心の注意を払って作業を行いました。ご覧になるお客さんは、当然リュークをCGだと認識して観る事になります。
化け物とはいえ、フルCGの役者を生身の人間と実写の世界で掛け合いをさせ、違和感なく映画の世界に没入できる“存在感”が出せるかどうかが勝敗の分かれ道だったと思います」と続けられた。

※図の説明
【上】カメラを合わせるため、ライティング、リュークの影を落とすために、
   撮影で使われたバスを計測、写真を元に、3Dモデルを作成。
【中】撮影時に計測したカメラの位置情報を元に、Maya上でカメラを配置。
   リュークの動き、表情を作成。
   下絵に合わせてライティングを行なう。
【下】Mayaで、ライティングした素材、調整用の素材をAfterEffectsで合成。
   背景になじむようにカラー調整した最終画像。



実写とCGの絶妙なからみに苦心。

実写の夜神月とCGリュークとのからみは、マッチムーブ、モーションキャプチャ、モーション編集といった流れで行われた。とくにモーション編集では先に撮影された実写映像を取り込んで、部分部分の細かい動きが一致するように微調節されたという。

 豊嶋氏は、「本当はリュークにもっとリアルさと人間らしさを与えるために、フェイシャルキャプチャーも同時に収録し、藤原さんとの合わせをしたかったのですが、時間の都合でできませんでした。でも、藤原さんが常にリュークを意識した視線をもって演技してくれましたので、からみのシーンもうまくいきました。また、自社で大規模なモーションキャプチャスタジオ(オパキス)を持っていますので短期間に大規模なデータ処理ができ、そのおかげで期限内に満足がいくものを完成することができたと思っています」とほっとした様子で語られた。

        

11月の後編公開に向けて、着々と制作中。

ファン待望の後編『DEATH NOTE the Last name』はいよいよ11月に公開される。
期待が高まる中で豊嶋氏は、「やはりCGの制作時間が短いのは前編も後編も変わりません(泣)。
リュークや死神レム以外にもCGで描くキャラクターが増えますので、CGのカットもかなり増えそうですよ。映画の尺も長くなりますし・・・。
まず形にすることが大事なので、いま一所懸命制作を行っています。レムの形状表現では難しい要望もでていますのでとても苦労をしていますが、完成を楽しみにしていてください。
映画公開後、ブログやmixiなどでの反応を見ているんですが、8割くらいの人にデスノートのCG、良かったよとほめられていました。映画の評価でCGがほめられるのは珍しいことなので、とてもうれしいですね。後編もぜひ期待して観ていただきたいと思います」と後編への抱負を語られた。



※図の説明
【左】表情はMayaのBlendShapeで作成され、多くのパターンが用意された。
【右】撮影された下絵にあわせて、boujouを使用してカメラマッチムーブを行いMayaにExport

CGは人がつくるもの。絵が描けることが基本。

これからCG業界を目指す人に向けて豊嶋氏は「いま自分が何をやりたいか迷っている人が多くいますが、嘘でもいいからこれだと決めることです。10年位同じ仕事をやれば、何とかなるものです。
CG検定をうけるというのも進路を決める方法のひとつでしょう」と語られた。
これから期待する人材としては「いま我が社では美術系学校限定でCGの無料養成講座を開いています。パソコンが使えなくてもCGソフトの使い方を知らなくても、『CGは人がつくるもの』、絵が描ける人が求められています。この講座に応募してもらうのもまたひとつの方法です」とつけくわえられた。

「私もCG検定を受けていたときの気持ちを忘れず、CG業界の発展に寄与していきたいと思っています。
迷わず進んでください。」とエールを贈られた。

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