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2017年11月15日、CG・映像を超えたメディアとの融合について、これからのビジュアルコンピューティング(VC)の発展の方向性、新奇性を探求するセミナーを画像電子学会との共催にて開催しました。このセミナーでは制作現場や研究機関で活躍される方々を迎え、先端技術の紹介からエンターテインメントでの活用、AI(人工知能)の未来まで、さまざまな角度で解説、セッションいただきました。今回はその様子をリポートします。

HoloLensが実現するMRの世界

最初にご登壇いただいたのは、国内においてMicrosoft HoloLens(以下、HoloLens) やWindows Mixed Realityを日本でいち早く取り組み、全国各地でMeetupの開催など最新コンピューティングの調査・研究・開発・啓蒙活動と精力的に活動されている中村薫氏です。中村氏は2017年1月に仲間とともに株式会社ホロラボを設立し、代表を勤められています。今回の講演ではHoloLensの機能と活用事例の紹介を中心に、実際にデモを行いながらその魅力を語っていただきました。

HoloLensとは、MR(Mixed Reality:複合現実感)による3Dホログラムの閲覧、キーボードやマウスを使う代わりに身体によるジェスチャーや、視線によってアプリケーションの操作を行うことができる頭部装着型のPCです。VR(Virtual Reality:仮想現実)体験をするHMD(ヘッドマウントディスプレイ)とは異なり、ケーブルレスであることが大きな特徴です。ハードウェアスペックは、ATOM 32bitでクロック数は1GHzと決して高くはありませんが、位置認識においてはHPU(ホログラムプロセッシングユニット)という専用のプロセッサで処理をすることで、高精度かつ安定した位置認識を可能としています。

HoloLensの最大の特徴は、3Dデータを3Dのまま見ることができることであり、ビジネスにおいても力を発揮してくれます。例えば、施工や建築業において、2D表示のみのプレゼンしかできなかったことが実寸サイズでプレゼンすることが可能になり、建築中の現場にCADデータを重ねることも可能なので、完成のイメージを高めることができます。また、教育現場でも数学や物理演算、医療系では実寸の3Dモデルを使って身体構造を理解することができるコンテンツもあり、学習において理解を深めるためのツールになっています。また、HoloLensはチームとプロジェクトを共有するデバイスとして活用されることを得意としています。例えば、エレベーターの保守管理においては、メンテナンスを事前にシミュレーションができたり、さらには現場にHoloLensを持ち込むことで、作業者の視点を遠隔地にいる上司やベテランとリアルタイムでイメージを共有し、サポートを受けることも可能です。ただし、このHoloLensは視野角が狭いのでサイズが大きなものを見ると画面がみきれてしまったり、データ量の大きなものは処理ができないなどの課題はまだあります。

HoloLens以外にも、Windows Mixed Realityというイマーシブ(没入型)ヘッドセットを扱う、いわゆるVRタイプのヘッドセットもあります。従来のVRと異なるのはPCに接続するだけでVR環境が手に入るところです。HTC Viveなどのように外部センサーを必要とせず、Intel内蔵のGPUでも動作します。HoloLensと違い、性能は使用するPCに依存することになるので高性能なPCの場合は、より快適な動作が見込めます。ただ、HoloLensのように現実世界を取り込んだ状態での空間マッピングは不可能なため、ひとりで歩き回るといったことはできません。
HoloLens、Windows Mixed Realityの技術はこれからさらに大きく発展していく技術であり、既に日本の複数の企業で利用されています。今後、生活やビジネスの両方において大きな影響を与える存在になることを示唆されていました。

 

高速画像処理が切り拓く知能システムの未来と産業応用

ご登壇者は東京大学 情報理工学系研究科の研究科長を勤められている石川正俊先生です。石川先生の研究室は長きに渡り高速画像処理の研究を進めてこられ、産業の発展に大きな功績を残されてきました。今回はその高速画像処理の研究の歴史と成果をCGやバーチャルリアリティでの活用事例を交えながらお話いただきました。

通常、映像を撮影したり表示する際は30fps、60fpsですが、高速画像処理では映像を取り込む処理から処理結果を表示させるまでのフィードバックを1,000分の1秒(1,000fps)で実現する技術です。これまでの画像処理の高速性においては懸念を抱くことが多々あり、「ロボットカメラにおいては検査、自動車、バイオテクノロジー、医療など30fpsだと機械の方が動作が速いので制御が間に合わないことが多かった。私たちはこうした問題を順番に解決し、提案をしてきた。人間はディスプレイに表示された映像は30分の1秒程度にしかみえないので、人間の目に合わせたディスプレイをつくればここまで早くすることは必要ないだろうと思われているが、決してそんなことはない。システムを早くすることで、今まででは考えられないようなスピードでシステムを動かすことが可能となり、産業界において大きなメリットを生みだす。」と述べました。

石川先生はこれまで研究室のメンバーと開発された『汎用積層型ビジョンチップ』、『アクティブビジョン』、『Dynamic Projection Mapping』、『高速プロジェクタDynaFlash』、『じゃんけんロボット』などを例に技術の説明、開発にあたって乗り越えてきた課題を語られました。

多くの高速画像処理システムを開発されてきた石川 渡辺 研究室ですが、実現までの道のりは長く、元々の研究基盤であった高速画像処理カメラの開発だけでは不十分であり、システムを構成する全てを高速化することが必然だと考え、高速画像処理の技術をフルに生かすため2002年頃に意を決し、コンピュータ、ディスプレイ、モーターなど高速画像処理に必要と思われるシステムすべてを研究室で開発することになったようです。

現在、長い年月をかけて研究してこられた高速画像処理技術を社会への普及と実用化を推進するために、石川 渡辺 研究室では『WINDSネットワーク』を2016年から運営され、フォーラムを行うなど、これからの国内における高速画像処理の技術の発展のために積極的に活動されています。

石川先生は最後に、「私達の研究室では時間密度と空間密度の両方を捉えている。社会は空間密度ばかりに興味が向きがちだが、もう少し時間密度を見直して欲しい。そうすることで実世界と実時間に遅延なしの世界ができる。画像処理を高速化するということは単純に早くするだけでは意味がなく、いろいろなシステムと連携していかなければいけない。人間の目を超える時間密度があると、人間に対するディスプレイ、人間に対する表現は変わってくる。みなさんもこれから発展してゆく高速システムに期待をしてほしい。」と、語りました。

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