TOP > 業界の現状と求める人材

 

 

記事:1  2


テクノロジー×アート / 本質探しの連続

『OMOTE』をはじめ、グラミー賞でのレディーガガへのフェイスマッピングや、intelのグローバルプロモーションなど、国内外のプロジェクションマッピングシーンをリードしてきたクリエイティブ/テクニカルディレクター/メディアアーティストの浅井宣通氏のご登壇です。

今回は石川 渡辺 研究室とのコラボレーションで実現した『INORI - PRAYER-』を中心に、制作プロセスや自身が作品づくりにあたって大切にしていること、感動的な作品はどのようにして生まれるのかを語っていただきました。

『INORI - PRAYER-』は1,000fpsのプロジェクターと超高速センシングシステムでリアルタイムトラッキングを行うフェイスプロジェクションマッピングの技術と、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで多くのメディアで活躍していたダンスユニットAyaBambiの圧倒的なパフォーマンスとの融合で誕生した作品です。インターネットでの公開後、全世界で500万PVを記録されています。

『INORI - PRAYER-』の制作当初、「石川 渡辺 研究室にて初めてテストを行った際、そのシステムのレイテンシの低さに驚いた。被写体にぴったりくっついて離れない感じで、画期的な表現が期待できた。ただ、同時に人間の顔の動きをトラッキングすることはまだ難しく、解像度が低いこととモノクロ表示のみというところが課題になった。被写体の二人の手がぶつからないプロジェクターの距離のバランス、センサーの配置、撮影のカメラワークではアングルを探るために3Dのシミュレーションを行うなど、多くの課題を試行錯誤しながらクリアし、最も早く最も演出力の高いシステムを構築することができた。」と話しました。
このように苦労を重ねて構築をされたシステムは完成しましたが、テクノロジーのギミックだけでは感動に至るまでにはまだ十分ではなく、核、放射能をテーマにしたこの作品において、AyaBambiのネガティブなものに負けないという生への力強さに感動の根源があり、これを引き出すことが最大のポイントだったようです。

浅井氏は人の心を動かす感動的な作品をつくるために、「本質は何か、ということを常に問いかけている。自分が手がける作品は本質探しの繰り返しだった。『INORI - PRAYER-』においてもテクノロジーのフォーカスや、トレンドであったAyaBambiの起用だけではここまで深い感動は出なかった。」語りました。

浅井氏は最後に「本質である正論を語るには勇気の要る時代。疎まれたり、不利になったりするが、正論を言わないと自分の脳の回路を歪めてしまうことになり、クリエイティブに必要な力を弱くしてしまう恐れがある。また、自分の価値観や時代の価値観も鵜呑みにせず疑ってみること。そうすると表現のテーマが決まってくる。自分の価値観を高めるにはどうすればいいか。それは感動することである。感動したときに自分が変わり、自分の価値観を超えるものに触れたときに感動し、涙を流して衝撃を受けるとき、脳が激しく反応して自分が成長する。自分の価値観に問いかけ、本質を追求してクリエイティブになっていくことが重要。」と、聴講者に対しメッセージをおくりました。

 

AI(人工知能)で自律する物語とは

『シドニアの騎士』、『亜人』、『BLAME!』、『GODZILLA 怪獣惑星』などの作品を生み出した株式会社ポリゴン・ピクチュアズの瀬下寛之監督と株式会社スクウェア・エニックスにてリードAIリサーチャーとして注目をされる三宅陽一郎氏のご登壇です。AI(人工知能)で自律する物語と題し、現在進化の著しいAIの技術が映画制作においてどのように関わりあっていくのか、物語をつくる側とAIの技術を開発する立場の対談になります。

今回は瀬下監督が用意された『物語の中のAI』、『物語をつくるAI』、『物語を抽出するAI』の3つのテーマに沿って進められました。

物語の中のAI

現在、瀬下監督は年間2本の映画を制作するなかで、AIが関係するエピソードを扱うことが多いとのこと。瀬下監督、三宅氏はほぼ同じ世代ということもあり、幼かった当時のAIの存在は現代ささやかれているような脅威ではなく、人間にとって友好なパートナーとして描かれることが多かった時代です。そんな時代に育ってきた瀬下監督はAI脅威説が渦巻く現代において、不安をあおる物語をつくることに若干抵抗を覚えているといいます。このことについて三宅氏は「近年の社会におけるAIの扱われ方は人間の仕事を奪ったり、AIが人類を支配するといった実際にはAIには不可能なことも可能だとして、メディアが報道してしまっている。しかし、ここから先の未来、AIをネガティブなものとして捉える時代は終息を迎えるはず。」と返しました。

物語をつくるAI

瀬下監督は「シミュレーションやエージングなど、CG技術にはさまざまなAIが導入されているが、映画の設計段階においてもAIに助けてもらいたいという想いがある。映画において重要なのは世界観、ストーリー、キャラクター、様式のこの4つ。その中での一番割合の高いのは脚本であり、特にこの脚本をつくるうえでは感覚的につくっているのではなく、きわめてロジックに情報をストラクチャーしており、ルール付けされていればAIにも支援にしてもらえるのではないかと思っている。ハリウッド映画の多くは2時間を4つに分割しており、4幕に大きな物語の構成が分解されている。ほとんどが15分に1回のペースで物語を劇的に転換する出来事が起こっており、プロットポイントが形成されている。」と語りました。

三宅氏は「映像をつくる人たちは、もっと感覚的なイメージで制作をしていると思っていた。」と続け、瀬下監督は「ストーリーを構築するときにプログラム的に分析できるのなら、これからの未来はテクノロジーを入れることが必須だと思っている。構造が複雑になっているし、より驚かせるためには緻密につくりたい。そして限られている時間の中でもっともっとつくりたい。」と語りました。

物語を抽出するAI

瀬下監督は「ぼくらはキーエレメント、マスターエレメントとよばれる、その物語の世界の基準となるデザインをつくっているのだが、このような世界の基となる部品を揃えていけばAIが世界を自動的に増殖させていってくれるのではないかと考えている。つまり物語の舞台づくりをAIに支援してもらえるのではないだろうか。」と述べ、三宅氏は「ルールと構造があれば可能。最近のゲームはリニアなマップがあるというよりは、だだっ広い世界をつくってルールと設定を置き、あとはユーザーが好きに遊んでいくというのが主流になっている。」と続けました。

瀬下監督は「この7~8年間は自身の映画づくりにおける制作を転換させており、自分のチームの仕事が増えれば増えるほど、逆にチーム編成を少数にしている。人海戦術で何とかしようという思想では未来はないと思っている。だから、今はあえて自分たちを追い込んで、なるべく少ない人数で必要なエレメントをつくったら自動生成できるしくみができないか奔走している。物語をつくる行為そのものをCAD的にAIで効率化させて、もっとクオリティの高いものをつくっていきたい。そして、いつか自分たちがつくった世界が勝手に増殖していく様を目の当たりにしたい。」と述べ、三宅氏もこの物語を抽出するAIのテーマを踏まえ「ゲームのオープンワールド世界においてもキャラクターも決められたことをすればいいのではなく、環境や状況の変化を理解し、キャラクター達が自由意志をもって自律行動することが求められている。ゲーム産業としてもこの15年間は自律化を目標に技術開発をしてきた。今までは人間が全て物語世界をつくってきたが、今後AIによって増殖した予測不能な世界も体験できる日がくる可能性はある。」と続け、今後のゲーム産業においての展望を語られました。


長時間にわたるセミナーでしたが4組の多岐に渡るテーマに、聴講者の方々は最後まで真剣に登壇者の話に耳を傾けていました。それぞれ業種や立場も異なる登壇者でしたが、共通する点としては常にチャレンジャーである姿勢を崩されていないことでした。今後の技術発展の重要テーマである、ARやMR、VR、そしてAI、画像処理技術はこれからさらに注目され続けるジャンルです。そして、これらの技術の発展から可能性が拡がるアートや映画、ゲームのコンテンツは世界中の人々に新しい感動を与えていくことでしょう。産業界のニーズと研究のシーズを結びつける趣旨にて開催された今回のセミナーは、聴講に参加した教員の方、未来を担う学生たちへの大きな刺激になったのではないかと感じました。

prev page