REQUEST 資料請求

CG-ARTS協会への各種資料請求は、こちらをご覧ください。

ABOUT CG-ARTS 協会について

Vol.29 DIGITAL CONTENT EXPO 2009の人材育成セミナーをレポート

CGやバーチャルリアリティなどのデジタルコンテンツ技術の研究成果や芸術作品を体験できるDIGITAL CONTENT EXPO 2009(主催:経済産業省、財団法人デジタルコンテンツ協会)が、10月22日から25日まで、日本科学未来館と東京国際交流館で開催された。本イベントでは、CGの専門家だけではなく、業界を志望する学生や、一般の家族連れも楽しめる展示や上映、セミナーなどが数多く催された。

今回のディジタル最前線は、10月25日に開催された人材育成セミナーをリポートする。
本セミナーは、コンテンツ業界を目指す学生や若手クリエイターにコンテンツ制作者としての知識や情報を提供するもので、つぎの4つのセミナーが開催された。

・米国プロダクションの現在(60分)
・アニメーション制作におけるモーションキャプチャーの存在(60分)
・最新3Dコンピュータグラフィクス映画「ホッタラケの島〜遥と魔法の鏡〜」にみる
演出論と制作手法をめぐる葛藤と技術的勝算(80分)
・BALLAD〜名もなき恋のうた〜 白組の最新VFXメイキング(60分)

 
3ヶ国、1000人以上のスタッフによる大規模制作体制

「米国プロダクションの現在」では、三好博幸氏(米国 リズム&ヒューズ・スタジオ シニアソフトウェアエンジニア)と久保田孝氏(同社エフェクトTD)が、自身の仕事内容について語った。
リズム&ヒューズ・スタジオは、本社をカリフォルニア州ロサンゼルスに置く1987年設立の制作会社で、ハリウッド映画やCM のCGとVFXを数多く手がけている。とくに動物の表現には定評がある。
米国でCG制作に携わっている両氏から直接話を聞ける貴重な機会だったためか、日本の制作現場で活躍しているプロのデザイナーやエンジニアが多数来場していた。
その中には、CG-ARTS協会の教材や試験問題制作に協力頂いている委員も数名含まれていた。
同社はロサンゼルス以外に、インドに2ヶ所、マレーシアに1ヶ所のスタジオを構えている。 全てのスタジオを合わせると、1,100〜1,200人のスタッフが制作に携わっている。
しかもスタジオごとに別のプロジェクトを担当するわけではなく、同じプロジェクトの作業を分担して行っているそうだ。日々発生する演出の変更やデータの差替えにスムーズに対応するため、使い勝手のよいデータベースの構築と運用が大変重要になるという。
久保田氏は「完成度の高いデータベースを活用したパイプラインが同社の優れたアウトプットを支えている」と語り、さらに「このやり方はスタッフ100人以上の制作体制でなければメリットがない。日本によくある小規模な制作体制で同じやり方を踏襲しても効果は少ないだろう」と、日本と米国の制作体制の違いにも触れた。

その後、話題は同社が使用するソフトウェアへと移った。同社は市販のCG制作ソフトウェアが流通する以前からCGやVFXを制作してきたため、殆どのソフトウェアを自社開発するのが当たり前という風土が定着している。自分たちが作るソフトウェアが最良である、という強い自負を持っている。
三好氏は、同じくカリフォルニア州に拠点を置く、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスでも仕事をした経験を有するが「両社は規模、文化、制作手法など、さまざまな点で大きく異なる」と、両社の違いについて話した。
ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスのパイプラインは、既製品のソフトウェアを中心に成り立っているため、エンジニアの仕事はデータのコンバートやプラグインの制作が主体となる。これに対して、リズム&ヒューズ・スタジオは社内のエンジニアが大掛かりなソフトウェアの制作とサポートを一手に担っているため、エンジニアの地位が高く、やりがいが感じられるという。
リズム&ヒューズ・スタジオは、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスと比較すると規模が小さい。たとえばソフトウェアエンジニアの数は、前者は30人程度だが、後者は60人以上の規模になる。しかし、アウトプットされる作品のクオリティに違いはない。三好氏によると、リズム&ヒューズ・スタジオは、お金がないハンディを知恵で解決しているそうだ。制作資金の少なさに悩まされることの多い日本の制作スタジオにとっては、親近感のもてる発言ではないだろうか。

さらに三好氏は、ソフトウェアを開発する際のアーティストとの関わり方について触れた。アーティストに何度もヒアリングを行い、ワークフローの詳細や、ソフトウェアに対する要望を聞きだすことを重視していると語った。
「たとえば、ユーザインタフェースのノードは直線がよいのか、曲線がよいのか、といったことまで聞いている。アーティストの意見をなるべく反映させた、彼らが好んで使ってくれるソフトウェアの制作に努めている」と、コミュニケーションを重視する姿勢を強調した。この姿勢は、異なる国のスタジオ間でも共通で、たとえばロサンゼルスのスタジオとインドのスタジオは、毎日欠かさずテレビ会議でコミュニケーションをとっているそうだ。

両氏の話から、制作規模の大きい米国ならではのパイプラインの一端を垣間見ることができた。日本の制作体制とのギャップは大きいと感じたが、同時に緊密なコミュニケーションの実践など、規模の大小に関わらず共通して重要視すべきポイントがあることを再確認できたセミナーであった。

 
労力を軽減するための、日本なりの工夫が必要

「アニメーション制作におけるモーションキャプチャーの存在」では、細田伸明氏(株式会社バンダイナムコゲームス 社長室/大阪芸術大学 客員教授)が、3次元CGやビデオゲームの誕生から現代までの歴史を、代表的な作品の静止画や動画を紹介しながら解説した。本セミナーは3次元CGアニメーション技術を総覧できる内容で、コンテンツ業界を目指す学生には非常に参考になるものだった。

最後に細田氏は「コンピュータは我々の生活を豊かにしてくれる現代の最高のツールのはずだが、CGやアニメ、ゲームを制作する我々の生活は豊かになっているだろうか」と語りかけた。
日本の制作者たちは、コンピュータ(仕事)に自分達の生活を合わせているが、そうではなく、生活のほうを大事にするべきだ。そのための工夫、つまり、労力を軽減するための工夫が必要だと強調した。「日本のアニメ業界は、ディズニーが行っていたフルアニメーションを、2〜3コマ同じ絵を繰り返して使用するリミテッドアニメーションにしたり、多くの作画枚数を必要とする、キャラクタの細やかな演技による舞台的な表現を、映画的な表現にしたりすることで、制作環境に適応した日本独自の様式化を行い、労力を軽減した。同様の工夫がCG業界やゲーム業界にも必要ではないか。そうでなくては米国の作品とは戦えないだろう」と語った。

細田氏の言う通り、米国と同じやり方をしていては、米国に対抗できるコンテンツを制作することは難しい。小規模な日本の制作環境下で、どうすれば世界中のユーザに受け入れられるコンテンツを制作できるかが、今後の業界が考えなければならない課題の1つであることは間違いないだろう。

 
日本発フル3次元CGアニメーション映画の試金石になれた

「最新3Dコンピュータグラフィクス映画「ホッタラケの島〜遥と魔法の鏡〜」にみる演出論と制作手法をめぐる葛藤と技術的勝算」では、石川光久氏(株式会社プロダクション・アイジー 代表取締役社長)と佐藤信介氏(監督/脚本家)が、数土直志氏(株式会社アニメアニメジャパン 代表取締役)をモデレータとして、制作時のようすや、本作によって得られたものについて語った。
両氏の話を直接聞ける貴重な機会とあって、会場はほぼ満員となった。
本作はフル3次元CGのアニメーション映画で、制作にはプロダクション・アイジー以外に、ポリゴン・ピクチュアズやダンデライオン アニメーションスタジオ、東映アニメーション、ジーニーズ アニメーションスタジオ、ルーデンスなど、国内有数のCGプロダクションが関わっている。

佐藤氏は実写映画の脚本や監督を手がけてきた経験の持ち主である。本作の監督を引き受けた動機を問われ「おもしろいものが作れそうだという確信があった」と答えた。「日本の3DCG映画は、今はまだ手探り状態だと思う。完全なエキスパートはいないし、やり方も確立されていない。けれども、今後それができてくるだろうと楽観視している」と、3DCG映画への期待を語った。
実写と3DCGの制作手法の違いへの戸惑いはなかったかという問いについては「3DCGアニメーションにおける役者は、マウスを握っているアニメータだと考えて接すれば、何も無理はなかった」と答えた。
続けて、石川氏は「私もアニメータは役者だと思っている。彼らはどんな役でも演じられる必要がある」と補足した。
石川氏は本作の制作で最もこだわった点として、主人公の女子高生「遥(はるか)」の造形を挙げた。「極端なデフォルメをしていない、等身大の可愛い女の子を表現した例は、米国の映画でも少ない。「遥」の可愛らしさを表現するために3年を費やした。非常に長い試行錯誤が必要だった」と語った。
最後に石川氏は、制作によって得られたものとして、本作が日本発のフルCG映画制作の試金石になれたことを挙げた。
「日本は米国に対して、制作者個人の能力では劣っていない。3DCG映画を作れるパイプラインがないという点が問題だと感じている。今後もフルCG映画の制作を続けていき、パイプラインを確立することが必要だ。2Dアニメーションだけで、日本が5年後、10年後も世界を相手に戦っていけるかどうかについては疑問を感じている」と語り、3DCG映画を重要視する方針を続けたいことを強調した。
現在、3DCG映画制作のノウハウ構築では、残念ながら日本は米国に大きく水を空けられている。石川氏の言葉どおり、今後も日本発の3DCG映画が制作され続けることで、徐々に米国との差が縮まっていくことを期待したい。

 
合成のための膨大な量のマスク切り

「BALLAD〜名もなき恋のうた〜 白組の最新VFXメイキング」では、平昌都氏(株式会社 白組 3DCGディレクター)が、本作のメイキング映像を上映しながら、合成作業について解説した。
本作は、アニメ映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」(2002年公開)を原案とした作品で、監督は同社の山崎貴氏である。山崎氏はVFX出身の監督で、監督・脚本・VFXを兼務するスタイルが特徴的である。山崎氏の過去の作品同様、本作でも合戦シーンなどでVFXが効果的に使用されている。

平氏は、城や山などのセットや、数千人規模の兵士(群衆)をどのように表現したかを中心に解説した。セットの場合、撮影時に用意されるのは全体の一部分だけで、足りない部分は合成時に3次元CGモデルが追加される。群衆の場合も、撮影時に集められる役者(エキストラ)は数十人〜数百人なので、足りない役者はMassive(マッシブ)という群衆シミュレーションソフトウェアで生成される。合成の際、最も労力を要したのはマスク切りとよばれる作業だったそうだ。マスク切りは、映像内の不必要な部分を指定する作業だが、映像の内容によっては、1フレームずつ、手作業で指定していく気の遠くなるような地道な作業が求められる。
平氏は「完成度が高いシーンほど、作業が進むにつれて、同じ現場の人でも、それがCGであることを意識しなくなることもある」と、合成ならではの皮肉なエピソードを語った。

本セミナーは、人材育成セミナーの一環として開催されたものだったので、「合成志望の学生には、どのような指導をしてあげればよいか?」という質問をしてみた。
平氏は暫く考えた後「本当にやりたいと思っている人は、こちらが何を勉強してきて欲しいと言わなくても、自発的に行動を起こすと思う。最近ではアカデミック版のソフトウェアもたくさんあるので、それを使って経験を積んだりすることもできるのではないでしょうか」と語った。さらに「最低限の知識とコミュニケーション能力があればよい。最初からスーパーな人間はいない」と続けた。
つまり、学生に期待されているのは、自分が就きたい職業に関する情報を調べ、行動を起こす積極性なのだろうと筆者は受け取った。インターネットや、アカデミック版ソフトウェアの普及のお陰で、CGクリエイターやエンジニアを志望する学生が入手できる情報や環境は、非常に充実したものになっている。業界を目指す学生は、ぜひそれらを有効活用して、夢の実現につなげて欲しいと感じた。

1日がかりで催された4つのセミナーは、コンテンツ業界を目指す学生はもちろん、現役のクリエイターやエンジニアに対しても、参考になる知識や情報を提供するものだった。
今回特徴的だったのは、複数の講演者が、米国と日本の制作環境の違いや、作品の違いについて言及したことだった。米国の作品に対抗するためには、どのようなパイプラインを構築すべきなのか、日本のCG業界にとっての非常に重要な課題を再確認できた1日となった。

取材、文、写真:尾形美幸