古典落語の名作「死神」を、多くの手間をかけ、高い技術力で映像化した、とてもレベルの高い作品だと思う。もともとが落語なだけに、それを映像化するにあたって解決しなければならない問題が相当あったと思う。しかも主人公と死神を、実際の落語家が演じているなど、挑戦的というかさらに問題をややこしくしている感じもする。けれども実際の作品はそういった問題やややこしさを感じさせないほどにスムーズでうまくまとまっている。そのスムーズさや、うまくまとまってしまっている事が、この作品の圧倒的な物足りなさでもある。実際、この作品は落語の演目の「死神」を映像化したというよりも、たんに「死神」という物語だけを映像化したにすぎないのではないか。落語家が「死神」という演目を演じ、それが様々なバージョンを生みながら引き継がれてきたという、その身体や営みの全体を「死神」という物語として捉えるような姿勢や理解がなければ、落語を映像化することの違和感や異物感、つまり映像化することの意味が生まれてこない。
(谷口暁彦)