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Vol.30 「シーグラフアジア2009」の教育関連のセッションをレポート

12月16日(水)〜12月19日(土)までパシフィコ横浜で開催された「シーグラフアジア2009」。
”革新の波動”をテーマに、CGとインタラクティブ技術を中心としたデジタルメディアとデジタルコンテンツの国際総合展として開催され、世界41カ国から6,400人以上の参加者を集めた。ここでは、教育に関連するセッションを紹介する。なかでもCG-ARTS事務局長の宮井あゆみが委員長をつとめたエデュケーターズプログラム(教育論文発表・ワークショップ・トーク)を中心に紹介したい。
 
エデュケーターズプログラムは、米国開催のSIGGRAPHで教育者向けに行われていたもので2007年まで続いたが、プログラム編成の一新によって2008年以降は実施されていない。2008年に始まったSIGGRAPHのアジア開催でエデュケーターズプログラムが復活したが教育論文発表が中心だった。東京開催が決まり、宮井は委員長を引き受けた時、これまで不満に思っていたことを解消したいと考えたという。それは、大学の教育関係者しか参加していないことと、発表される教育論文が業績として評価されていないということだ。今回のレポートでは、エデュケーターズプログラムの取り組みについて、特にゲームに関連した教育論文発表とワークショップを紹介する。また、アジアのゲーム産業の中心地である日本開催ということもあり、多数設けられたゲーム関連のセッションの一つとして、コース(セミナー)の一例もあわせて紹介する。


ゲーム教育の論文発表

ゲーム関連の教育論文は、シンガポール、日本、アメリカの3カ国から4件発表された。ゲーム制作を学ぶカリキュラムやゲームを使った教育についてなど、幅広い内容であった。
今回の教育論文では、ピアレビューの査読システムを確立したという。論文1本につき3名の専門家が査読を行い、その結果を審査委員会で評価するといった仕組みだ。査読者は総勢46名、欧・米・アジア・日本など世界中の大学やプロダクション関係者に協力してもらった。投稿された論文は、アニメーション・ゲーム・インスタレーション・VR・ビジュアライゼーションなどに関する教育手法や事例で、世界の9カ国から43本があった。そのうち17本が採択され発表が行われた。これらの論文はACM Digital Library に収められている。さらに、優秀論文をComputers & Graphics Journalから今年の秋に出版することになっている。
http://www.siggraph.org/asia2009/jp/for_attendees/educators_program/education_papers/

 
ナンヤン・テクノロジカル大学(シンガポール)

シンガポールからの発表は、ナンヤン・テクノロジカル・ユニバーシティ(南洋理工大学)アート・デザイン・メディア学部の教員、Mark Chavez氏の恐竜をテーマにした理科教育ゲームの制作についてであった。このプロジェクトは、Torqueゲームエンジンを使用したゲーム制作プロジェクトで、学部生と大学院生が研究者やゲーム制作の専門家と連携して進めている。学生は、モデリングやモーションキャプチャなどの制作過程を体験するだけではなく、研究者や映像、ゲーム制作で長い経験がある人たちと一緒に働くことで、仕事の仕方や他の分野の知識などを得ることができる。

また、Chavez氏は「ゲーム業界の歴史が浅いシンガポールでは、まだ業界に共通する仕事に対してのモラルが十分に形成されていない」と指摘をした。そのため、「仕事の仕方や規範を他の国から輸入した形になっており、それが現地に根付いているとはまだ言えない」状況だという。経験の浅い若い人が多いことや、多様な文化を背景にした人材が混じっていることから、軋轢が生じることも多い。このようにプロジェクトでいろいろな分野の専門家が集まることにより、それぞれの働き方の規範が試され、お互いの理解が深まる。プロジェクトを通してコラボレーションのやり方が形成されることも目的の一つだと紹介された。


パデュー大学(アメリカ)

アメリカのパデュー大学の事例は、HIV/エイズの正しい知識をメキシコのユカタン地方に住む若者に学んでもらうプロジェクトに、ゲームを使用しているものだ。IDEAラボラトリーのLa Verne Abe Harris氏とNicoletta Adamo-Villani氏による発表で、ゲームのキャラクタデザイン、アニメーション、サウンドをパデュー大学の学生が制作したという。

このプロジェクトは、メキシコの10代の若者に情報を届けるにはゲームが有効であるとし、インターネットで地元の若者に楽しみながら正しい知識を学んでもらうという試みだ。ターゲットとする地域では電話回線すらないため、別のプロジェクトが設置する衛星を介したネットカフェを使用する。ワークショップと併用し、 HIV/エイズに対する理解を深めてもらう計画だが、一人でも学習できることや、きちんと正しい知識を持っていないと次のステージに進めないなど、ゲームの特性を生かした学習方法になっている。
また、マヤ文化にちなんだヒーローやキャラクタを使用することで、現地のマヤの若者に自分たちの文化に自信を持ってもらうことも目標としている。この発表からも、ゲームが世界各地で情報発信のメディアとして受け入れられていることが伺われた。


東京工科大学(日本)

日本からの発表の一つ目は、三上浩司氏による東京工科大学のゲームカリキュラムの取り組みについてであった。海外ではゲーム制作のカリキュラムが4年制大学で行われている事例が多くあり、国際的なゲーム開発者の集まりであるIDGAにおいても、業界と教育関係者が連携してゲーム教育のカリキュラムへの提言を行っている。しかし、日本ではまだこのようなゲーム制作に関する事例は少なく、東京工科大学メディア学部は日本で初めての試みになったという。ゲームに関連する分野は多岐にわたり、今までも美術大学や情報学部などでバラバラに教育されていたが、そのような要素をまとめ、ゲーム業界とも連携して実践的なプロジェクトを取り入れたカリキュラムとなっている。

発表の前半ではカリキュラムの構成、講師陣の確保など学部経営について詳しく述べられ、学生の作品も紹介された。 発表の後半は東京ゲームショーへの出品や、学生主導のプロジェクトの仕組みなど、学生のやる気を高めるための取り組みや、カリキュラムの評価や改変について述べられ、教育機関としての大学がどのようにこの新しい分野に取り組んでいるのかを見ることができた。


プレミアムエージェンシー(日本)

日本からの二つ目の発表は、プレミアムエージェンシーの川島基展氏による、香港でゲーム制作のコースを行った事例が報告された。これは2008年5月から2009年1月にかけて行われた次世代ゲームクリエイター養成教育について詳しく紹介するものであった。高いクオリティーのゲームが求められるなか、他のアジア諸国でも日本のようなレベルのゲームがつくりたいという思いが高まっている。しかし、アジアでのゲーム産業では人材が不足しており、優秀な人材の養成が求められている。幅広い分野の知識が求められるゲーム開発では、「ハイブリッドにコンテンツを横断する人材が必要」と川島氏はいう。

発表ではこの次世代ゲームクリエイター育成のカリキュラム概要や、開発に使用される「千鳥」エンジンなどについても解説され、受講生の開発したゲームのデモも見ることができた。クオリティーが高く、香港らしさのあるゲームが紹介され、アジアでのゲーム制作への熱意の高まりを感じることができた。





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