2010/12/15更新

本連載ではゲーム業界の人材教育・キャリアパスについて、第一線で活躍されている方々へのインタビューを通して、さまざまな角度から紹介していきます。第4回目では「龍が如く」シリーズのエフェクトデザイナーとして活躍されているセガの岩出敬さんにスポットを当てました。いまひとつイメージがわきにくいエフェクトという仕事の内容や、その醍醐味について、大いに語っていただきました。

ゲームを盛り上げるための映像演出全般、それがエフェクトです

モデラーやアニメータなどと比べると、エフェクトデザイナーは今ひとつイメージがわきにくいかもしれませんね。なので最初に、どんな仕事か説明しましょう。

「龍が如く OF THE END」ゲーム内での爆発エフェクト

エフェクトの仕事を大きく捉えると「ゲームを盛り上げるための映像演出全般」を指しています。具体的には「自然現象など、シーンを構成する上で不可欠なもの」と「ゲーム的に強調すべき点を伝えるための記号的な表現」の2つに分けられます。

たとえば前者なら爆発や砂ぼこり、銃口の発火などですね。後者ならアクションゲームでパンチの時に拳が光ったり、キャラクタの移動時にモーションブラー(※)がかかったり、キャラクタのステータスを表すオーラなどが表示されたり、といった表現になります。

※モーションブラー:カメラのシャッタが開いている間に動いた被写体が、ぶれて撮影される効果のこと。

「龍が如く4 伝説を継ぐもの」アクションを強調する記号的エフェクト

現世代機になってグラフィックスが一層リアルになり、こうした表現がなければ不自然に感じられたり、迫力に欠けるようになりました。1本のゲーム中で必要とされるエフェクトの量が激増したため、ここ数年で、エフェクトを専属にするデザイナーも増えてきています。とはいえ、モデリング専属のモデラーや、モーション専属のアニメータと比べればまだまだ少数です。

他のアーティストとはツールもプロセスも違い、若干特殊な立場にありますね

今ってゲームのグラフィックデータは、ほとんどが3DCGツール上で作られていますよね。たとえばモデルデータやモーションデータの場合、3DCGツールで作ったものを、ゲームエンジンで読み込めるように変換して、出力するといった手順が一般的です。一方エフェクトデータの場合、特殊な部分があります。

3DCGツールで作成した爆発を連番画像化し、パターンアニメーション用の素材を作る、などの作業もありますが、ほとんどのエフェクトは、各社ごとに自社開発された専用エディタで制作されています。エディタで作ったデータをプログラマに渡して、ゲームエンジンに統合してもらうんです。このように使うツールが他のアーティストとは違うのが、第1の違いですね。

ツール上で作成中の爆発エフェクト

また、エフェクトの作業はプロジェクトの後半に集中する傾向があります。ゲームエンジン内にモデルやモーションなどのグラフィックデータが組み込まれ、ゲームの仕様に従って動くようになってはじめて、本格的にエフェクトを作り込んでいくんです。このように作業プロセスの違いもありますね。

もっとも、「龍が如く」では、コマンド技で特殊攻撃ができる「ヒートアクション」があります。これなどはアクションのシーンを事前に制作するため、モーションやキャラクタができてさえいれば、その時点で最終形に近いエフェクトの作り込みが可能です。そのため、データを一緒にプログラマに渡して、ゲームエンジンに組み込んでもらうだけですむ、といったこともあります。ただし、こうした例は特殊で、実際はほとんどのエフェクトが後半で一気に作られます。

さまざまな職種の要素が交錯する、ユニークなポジションなんです

このようにエフェクトで使うツールやエディタは自社開発の場合が多いので、自分たちでゼロから作ったり、続編制作に応じて改良していくことがよくあります。そのため、会社規模やプロジェクトにもよりますが、エフェクトデザイナー自身がプログラマと協力しながら、必要な環境作りから深いレベルで携わるケースが多いんです。ここも他のアーティストとエフェクトデザイナーの違いで、僕がこの仕事を好きな要因ですね。

また、爆発にしても記号的な発光エフェクトにしても、まずベースとなる素材を作成し、それをタイミングよく動かして初めて完成というように、モデラーとアニメータの仕事を両方できるのも、エフェクトデザイナーの魅力です。

このほか、あるシーンの演出に、広い意味でかかわれる点も醍醐味ですね。たとえば、あるキャラクタが殴られて、壁にぶつかって崩れ落ちるシーンがあるとします。こういったシーンであれば、殴られた後で1回画面をフラッシュさせて、壁にぶつかる時にモーションブラーをかけて、最後に鼻血が飛び散る・・・などの演出が考えられます。短いシーンなら、これらすべての演出を自分1人で担当することもありますよ。

こんなふうに、仕事の細分化が進んでいる最近のゲーム制作の中にありながら、1人でいろんなことができる、おもしろいポジションなんです。

エフェクトはゲームの爽快感を演出する大きな要因でもあります

ゲームハードの進化と共に、エフェクトの重要性は、ますます大きくなっていくと思います。ゲーム内での物理(フィジックス)演算とエフェクトの融合は、進化の方向性の1つでしょう。映画「スパイダーマン3」に登場した悪役のサンドマンのように、細かい砂粒が空気中を飛び交い、人型や砂嵐に変化しながら攻撃してくる、といった表現も、将来的に可能になるでしょうね。

もともとゲームの爽快感を演出する要素の中でも、爆発などの破壊表現は、大きな比重を占めています。見たこともない派手な爆発シーンの表現が、ゲームのメインテーマになったり、ゲーム全体の方向性を決めることもありますよ。今後、物理演算のスピードが上がっていくのに合わせて、より爽快感のある破壊表現ができるようになると思います。

「龍が如く」シリーズの場合は、「痛みを、どう伝えるか」という点が常に課題になっています。そのため、顔が歪んだり、汗が飛び散ったりなど、エフェクトによる痛み表現の幅を広げる努力を、常に意識しています。

学生時代はグラフィックデザイン全般を学びました

学生時代は一般的なグラフィックデザインの勉強をしていました。セガに入社後は「パンツァードラグーン」シリーズでアートワークなどにかかわりました。その後「龍が如く」の立ち上げ時に、パイプライン構築やワークフローの確立などの環境構築からはじめて、エディタの開発も行い、準備が整ったところでエフェクトを担当するようになりました。それ以来、「龍が如く」シリーズでエフェクト制作の指揮をしています。

学生時代に学んだことで、今の仕事に直接役立っていることは、実はあまりないです。特にエフェクトが重視されるようになったのは、ここ数年のことなので、仕事を通して自分で学んでいった感じでしょうか。映画のエフェクトシーンや実写のスローモーションなどは参考になるので、特に気をつけてチェックするようになりましたね。ただし、デッサンやグラフィックデザインの勉強を通して身に付けた観察力や表現力が、エフェクト制作のベースになっていることは、間違いありません。

エフェクト1つにも、作り手の意図がにじみ出るような、演出力が重要です

エフェクトを担当するには、制作スキルに加えて、演出力が必要です。たとえば爆発1つとっても、物体のある部分がきらっと光ってから爆発するのか、いったんホワイトアウトしてから爆発するのか、さまざまなバリエーションが考えられます。そのため、そのシーンで、なぜそのエフェクトが必要なのか、ハッキリした狙いや意図をもって作ることが大切です。

また、写実的な映像と、マンガ的な映像では、同じ爆発でも絵のスタイルが違います。ポートフォリオやデモリールでエフェクトのセンスをアピールしたいなら、さまざまなテイストのエフェクト付きショートムービーを、たくさん作ると良いでしょう。

新人でエフェクトデザイナーも珍しくないと思います

会社やプロジェクトで違いますが、「龍が如く」チームでは、選考時に志望者のスキルや傾向を見定めて、最初からエフェクトデザイナーとして新人を採用したこともありました。学生がエフェクトデザイナーとしての就職を目指すことは、非現実的な話ではないでしょう。

実際にセガでは新人採用の際、アーティスト志望の学生に対して、モデ ラーやアニメータなど、希望職種の順位をあげてもらいます。そこに3年前からエフェクトデザイナーの項目が加わりました。まだまだ応募者は少ないのですが、もっとエフェクト志望の学生が増えて欲しいですね。

エフェクトはまだまだこれから。どんどん可能性を広げていきましょう

すべてのエフェクトには、作り手の意図があります。たとえばアニメの爆発シーンなどは、演出家の意図そのものです。この作品なら、この爆発。このアニメータなら、この爆発といったように、それぞれこだわりをもって作られています。そのため、学生や教育関係者の方には、エフェクト作りの技術面を学ぶだけでなく、エフェクトのセンスや演出力を磨くような努力や、授業をお願いしたいです。

また前述したように、細分化が進むゲーム開発の中 にあって、エフェクトデザイナーは1人でさまざまな仕事にかかわれる、横断的なポジションです。短いシーンなら自分でディレクションすることもあるので、絵コンテが切れると強みになります。物理シミュレーションを使ってエフェクトを制作することもできるので、物理やスクリプトの知識も、あって損にはなりません。エフェクトを作る手段はさまざまですし、エフェクトがかかわれる要素は今後さらに増えていくでしょう。エフェクトデザイナーとして業界に入ってくる学生たちと一緒に、エフェクトの可能性を広げて いきたいですね。