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今や年間200本近くの新作タイトルが放映されるアニメ大国・日本。その一方で現場スタッフの疲弊もピークを迎えつつある。実際に2016年は制作が間に合わずに、地上波の番組で放送中断という事態も複数回、発生した。こうした中、解決策の一つとして期待されているのがデジタル作画や3DCGの導入だ。もっとも、3DCGを学ぶ学生からすれば、仕事量と収入が見合わない「ブラックな産業」というイメージがあるのも事実だろう。

セルルックな表現を得意とする5社5名のクリエイターが集結し、2016年12月13日・14日に開催されたトークイベント「CGスタジオ5社が語る アニメーションの未来はどうなる!?」(CG-ARTS主催)も、こうした業界事情を反映する内容だった。壇上では業界の現状や各社の対策について時にマジメに、時に脱線しながら論を展開。会場校となった4校はいずれも鈴なりの参加者を数えた。

アニメ制作のいま、大いに沸く会場

登壇者は有限会社オレンジ代表取締役社長・井野元英二氏。サブリメイション取締役/CGIディレクター・須貝真也氏。グラフィニカ取締役/執行役員・吉岡宏起氏。ラークスエンタテインメント/CGプロデューサー・奈良岡智哉氏。サンジゲン統括マネージャ・瓶子修一氏の5名だ。普段から横の繋がりが深く、情報共有などを積極的に行っている間柄だけに、壇上では息の合ったトークが続き、大いに盛り上がった。

セミナーは自己紹介を兼ねて、各スタジオのデモリール上映から始まった。『ラブライブ!The School Idol Movie』『アニメ モンスターストライク』『ガールズ&パンツァー劇場版』『ブラックロックシューター』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』などのミニクリップが登壇者の解説つきで上映。ファンにとってはこの上ない時間で、思わず前のめりになる学生の姿も見られた。

登壇者の解説付きで制作カットを鑑賞(HAL名古屋)

作画アニメと3DCGのハイブリッド表現が一般的になってきた昨今。アクションシーンなどではCGスタジオ側にキャラクターの動きや演出が任される状況もあるという。フルCGアニメであってもセルルックな表現が進化しており、言われなければCGだと気づかないものもあるほど。同じ作品を複数のスタジオで分担して作ることも多く、他のスタジオに負けないように思わず力が入ることもあるとのことだ。

もっとも、こうした高い技術を誇るCGスタジオはまだ限定的だ。その一方で制作本数は増え続けており、慢性的な人手不足が続いている。そのため「一社が遅れると、玉突きで別の会社にしわ寄せが来る」状況があり、これが昨今の放送中断を巡る遠因にもなっているという。また近年では全カットがキャプチャされ、ネット上でさらされることから、クオリティを気にするあまり、スケジュールが遅れがちになっている点もあるとあかされた。

 

作画アニメから3DCGへ、変革のための取り組み

ポイントはアニメ業界全体が作画アニメから3DCGへの移行期に入っていることだ。フルCGアニメから、作画アニメとのハイブリッド、さらにはエフェクトやコンポジットなどの最終工程まで、作品ごと、スタジオごとにその度合いも大きい。サンジゲン瓶子氏も冒頭、「変化は生命の法則である。過去や現在しか見ない者は、未来において必ず失敗する者である」という故・ケネディ大統領の言葉を引用し、今後も変化が続くと語った。

もっとも学生にとっては、アニメ業界は「徹夜続きでまともに家に帰れない」「薄給すぎて生活ができない」といった不安があるのも事実だ。瓶子氏も返す刀で「そうはいっても、アニメはブラックな業界やろ!」と突っ込み、会場を沸かせた。これに対して各社から「作画アニメと異なり、3DCGはホワイトな業界である」と反論が続出。アニメとCGの雇用環境や作業環境の違い、さらには各社の取り組みが紹介されていった。

オレンジ井野元英二氏
サブリメイション須貝真也氏
グラフィニカ吉岡宏起氏
ラークスエンタテインメント奈良岡智哉氏
サンジゲン瓶子修一氏

フリーランスのアニメーターと海外の外注企業に支えられてきた日本のアニメ業界。動画一枚数百円、初任給が数万円といった現状も、こうした雇用環境に端を発している。一方でCG業界では正社員雇用が一般的で、スタジオワーク主導でカット制作が行われている。ここが作画アニメとCGの大きな違い・・・出席者は異口同音に語った。そのために安心して業界に飛び込んできて欲しいというわけだ。

もっとも、社員を雇用する場合は「一定の品質を担保しながらカットを量産し、コンスタントに成果物を納品するための仕組み」が欠かせない。そのためにはスタジオの制作環境に対する投資が重要で、中でも鍵を握るのが進行管理だ。「固定給を支払うということは、時間イコールお金が発生する。かけたいところにしっかり予算をかけるには、制作進行で無駄をなくすことが必要になる」(ラークス奈良岡氏)。

こうした問題意識から、ラークスエンタテインメントではいち早くプロジェクト管理ツール「Shotgun」を導入。奈良岡氏は「進行管理の無駄を排除し、クリエイティブに集中してコストがかけられるようになった」と語った。同様の取り組みは、CGに加えて手描きの作画部門を抱えるグラフィニカでも進めており、吉岡氏は「グラフィニカ3DCGではShotgunを既に導入しつつ、デジタル作画においても独自の制作進行ツール導入を検討中」だという。

アセットの再利用も3DCGならではの強みだ。作画アニメでも古くから定番カットを再利用するバンクシステムが採用されているが、3DCGではより多彩な活用が可能になる。グラフィニカ吉岡氏は『ガールズ&パンツァー』シリーズで、テレビシリーズ・OVA・劇場版と細部を修正しつつ、同じ戦車モデルが再利用されている状況を説明した。

背景にあるのが社内ネットワーク環境・サーバ・レンダリングファームといった、デジタル環境の急速な進化だ。壇上では3DCGを用いた人気格闘ゲームのシリーズ変遷が引用され、技術革新が映像表現に与える効果が示された。吉岡氏は「作画アニメでは1台の戦車を数秒動かすカットが発生した場合、作業者選定や進行管理、カメラ演出などのクオリティチェックが大変で、その1カットが完成するのに数日かかってしまうが、3DCGで制作する場合は、モデリングやモーションアセットなどをちゃんと準備しておけば、新人アーティストが作業してもOKカットを仕上げられる可能性が出てくる」と吉岡氏は述べ、こうした変化を歓迎した。

インターネット回線の高速化で、地方スタジオとの連携作業が一般化してきた点も、近年の特徴だという。12月に名古屋スタジオを開設したばかりのサブリメイション須貝氏は、学生に地元で働けることをアピール。サンジゲン瓶子氏も「ファイルサーバを全スタジオで共有しており、地方でも東京と同じ環境で仕事ができている」という。ラークス奈良岡氏もベトナムスタジオの様子を紹介し、背景の多くを現地で制作していると語った。

 

(左)Shotgunを用いた進行管理、(右)戦車のCGモデルの再利用で効率化を促進
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小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム評評」(inside)など。著書に『ニンテンドーDSが売れる理由』(共著)『ゲームニクスとは何か』(構成協力)がある。NPO法人IGDA日本代表。