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2014/9/1更新

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「先輩からのメッセージ」のコーナーでは、デジタルコンテンツ制作の第一線で活躍する方々に、ご自身の学生時代から現在にいたるまでの道のりや、業界を目指す若手へのメッセージを語っていただきます。今回は、複数の国内CGプロダクションでの制作を経験したのち、PIXOMONDO(ドイツ/ベルリン スタジオ)、Scanline VFX(カナダ/バンクーバー スタジオ)でエフェクト・テクニカル・ディレクターを務め、2014年7月半ばに帰国した米岡馨(よねおか けい)さんに話を伺いました。


先入観に縛られて行動を起こさないのは、すごくもったいない

ー 今日は米岡さんの学生時代から現在までの歩みを伺いながら、その時々で印象に残っているエピソードを語っていただこうと思っています。まず、CGを仕事にしたいと思ったのはどのタイミングだったのでしょうか?

早稲田大学第二文学部に在学していた当時、メディアアートの授業を受けたのです。Photoshopの実習で写真にレンズフィルタをかけたりすると、それだけでカッコイイ作品ができた。「自分に向いているんじゃない?」という勘違いがきっかけで、CGに興味をもちました(苦笑)。学生向けのLightWaveを購入して、自主制作を始めたりもしましたね。 加えて、その頃はものすごくビデオゲームにはまっていて、日雇いでエアコン掃除などのバイトをし、その稼ぎの大半をゲームセンターで使ったりもしていました。だから自分にとってCGはすごく身近な存在だったのです。将来やりたいことが明確には定まっていなかったので、だったらCGを突き詰めて勉強してみようと思い、大学卒業後にデジタルハリウッド(東京/御茶ノ水)へ通うことにしたのです。両親は普通に就職活動をしてほしいと思っていたようで、反対されましたけれどね(笑)。

ー それは2000年代前半くらいの話でしょうか。既にCGの需要が高まっていた時代とはいえ、早稲田大学を卒業してCGを仕事にしようとする人は珍しかったでしょうね。

私以外で、そういう進路を選択した人はいなかったと思います。文学部ですから、美大生がやるほどに突き詰めてデッサンを勉強したわけではなかったし、数学や物理を専門に勉強したわけでもなかった。当時、すごく印象的な出来事がありました。私の周囲に、圧倒的にデッサンのうまい同級生がいたのです。その人もアート系の道に進みたかったのに、色々な情報を聞きかじった結果、「こんなレベルじゃ太刀打ちできない」といって挑戦しないままに別の進路を選択しました。その一方で、私は「デッサンはうまくないけどモデリングはできているし、そんなに気にする必要ないんじゃないの?」と、根拠のない自信をもっていたのです。先入観に縛られて行動を起こさないのはすごくもったいないですし、どんな偉い人の言葉でも、全部を鵜呑みにする必要はないと今でも思っています。話半分くらいで良い(笑)。

ー 米岡さんのようにエフェクトを専門にやりたいなら、数学や物理の知識が必要で、スクリプト(注1)も書けた方が良いと思うのですが、当初はそれらに精通していたわけではなかったと?

注1:ソフトウェアの機能を組み合わせて自動化したり、カスタマイズしたりするための、簡易的なプログラミング言語のこと

その質問はよく受けますね。結論からいうと、スクリプトが書けなくても、エフェクトはつくれます。実際、当時の私はほとんどスクリプトを使っていませんでした。LightWaveのエフェクトはパラメータ調整が基本で、直感的に操作できました。たとえばパーティクル(粒子)のエミッタ(発生源)をどうアニメーションさせるかによって結果が大きく変わってくるので、そういった部分のセンスを磨くことに注力していたのです。その重要性は時間が経過しても変わらないので、当時学んだことは今の仕事にも活かされていますよ。ただし、たとえば爆発をシーン内に大量に配置するとか、規模の大きいエフェクトをつくるといった場合には、スクリプトの知識があったほうが効率良く作業できます。だから知っているに越したことはないし、エフェクトをやり続けていれば、自然と後から身に付いてくるものだとも思います。色々な人の意見を聞きつつも、まずは興味があれば気負いすることなく挑戦してみるのが大事です。

ー エフェクトのセンスを磨くうえで、大切なことは何でしょう?

リファレンス(参考資料)をよく見る観察力ですね。頭のなかだけで考えてつくるなと、後輩にはよくいっています。まずは本物の自然現象をよく観察して理解する。それを日常的にやっておけば、「見たこともないエフェクトをつくってください」という注文がきた場合でも、実際に起こり得る自然現象の組み合わせで説得力のあるエフェクトをつくれます。とはいえ……こういう話は今だからいえることで、デジタルハリウッドに入学した当初は、まだエフェクトを専門にするとは定めておらず、モデリングやアニメーションなど一通りの工程を学びました。でも私はアニメーションには向いていないと感じ、それ以外の工程に注力するようなったのです。デジタルハリウッドを卒業した後も、自分のブログや投稿サイト、コンテストなどを通して、作品が他の人の目に触れる機会をつくるようにしていました。そうしたら、ある日、株式会社アニマから「うちで働きませんか?」というメールをいただき、CG業界でのキャリアがスタートしたのです。

ー それらの作品をつくる際、意識していたことはありますか?

当時もネット上には数多くの学生作品が公開されていましたし、学生作品を紹介するTV番組までありました。それらをチェックして、学生とプロの差を意識するように心がけていましたね。「プロのクオリティに到達しないと意味がない」と考えていたので、毎日何かしらの制作をしていたように思います。とりわけエフェクトはレンダリングに時間がかかるので、シーンデータをつくり、レンダリングをかけ、その間に風呂に入るなどして、なるべく無駄な時間の使い方をしないよう意識していました。

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米岡馨さん

エフェクト・テクニカル・ディレクター

早稲田大学第二文学部を卒業後、デジタルハリウッドで3次元CG制作を学ぶ。株式会社アニマ、株式会社アニマロイド、株式会社デジタル・メディア・ラボ、株式会社オムニバス・ジャパン、OXYBOT株式会社にて、ゲームムービー、映画、CMなどの制作に携わったのち、2011年からはPIXOMONDO(ドイツ/ベルリン)に勤務。2013年にScanline VFX(カナダ/バンクーバー)に移籍。2014年9月現在は日本に帰国しており、フリーランスのエフェクト・テクニカル・ディレクターとして活動している。

 

尾形美幸

フリーランスのライター&編集者。CG分野の書籍制作、雑誌&Webサイト記事執筆などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて教材の企画制作等に従事した後に独立。著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011/ともにエムディエヌコーポレーション)、寄稿に『ゲームクリエイターが知るべき97のこと 2』(2013/オライリー・ジャパン)がある。屋号は 「EduCat(エドゥキャット)」。なかなか軸足の定まらない野良猫ではあるものの、なるべく「Educate(教育)」に貢献したいという願いを込めている。