IGDA日本ゲームテクノロジー研究会(SIG-GT)第11回研究会
IGDA日本ゲームテクノロジー研究会(SIG-GT)第11回研究会
「レンダリング最新事情 〜『CG Magic:レンダリング』に見るレンダリングの最新事情〜」
6月21日に、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本) http://www.igda.jp/ 主催の研究会をCG-ARTS協会にて開催しました。CG-ARTS協会は、共催として、この研究会をバックアップさせていただきました。テクノロジーに関する話がメインだったため、来場者の殆どが男性でしたが、若干女性もいらっしゃいました。また、少数ですが学生さんもいらしたようです。場内は満席で、多くの方々が熱心に聞いておられました。当日の様子をご報告します。
日時・会場・主催・共催・定員
■日時 :2008年6月21日(土) 14:00 - 17:30
■会場 :CG-ARTS協会
■主催 :国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)
■共催 :CG-ARTS協会
■定員 :60名
プログラム・講師・パネリスト・モデレーター
14:00 | ご挨拶 CG-ARTS協会の紹介 |
---|---|
14:15〜 16:15 |
「レンダリング最新事情 〜『CG Magic:レンダリング』に見るレンダリングの最新事情〜」 講師: |
16:30〜 17:30 |
パネルディスカッション「最新レンダリング技術のゲーム分野への応用」 パネリスト: 森泉仁智 (もりいずみ よしのり) 高田稔則 (たかた としのり) モデレーター 久代忠史(くしろ ただし) 株式会社エクサー |
講演概要
「レンダリング最新事情 〜『CG Magic:レンダリング』に見るレンダリングの最新事情〜」
昨年11月に発売された倉地さんの著書『CG Magic:レンダリング』(オーム社)
の内容をベースに、最新のレンダリング技術を紹介。レンダリングアルゴリズムなどの技術解説ではなく、大学の研究室で技術が開発されてから、映画で実用化されるまでのストーリー解説にフォーカスしていた。
主に以下の2つのレンダリング技術を紹介。
1. Physically-based(計算式を用いて行うレンダリング)の代表例として、Subsurface Scattering
2. Image-based(写真を用いて行うレンダリング)の代表例として、Recovering Reflectanceなど
以下、概要を紹介する。
■日本人のクリエイティビティ発揮の手助けをしたい。
日本人は非常に器用なので、新しい技術をどんどん吸収、応用し、自作に取り入れることはできる。しかし、新たな技術を自らクリエイトすることは苦手としている。著書を通して、新しい技術が生み出される裏側を紹介し、日本人がクリエイティビティを発揮する手助けをしたいと思った。
■良い結果が出るなら、嘘の計算式でよい。
Subsurface Scatteringの計算式は物理的にはあり得ない仮説や境界条件、近似式への繰り込みなどが行われている。しかし、その計算式を用いるとCGクリエイターから見て良い絵が、比較的短時間でできてしまう。
CGの現場では、「物理的、数学的な正確さ」ではなく、「らしさ」や「いかに短時間で結果を出せるか」が優先される。たとえ非常に正確な結果が出せる研究成果でも、非常に時間のかかるものだったとすれば、映画制作者には受け入れられない。Subsurface Scatteringの論文が発表されてからは、ほかの学問の専門家が
見れば眉をしかめるような「嘘」の計算式を用いた研究が流行ることになった。
■リアルになるほど、ごまかしがきかなくなる。
Subsurface Scatteringは、『Lemony Snicket s a Series of Unfortunate Events』(2004年製作/邦題 レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語)で効果的に使用された。この映画の中で、ILM(Industrial Light & Magic:ジョージ ルーカスが設立した特殊撮影専門の会社)は実写の赤ん坊の顔をCGで置き換えるという作業を行った。このとき、赤ん坊の皮膚の映像表現にSubsurface Scattering手法が用いられ、極めてリアリスティックな皮膚が表現された。しかし、皮膚がリアルになった結果、これまでは気にならなかった「足りないもの」が気になるようになってしまった。それは赤ん坊の「産毛」だった。人間が知覚できるかどうか分からないような細かなディティールだが、それが欠けることによって、何かしら不自然に見えてしまうらしい。そのため、映像制作アーティストは「産毛」を1本1本手作業で植えていく作業を行うことになった。
■対象を熟知することの重要性。
写真から人物の皮膚をリアルに表現するために開発されたライトステージは、『Spider-Man 2』(2004年製作/邦題 スパイダーマン2)で実装された。このときソニーピクチャイメージワークスで活躍したエンジニアは、その経歴が非常に特殊だった。もともとは似顔絵描きだったが、大学に戻って研究を行いエンジニアになり、顔のCG表現のエキスパートになった。似顔絵描きとして活躍した過去があるため、彼は「人の顔をどうすればどのように見えるのか」を熟知している。そのため、良い絵をつくることができる。この人材が去った後も、同じ手法とプログラムを使って人物をCG化して作品を制作しているが、今一の評価である。やはりCGソフトウェアを開発するエンジニアが、対象とする映像表現を熟知することが最終的なCG映像のできを大きく左右する=CGによる人物描写は人の感性に依然、依存しているということではないだろうか? 技術的には、CGによる人物の皮膚の描写はかなり行き着くところまで完成されており、人種、男女、年齢などを表現できるようになったが、映画などで使われる、存在しない人種(宇宙人?)をリアルからどう創り出す(表現)するかなどは課題として残っている。また、現在は、人物CGの描写で最も難しいと思われる髪の毛へチャレンジが行われているがここで最も重要なことはやはり本物を創るより“らしさ”の完成度である
パネルディスカッション「最新レンダリング技術のゲーム分野への応用」
4名のパネリスト(倉地さん、下野さん、森泉さん、高田さん)と、モデレーターの久代さんとの間で、絵作りのための課題や、今後の方向性について、活発な意見交換が交わされた。以下、概要を紹介する。
■技術のための技術開発に陥っていないか?
アメリカでは、技術を開発する大学と、それを実装するプロダクションが理想的な関係を構築している。研究現場と実装現場の距離が非常に近い。実用的な論文を量産できる体制が整っている。ピクサーや、スタンフォード大学とILMの関係は好例。両者のフィードバック、コラボレーションが良いアイデアを生み出す。大学で開発された新技術が、早い段階で制作現場に投入され、足りないもの、余計なもの、アーティストにとって使い勝手のよいパラメータの設定などの提案がなされる。そうして新技術はどんどん使い勝手のよいものになっていく。日本では大学とプロダクションの間には距離がある。大学の研究が、技術のための技術開発に陥っていないか、よく考えるべきである。
■映画でもインタラクティブ
ゲームだけではなく、映画でもインタラクティブ、リアルタイムが「鍵」になっている。近年のアメリカの映画制作現場では、監督は「すぐに結果を見たがる」ようになった。撮影を開始する前に、CGでプレビジュアライゼーション映像を制作しながら監督が演出を検討する、という制作スタイルが主流になっている。プレビジュアライゼーション映像制作に1年以上を費やす作品もある。「より速く結果が出せる新技術」が求められている。
■今後の新技術の目指すべき方向性
アーティストが本当に真価を発揮すべきところにだけ注力できる環境を整える。どんなにすばらしい技術も、優れたアーティストの感性には適わない。モーションキャプチャのアニメより、優れたアニメータのアニメの方が美しい。例えば、アーティストは本当に重要なメインキャラの表現に注力し、量産が必要な多少レベルが落ちてもかまわない群集はシミュレーションで制作する、といった体制が理想的。
■リアリスティックよりファンタスティック
今後のシミュレーションの課題は、いかにコントロールするか。映画制作で求められるのは、リアリスティックなシミュレーション結果ではない。水や光に演技して欲しい。そのために結果をコントロールしたい。ユーザがコントロールできる隙間をどれだけつくれるかが重要である。