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[SEMINAR]Webデザイン指導者向けセミナー 東京・大阪・福岡にて開催

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2007夏期CG-ARTS教育セミナー

7月28日の福岡を皮切りに、東京、大阪と開催したWebデザイン指導者向けセミナー。近年特に成長著しいWeb業界の動向や現状、制作現場のWebデザイナーに求められる知識や能力について、指導者の方々に知っていただきたいことは何か、という切り口で講演とパネルディスカッションを行い、3会場で159名(福岡23名/東京76名/大阪60名)の方々にご参加いただきました。ここでは東京会場での模様を中心に報告いたします。

開催地区・日程・会場

【福岡】 7月28日(土) KCS福岡情報専門学校 (福岡市中央区春吉1-11-18)
【東京】 8月21日(火) 東京八重洲ビジネスセンター (東京都中央区京橋服部ビル4F)
【大阪】 8月24日(金) 天満研修センター (大阪市北区錦町2-21)

プログラム
10:30 主催者挨拶
10:40 『広告という視点からWebデザインを考える』
〜インターネット広告を例にデザイナーに求められるコミュニケーション能力を紹介します〜
講師:峯川 卓氏(株式会社電通 メディア・コンテンツ計画局次長)
13:10 展示企業のご紹介&認定教育校のご案内  
アドビシステムズ社様(東京会場のみ)
オートデスク社様(福岡会場を除く)
ソフトアドバンス社様
14:00

『Webデザイン授業研究会』
〜Webデザイナーとは何か、その仕事と現場で求められる能力を
パネルディスカッション形式で検証します〜
講師:若林 尚樹氏(東京工科大学 メディア学部 教授)
秋谷 寿彦氏(株式会社博報堂 アイ・スタジオ ナレッジ&コミュニケーション推進室 室長)
峯川 卓氏(株式会社電通 メディア・コンテンツ計画局次長)

17:00 質疑応答
17:30 終了
『広告という視点からWebデザインを考える』

以下は、峯川氏の発表内容の概要である。

大きく伸びるインターネット広告市場
  • 総広告費はこの10年、約6兆円前後で推移している
  • インターネット広告費は3,600億円を越える
  • インターネット広告費は前年比129%の成長
  • インターネット広告費はすでにラジオ広告費を越えている
  • さらに成長すると予測されるインターネット広告費
  • なぜインターネット広告は伸び続けるのか?
  • ブロードバンド・インターネット環境の急速な普及
  • 裾野が大きく広がるインターネット広告費
変化し続ける、インターネット広告
  • インターネット広告に何が求められるのか?
  • 二極化するインターネット広告表現
  • インターネットをどのような広告媒体と捉えるか
  • インターネット上の広告マーケティング作業
  • メディア・ミックスからクロス・メディアへ
  • メディアは個人が造る時代へ?
  • Webデザイナーは何処に立つのか?
マーケティング・コミュニケーションの中で重要度を増すWebの位置づけ
  • インターネットによって変わる購買行動
  • 広告主にとってインターネットが重要な4つの理由
  • Webサイト・マーケティングの3要素
  • 「継続してもらう」フォローマーケティング
  • 広告マーケティング作業とコミュニケーション
  • Webデザイン作業の実際
  • 交錯する専門領域とWebデザイナー

講演では、販促・マーケティング、広報・広告という視点から、現在のWeb市場を俯瞰し、その現状と今後の方向性が示された。ポイントとして、以下の点があげられた。

(1)インターネット広告の市場は、すでに4大メディア(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の内のラジオ広告を抜き、2007年には雑誌広告をも超える高い伸び率を示している。インターネット広告は、第5のマスメディアとしてのポジションを確立しつつあり、その市場規模はすでに3,600億円を超え、ブロードバンド・インターネット環境の普及は2,500万世帯を超えている。

(2)インターネット広告の市場の特徴として、裾野が非常に広い市場構成という点があげられる。参入障壁の低さから、個人が、マンションの一室で、マスメディアによる伝達と同等の活動を行えるようになってきている。

(3)Webは双方向性という他のメディアにはない特徴を有するため、企業の情報提供では販促・マーケティングのためのツールとして、その活用が大きなウエイトを占めている。それと相乗的に、第5のマスメディアとして広報・広告という機能も持つようになり、「クロス・メディア」というコミュニケーション戦略の実現に貢献している。「クロス・メディア」は、「掛け算の広告手法」とも表現される。従来のメディアにWebという双方向のコミュニケーションが可能なメディアが加わることで、情報は立体的な展開ができるようになっている。

「販促・マーケティング」「広報・広告」という、これまでは異なる部門が担ってきた2つの機能を同時に持つWebの登場により、領域ごとの手法にとらわれないトータルな情報活用を見据えた「ホリスティック・コミュニケーション」という考え方が始まりつつある。インターネット広告によって、消費者の購買時の行動様式は「AIDMA(Attention → Interest → Desire → Memory → Action )」から
「AISAS( Attention → Interest → Search → Action → Share )」へと変わっている。

(4)こうしたWebの大きな変化の中で、Webデザイナーの担うべき役割や、必要とされるスキル、知識も大きく変わってきている。Webサイトを制作する「オペレータ」ではなく、マーケティングコンセプトを理解し、Webを通じた情報活用によるソリューションを顧客(クライアント)に提供できる「クリエイターとしてのWebデザイナー」が求められている。

(5)オペレータからクリエイター(Webデザイナー)へのスキルトランスファーをするためにも、インターネット広告の現在の潮流や、マーケティングとの関係を理解し、複合化した制作現場の中で協業するためのコミュニケーション能力を身につけ、他の分野の専門知識にも可能な限り興味をも持ち、汎用的で幅広い知識の「のりしろ」を有しておくことが、これからのWebデザイナーには求められる。

その他、第5回 東京インタラクティブ・アド・アワードの作品紹介などが行なわれた。

峯川氏は講演を以下の言葉で締めくくった。 
「Webは、販促・マーケティング、広報・広告にとって非常に重要なツールになってきている。Webは、クロス・メディアという考え方の中核を担うメディアである。この考え方を基にすれば、新たに求められるWebデザイナーの人材像が見えてくる。新しいWeb広告の潮流の中で求められているのは、これまでのようなWebページのデザイナー(オペレータ)ではなく、販促・マーケティングや広報・広告の知識を有しており、クライアントに対して、クリエイティブなトータルソリューションを提供できるWebデザイナーである。」

『Webデザイン授業研修会』

まず、若林氏より市場のWebサイトの分類と、その内容についての紹介があった。さらに、Webデザイナーとユーザ、クライアントの関係性について説明が行なわれた。

個人が作ったWebサイトを他の人々(ユーザ)に見てもらうという関係に、クライアントが加わることで、個人はWebデザイナーへと変わる。Webデザイナーとは、仕事として依頼されたサイトを、ある目的のもとに制作する、責任を有する立場の人である。Webデザイナーには、クライアントを納得させるためのサイトコンセプトの立案、スケジュールやコストの管理といった能力も必要である、といった解説がなされた。

また、Webサイト制作のプロセスや、Webサイト制作に関連する様々な職種などについても紹介された。来場者の方々がとくに興味を示したのは、「採用側はどのような人材を求めているのか」というテーマに関するディスカッションだった。


若林氏
「採用する人材のどのようなところを重視しますか?」

秋谷氏
「作品はもちろんですが、いかに自分をプレゼンできるか、を見ています。自分のデザインの何処にこだわりがあるのかを、自分の言葉で説明したり、ポートフォリオで示したりできる人は評価します。ポートフォリオは、見る相手を意識して、見せ方にこだわることが大切です」

峯川氏
「クライアントがいるということは、説明責任が求められるということです。Webデザイナーもそういう意識をもち、何故そのデザインにしたいのかを主張しなければなりません。そして、そういった意識の強い人がプロデューサーになっていくのではないかと思います」

若林氏
「授業では、何を作りたいかを説明する最初の段階を大切にしています。Webサイト制作に関する技術は幅広く多様ですが、目的に合わせて活用することが重要です。技術ありきではなく、目的を成し遂げるために技術を活用することが大切です」

この後、秋谷氏より、博報堂アイ・スタジオが制作したWebサイト事例の紹介が行われた。コーポレートサイトやキャンペーンサイトなど、様々な種類のWebサイトが、どのようなコンセプトで制作されたのか、どのような効果を有しているのか、どのような表現手法や技術が使われているのか、といった解説がなされた。

最後に、3名の講師に加え、クライアントの立場として、キヤノンマーケティングジャパン株式会社コミュニケーション本部の木下進氏にも加わっていただいた。クライアントと制作者がコンセプトを共有することの難しさや大切さ、クライアントとの抽象的なオリエンテーションを具体化していく際の制作者の苦悩や工夫、コミュニケーションの図り方などについてディスカッションが行われた。締めくくりの質疑応答では、10名以上の方々からさまざまな質問が投げかけられ、教育者の皆様が多くの課題を抱えていることが感じられた。以下に、質疑応答の一部をご紹介する。


Q:Webデザイナーの役割は何なのか?非常に広範囲な役割が求められているようだが?
A: Webデザイナーの役割は、近年益々広がっており、すべての役割を1人でこなすことは不可能に近い。様々な役割のなかで、自分が得意とする役割を見つけ、そのためのスキルを磨くことが重要である。

Q:グラフィックデザイナーとWebデザイナーの違いは何か?
A: 紙物とWebサイトとの大きな違いは、インタラクティブ性や、リンクである。紙物には誌面という限界があるが、Webサイトには限界がない。Webデザイナーは、Webサイトという限界のない世界で、情報をどう表現していくかを考えなければならない。

Q:学生にどういう課題をやらせるべきか?
A: 私の大学では、産業界の人々から学生が実際にWebサイトの発注を受け、制作するという、非常に実践的な授業を展開している。学生が制作したWebサイトに対して、クライアントである産業界の人々からは様々な意見が寄せられる。そのコミュニケションによって、学生たちがどんどん成長していくのがわかる。

Q:アイデアはどのようにすれば生まれるのか?
A: 私の会社では、新人に翌日までにキャッチコピーを100本書いてくるように指示する。翌日新人が100本のキャッチコピーを書いてきたら、さらに翌日までにもう100本のキャッチコピーを書いてくるように指示する。これを数回繰り返されると、やられた人間はアイデアが枯渇してしまい、もう思いつかないと悲鳴をあげる。しかし、その後に、いつもとは違った物の見方をせざるをえなくなり、普段の本人では思いもつかないような面白いアイデアが生まれてくる。そうやって、新人にアイデアの出し方を教育している。

Q:Web業界の労働条件は厳しいと考えている学生がいるが、本当なのか?
A: たしかに楽な業界ではない。しかし、Web業界の市場規模は年々拡大しており、雇用条件は徐々によくなっている。黎明期には、クライアントの理解が得られず、Webデザイナーが正等な報酬を得るのが困難な場合もあった。しかし、近年ではクライアントの理解も深まってきており、状況は改善されている。


セミナー終了後にご提出頂いたアンケートでは、「非常に参考になった」とのご意見を多数頂戴しました。ご出席いただいた方々にはご満足頂けたセミナーとなったようです。

なお、本日講師の方々にお話頂いた内容のなかには、協会発行の教科書『Webデザイン』『入門Webデザイン』でも取り上げられているものや、Webデザイナー検定に類似内容が出題されたものもあります。協会の教科書や検定試験は、今回の講師のような、制作現場、教育現場の専門家のご意見を積極的に取り入れて作られております。これらも合わせて、皆様の教育活動にお役立てください。

講師プロフィール

峯川 卓
株式会社電通 メディア・コンテンツ計画局次長

1977年早稲田大学教育学部卒、電通入社。インタラクティブ・コミュニケーション局ブロードバンド部長、メディア・コンテンツ計画局アド・システム開発部長などを経て、現在に至る。JIAAには2001年から籍を置き、ブロードバンド広告部会長を経て、07年6月から「インターネットCM著作権対応プロジェクト」プロジェクトリーダー。


若林 尚樹
東京工科大学メディア学部 教授

金沢美術工芸大学産業デザイン学科卒業、同大学大学院在学中に通産省製品科学研究所でコンピュータグラフィックスを学ぶ。筑波大学大学院芸術研究科を修了。富士ゼロックス総合研究所工業デザイン研究室でデザイナーとして活動の後、株式会社資生堂宣伝部でデザインシステムの研究開発。その後、岡山県立大学デザイン学部助教授を経て、現職。専門分野は、デジタルデザイン、情報デザイン。ディジタル環境、ネットワーク 環境を利用した情報 デザインと表現手法の研究。


秋谷 寿彦
株式会社 博報堂アイ・スタジオ ナレッジ&コミュニケーション推進室 室長

1988年東京学芸大学初等教育教員養成課程美術選修卒業後、松下電器産業グループ系列会社である株式会社クリエイターズグループMACへ入社。松下電器、ビクター、テイチクレコード、ユニバーサルビクターなどの製品およびアーティスト広告を多数制作。1999年ころからWebサイト制作に関わるようになり、2003年に現在の博報堂アイ・スタジオに入社し現在に至る。