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Vol.32 東京工科大学クリエイティブラボとルーカスフィルムアニメーションの教育プログラム

12月16日(水)〜12月19日(土)までパシフィコ横浜で開催された「シーグラフアジア2009」。 ”革新の波動”をテーマに、CGとインタラクティブ技術を中心としたデジタルメディアとデジタルコンテンツの国際総合展として開催され、世界41カ国から6,400人以上の参加者を集めた。

「Bridging the Gap: Academic Education and the Real World」をテーマに行われたワークショップで人気を博した東京工科大学クリエイティブラボの「ディジタルキャラクターメイキング」と、ルーカスフィルムアニメーションの「ティーチングティチャーズ:プロダクションの制作プロセスに対する理解を教育者に与えること」の2つをレポートする。


 
ディジタルキャラクターメイキング キャラクターの創作活動について理解を深める

このワークショップでは、ストーリーやキャラクターの行動や性格設定などのリテラル資料に基づいてキャラクターを創作する方法「ディジタルキャラクターメイキング手法」について、実際にそのプロセスを受講者がPCを使って演習する形態のワークショップを計画されていた。しかし、予想を上回る受講者数のために、急遽プログラムを変更して、解説と例示を中心にしたものになった。

ワークショップの講師を務める金子満氏は、まず「キャラクターメイキング」とは、性格を持ち、ストーリーを伝えることができる「オブジェクト」や「キャラクター」を考案、デザインし、それらを効率的に運用する手法だと説明した。ストーリー、プロット、エピソード、キャラクター設定、キャラクターの描写、流通の利便性を考慮したデータ管理までを含んでいるという。

また、キャラクターデザインの制作工程では、プロデューサーがデザイナーにキャラクターイメージを伝え、キャラクターデザイナーがそのイメージをもとに画像やモデルをデザインし、原案をまとめていく創作活動が行われているとも説明した。
このワークショップは、このようなキャラクターの創作活動について理解を深めることを目的に、キャラクターメイキングプロセスに従って次のように進められた。

第1段階:リテラル資料であるS、Mプロット(プロット:物語のあらすじ)の作成とキャラクターのさまざまな特徴を示す設定情報をまとめる

第2段階:ビジュアル資料を作成するためのキャラクター印象スケールによるキャラクター画像の分類を行う

第3段階:金子氏が教育・研究活動の場としている東京工科大学に所属する渡辺賢吾研究員が作成したコラージュシステムを使ってデザイン原案を作成する

残念ながら、第3段階は、受講者人数が多すぎたため、演習は行われず、同大学での実習例とその成果のキャラクターが紹介された。
受講者は、国内外のCGプロダクションやゲーム開発会社の制作者、それを目指す学生らだった。受講者の一人、米国の著名なプロダクション制作者からは、「米国でもこうしたキャラクターメイキング手法は聞いたことがない。ぜひ米国でも紹介するべきだ!」といった声も上がるほどで、会場は4時間にわたるワークショップにもかかわらず、終わりまで熱心に話を聞く受講者で熱気に満ちていた。
 

 


ティーチングティチャーズ プロダクションの制作プロセスに対する理解を教育者に与えること

このワークショップでは、ルーカスフィルムアニメーションシンガポールが行っている教育プログラムについて、社内トレーニング担当のLeckman氏の教育者としての視点を交えながら紹介された。「子供の頃からスターウォーズおたくだった」と語るLeckman氏は、夢であったIndustrial Light & Magicに入社を果たし、プロダクションマネージャーやプレビジュアライゼーションのスーパーバイザーなどを務めた。その後、New York University、Academy of Art University、Savannah College of Art and Designなどで教鞭をとり、カリキュラムの制作にも関わった。現在は業界に戻り、 制作現場と大学教育両方の経験を生かしてルーカスフィルムアニメーションシンガポールで研修長を担当している。

「まずシンガポールのコミュニティー全体にアニメーションプロダクションのしくみを理解してもらわなければならなかった」とLeckman氏はいう。アジアでのアニメーションやゲーム制作に高い関心が集まるなか、ルーカスフィルムは2004年にルーカスフィルムアニメーションシンガポールを設立。「クローン・ウォー・シリーズ」やゲーム用のアニメーションなどを制作している。しかし、シンガポールではアニメーション制作の歴史が浅いため、まだ産業としての認知度が低く、経験豊富な人材も少ないという。Leckman氏は「自分の子供がアニメーション業界に就職することに不安を感じる親も多い。若者だけではなく、その上の世代にも理解してもらう必要がある」と話した。


ジェダイ・マスターズ・プログラムで人材育成

このような状況に対してルーカスフィルムアニメーションシンガポールが行っているユニークな取り組みが紹介された。そのひとつが「ジェダイ・マスターズ・プログラム」だ。これは既に学校を卒業した人を対象とした6ヶ月の研修で、12人の「弟子」がスタジオ内でアニメーション制作の技術を学び、実際のプロジェクトに参加もできるという。この研修に参加するには審査で選ばれる必要があり、熱意と才能、将来性が認められた若手のアーティストだけが参加できる。参加費用は不要なため、本当に無料なのか?と驚く参加者もいるそうだ。研修終了後に自動的に採用されるわけではないが、制作現場で第一歩を踏み出せるレベルの力がつくという。

現在、このジェダイ・マスターズ・プログラムは年に数回行われており、スタジオでは日常的に「弟子」の教育が行われている。このような研修制度は、人材を手っ取り早く育成するには向いているが、スタジオに大きな負担がかかるので、長期的にみれば、このような教育は現地の教育機関が行うのが理想なのだろうとLeckman氏はいう。


実際の現場を使った研修の利点

ルーカスフィルムアニメーションシンガポールでは学生向きのインターンシッププログラムや、教員向けのトレーニングも行っている。アメリカでは、制作プロダクションが大学を訪問して、学生からプレゼンテーション受けたり、面接を行ったり、また教員向けのスタジオ視察プログラムなども実施している。

ルーカスフィルムアニメーションシンガポールではさらに踏み込んで、教育シポジウムや教員が制作工程やツール、視覚効果の基本などについて学べるプログラムを行っているという。「どんなレベルの教育でも、一番大切なのは教師の質だ」とLeckman氏は語る。大学と業界が連携し全体の質を向上させるためには、教員にプロダクションの現場を見てもらい、アニメーション制作についてもっと深く理解してもらうことが大切だと話した。

Leckman氏はこのような実際の現場を使った研修の利点のひとつは、スタジオで行うので、研修者は自分たちが学んでいることが、どのように作品に結びつくのかがよく分かることだという。大学では、プロダクションがどのようなものか見たことがない学生が多いので、「映画やアニメーション産業の発展の歴史を説明し、君たちもいつかその歴史に貢献するんだ、と何度も言ってモーチベーションを維持した」と当時の苦労を語った。

このような短期間の研修で、今まで知らなかった進路の可能性を発見する人もいるという。「自分にアニメーションをつくる才能がない、と気がついても、この分野での就職をあきらめることはない。例えば、プログラミングが得意な人が研修を受けて、自分は美術のセンスはないが技術開発という仕事がある、ということを知ることもある。また、経営に関心がある人は、現場を理解したよいプロデューサーになれる可能性がある」と説明してくれた。

広い視野を持って、多くに触れて、自分の表現の幅を広げること

この講演の後、Leckman氏には教育関係者から多くの質問があり、質疑応答は1時間にも及んだ。多くの質問の中でも特にLeckman氏が時間を割いて回答をしたのは、やはりこの業界に興味がある学生がどのような勉強をすればよいかについてであった。

ルーカスフィルムアニメーションシンガポールで、ディレクターを志す学生を採用することがあるのか、という質問に対しては、「新人はアニメーション制作やツール開発など、現場の人材として採用される。現在ディレクターをしている人たちの多くも、そのような職種から始めた。私たちのスタジオでは、まずアニメーターなどから始めることになる」と答えた。さらに「ディレクターになりたいなら、多くの映画や展覧会を見たり、たくさんの本を読んで、自分の表現の幅を広げられるようにならなければいけない。映画をよく見るといっても、同じジャンルの映画ばかり見ていてはダメだ。ゲームが好きだとしても、ゲームばかりしていてはいけない」と、幅広い分野の芸術に親しむことの大切さを強調した。

Leckman氏は質疑応答の終わり近くに「音楽の楽器演奏でも、プロはとても長い時間をかけて練習を積む。最近読んだ本で、どんな分野のスキルでも、一応できるようになるには最低10,000時間の練習が必要だと書いてあり、納得した。CGアニメーションの制作も同じだ。ジェダイ・マスターズ・プログラムの研修を6ヶ月間受けても、まだやっと最初のレベルに到達できるぐらいだ」と述べ、アニメーションに興味がある学生はすぐにでもチャレンジしてみて、どんどん経験を積むべきだ、と勧めて講演を終えた。


取材・文:宮井あゆみ、青木美穂(アラスカ大学)