ポリゴン・ピクチュアズとIGFXが担当した1000カット。IGFXの制作デスクと連携し作業を推進すべく、ポリゴン・ピクチュアズ側の制作デスクを務めた高久さんは、「全体を統括する立場で牧野と長崎は動いていたので、私とCG助監督はポリゴン・ピクチュアズ内部での映像制作の管理と進行に務めました」と話し、この仕事が進行している間は、2名に対しては外部の人間という立場で接していたと役割の違いを強調した。
つづけて他社との文化の違いに関しては「仕事の進め方や慣習などの相違の調整は、やはり大変でした。後から判明する問題も多かったので、スタッフの取りまとめ役としては、スケジュール管理が厳しかったです。でも、皆こだわりを持っている方の集まりなので、相性がよかったんだと思います。ゴールは同じものを見ていた!これがモチベーションを維持できた秘訣だと思います。」牧野さん、長崎さんをはじめ全体を統括する立場の方も、そしてそれぞれの制作現場のスタッフも、同じものを目指せたことが、一番功を奏したようだ。
プロダクションI.Gの3DCGスタジオIGFXは多摩霊園にある。アニメーション制作スタッフは、プロダクションI.Gの塩谷さんの下に集結すべく、ポリゴン・ピクチュアズとIGFXの混成部隊が多摩霊園に発足した。
「2月から5月までは多摩霊園に通いました。佐藤監督をはじめ、塩谷さん、野村さん、それに長崎といった各セクションのトップが集まって話せることの効果は大きかったですね。多摩霊園ではホッタラケの仕事しかやらないので、かえってぼくらは集中して仕事することができましたよ」と牧野さんは話す。
その後、6月から7月のライティング・レンダリング、およびコンポジット作業はポリゴン・ピクチュアズで行われたためトップ集団もそちらに移動し、他社の人たちもその多くがポリゴン・ピクチュアズに集結したというから徹底している。
7月中旬に『ホッタラケの島〜遥と魔法の鏡〜』の映像が完成し、同月末に試写が行われた。スタッフは映像完成の数日前から泊り込みで制作をつづけ、最後に残った1カットをチェックする際には全員で1台のモニターを見つめた。完成後は歓声があがり祝杯をあげたというから、クオリティにこだわり続け、大きな達成感を得た彼らの喜びの姿が目に浮かぶ。
最後に3人に映像制作分野を目指す方々に向けてのメッセージを伺った。
高久さんは「基本的にコミュニケーション能力は必要。オープンな気持ちを持って固定観念に縛られず新しいものをどんどん作っていく気持ちを持っていてほしいですね。いまあるものが全てではありません。自分で追求する気持ちを忘れないでほしいです」と話す。
牧野さんは「創る側としてやりたいものは持っていて欲しいですね。エンターテインメントの仕事なので、客席のお客様に何を見せたいかが重要。そして、プロになりたいなら芸が必要です。観客が見たときに何が問われるのかを感じてほしい」という。
長崎さんは「技術も重要だが想いが大事だと感じています。技術は会社に入ってからでも意欲さえあれば学べますが、揺るがないビジョン、感性、引き出しの多さは後から身につくものではありません。そういった知的好奇心に対する貪欲さが足りない人が多いように思います。アンテナを大きく広げて一生懸命勉強してほしい、そう思います」と話す。長崎さんも、大学時代は建築を学んでいて、卒業後にデジタルハリウッドで入学して、とにかく貪欲に勉強してこの業界に入ったという。
学習という観点からCG-ARTSが発行している書籍「ディジタル映像表現」について牧野さんは「アニメの世界にもスタジオジブリさんやプロダクションI.Gさん、そしてOLMさんといった業界を代表する制作会社の方々が中心となって作られているマニュアルがあるんですよ。これを手にしたときに、体系的な知識はとても重要だと思いました。こういうものでCG業界も標準化を図っていく必要があるのではないかと感じています」と話し、続けて長崎さんは「規格を共有できれば、仕事の共有もスムーズになり、ひいては業界の活性化に繋がると思います。言語の共通化も図れるとよいですよね。こういう本を新人がみんな読んでいればかなり共通化できるのではないでしょうか」加えてくれた。
今回の『ホッタラケの島〜遥と魔法の鏡〜』を制作し、大きな成果を手にしたポリゴン・ピクチュアズ。まるごと映画1本の制作を手がけることは、長年の夢だったようだ。この夢を達成したいま、自分達が”やれる”ことは実証したのだから、これからもこの火を消すことなく、大きなものにしていきたいという。3Dアニメーションでは「日本一だと思っている」と自信を持って話してくれた彼らの今後がさらに期待される。
(『ホッタラケの島』DVD&Blu-Rayは2010年2月26日より絶賛発売中。)