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OLMデジタル アニメ制作の課題解決で論文発表
2007.07.26

 SIGGRPAHの論文発表、スケッチ、ポスターにおいて、日本からアニメ制作現場の課題を解決するための技術が紹介される。なかでもテレビや劇場版アニメの制作で知られるOLMデジタルの研究開発部門が携わった3件の発表が行われる。下記にその概要を紹介する。
http://www.olm.co.jp/b/rd/
■CGアニメーションの陰影を手動でコントロール

オリジナルの陰影アニメーション(上)
編集後の陰影アニメーション(下)

3つの青枠は編集したキーフレームを表し,残り2つは補間されている

 1つ目は、「Locally Controllable Stylized Shading」(藤堂英樹、安生健一、ウィリアム・バクスター、五十嵐健夫、8月6日月曜日、15:45?17:30、ペーパーセッション「Shape Depiction and Stylization」で発表)だ。東京大学大学院情報理工学系研究科の藤堂氏らとの共同研究によるものだ。
 3DCGによるノンフォトリアリスティックなアニメ映像を制作する際、通常のトゥーンシェーディングのみでは、演出意図を反映した理想的な陰影形状を作り出すのは、非常に困難である。これはトゥーンシェーダーが、物理的なライティングのみに基づいて陰影を表現するためである。今回の発表では、通常のライティングに基づいて作り出された陰影アニメーションに対して、クリエイターが簡単な編集操作で局所的に陰影形状を変え、しかももとのライティングを生かした陰影表現を作ることができるようにしている。
 操作としては、あらかじめ、光源を設定した陰影のアニメーションをおおまかに作るところから始まる。そのアニメーションの中で、動きに応じて変化する陰影が気に入らないフレームを見つけ、ペイントによって簡単に修正する。そのフレームの陰影を修正すると、スムーズにつながるように前後のフレームの陰影も変化する。
 例えば、顔などに映し出される陰影が、光源の移動によって変化するときに、陰影の形が偶然違和感のあるものになったときなど、それを簡単に修正できる。また、早い動きのオブジェクトや変形するオブジェクトにも有効だ。例えば、マントを羽織った騎士が戦うシーン。背中で激しく変化するマントのしわの動きに合わせて影が作り出されるといった場面で、陰影が煩雑に見える場合がある。今回の技術を使うことで、「シンプルでありながら、動きの特徴を表す陰影」といった日本のアニメならではの表現を効率よく作成できるようになった。
 また、この技術を少し拡張することにより、トゥーンシェーダーによる「明・暗」二色の単純化された陰影表現だけでなく、グラデーションを持つ陰影表現にも上記と同様に適用できる。これによって、アニメ以外の用途に対しても、演出的な表現が容易に可能となる。

■CGのパース調整を自在に


普通のパースの画像(上)
アニメパース適用後の画像(下)
車が遠方に小さく消えていく様子が普通のパースより長く感じられる

 2つ目は「Anime Perspective」(曽良洋介、安生健一、8月9日木曜日、13:45?15:30、スケッチセッション「Looking Good」)だ。
 3DCG上で手描きアニメ独特のパースを再現する技術で、画面上に仮想の消失点を設定することでパースの編集が行える。この技術を用いると、「例えば、道路上を走る自動車のアニメーションなどで、2Dでつくられた背景画と3Dの素材をマッチさせたいときなどに、道路を作ってから手描きで作られた背景のパースに合わせることができるので、何度も作り直しをする必要がなく、作業が効率的になる」(曽良氏)という。「手描きによるアニメ制作の中で作られたパースは、これまでの経験の積み重ねによって様式化されているものであり、演出的な意図が反映されているもの。これに3DCGを合わせやすくすることで、演出的な意図を反映させながら、3DCGの利点を生かした映像が作りやすくなる」。
 日本のアニメにおいては、子供の目線で見たときの見え方でパースが設定されることがよくある。このアニメ独特のパースの中で、実際の3DCGの技法を効率的に活用する方法として有効といえる。

■すばやく群衆のアニメーション設定可能に
 3つ目は、ポスター展示で「Directable Crowd Animation」(石原渉、安生健一、ポスター「Animation」)だ。NHK放送技術局の石原氏との共同開発によるものだ。ポスターは、ポスター状の発表資料を貼り出し、発表者がその前に立って、会場に訪れた人に自分の発表内容を説明するもの。8月6日月曜日、12:15?13:15と、8月8日水曜日、12:15?13:15の2回、発表者によるデモが開催される。
 群衆のアニメーション生成についての研究。都会の雑踏を行き来する群衆などの映像を作る場合、シミュレーションプログラムによって歩行者の動きを計算して映像化するが、その場合、計算の最初にパラメーターの設定を行い、それにしたがって計算された結果を映像化する。この研究では、簡単な設定による高速プレビュー、部分的な追加・修正、背景の群衆のみの生成といった機能によって、演出意図に応じた群衆のアニメーションをすばやくつくることができる。Mayaのプラグインとしてつくられている。

■アニメ制作の効率化テーマに
 上記3つは、アニメの現場における制作効率の向上を考えて開発された技術だ。
 SIGGRAPHでハイライトシェーダーなどさまざまな論文、スケッチを発表し、今回の発表についても様々な貢献をしているOLMデジタルの安生健一氏は、今回、これらの発表がSIGGRAPHで採用されたことについて、次のように話している。「いずれも、物理的な法則に則った計算を尊重しながら、さらに演出家の意図を反映させることができる技術であり、現場の制作者にとってみると大変便利なツール。また、今回の論文採用は、SIGGRAPHが、科学的な理論のユニークさという点だけでなく、制作の現場における有用性といった点についての評価をしたものと思う。現地でもその点を多くの人に理解してもらえるよう準備を進めている」。さらに「今や世界各国でトゥーンシェーダーを用いた作品があるので、そうした作品を制作しているプロダクションに注目していただけるものになると思う」と話している。

※論文とポスターは、CREST(戦略的創造研究推進事業)の研究の一貫である。
ご参考:
"Locally Controllable Stylized Shading" Hideki Todo, Ken-ichi Anjyo, William V. Baxter, Takeo Igarashi ACM Transactions on Graphics Volume 26, Issue 3 (SIGGRAPH2007)

"Anime Perspective" Yosuke Katsura, Ken Anjyo SIGGRAPH 2007 Sketch "Looking Good"

"Directable Crowd Animation" Wataru Ishihara, Ken Anjyo SIGGRAPH 2007 Poster "Animation"

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