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SIGGRAPH 基調講演(Featured Speaker)1
  EA上級副社長兼チーフ・ビジュアル&テクニカル・オフィサー グレン・アンティス氏が講演
2007.10.11



 SIGGRAPH 2007では、CG業界の状況とインタラクティブ技術の最新動向ともに、オンラインコミックの可能性と多様な表現力もテーマの一つになった。毎年、呼び物の一つになっている業界のオピニオン・リーダーによる講演は、昨年のSIGGRAPHまでに他のコンベンションと同様、基調講演として実施していたが、今年は"Featured Speaker"(主演スピーカー)という名称になって、2人のゲストが講演に臨んだ。
 会期2日目の8月6日、米エレクトロニック・アーツ上級副社長兼チーフ・ビジュアル&テクニカル・オフィサー(最高視覚・技術責任者)であるグレン・アンティス氏が、最初のFeatured Speaker(今回から基調講演の代わりに設けられた講演)の講演者として登壇した。アンティス氏は、「スリル(感動・興奮)」という言葉をキーワードに、これまでSIGGRAPHに出席してみて味わった「スリル」から話を進め、ビデオゲームにおいてユーザーが感じる「スリル」、そして作り手が感じる「スリル」について分析した上で、そうしたスリルを提供するためには、ユーザーの感情に感応するキャラクターとそのリアルな表現が重要であることを指摘。さらに新たなトレンドとして「ユーザー自身が環境やキャラクターを自ら作り込むことを楽しむ傾向にある」と話した。(清水計宏)

●ゲームの「スリル」について語る
 アンティス氏は、前職でドリームワークス・インタラクティブのCEOも務めていた。また、3Dアニメーションの初期開拓者的スタジオであるPDI(Pacific Data Images )の創設者の一人であり、98年には、アカデミー賞の映画技術貢献部門賞を受賞している。
 アンティス氏は、「毎年開催されてきたSIGGRAPHを通して、その年ごとに一時代を画するようなキーとなる作品が1、2タイトルあった。それは、ときにレイレーシングやフラクタルのような技術で、それが最初に導入されたときは、だれもが驚いた。その話で持ちきりになり、SIGGRAPHの参加者は独特なスリルを覚えたりした」と語り始めた。
 アンティス氏はしかし、PDIでの経験などを紹介しながら、「CG業界ではその後、作り手が感じるスリルが減っていった」とし、「PDIは新たな"スリル"を見い出すために、CM制作とミュージックビデオの制作を手掛けるようになった」と述べ、当時PDIが「新たなスリルを感じながら手がけた作品」として、マイケル・ジャクソンの『Black or White』のプロモーションビデオにおけるモーフィングを駆使した映像を挙げた。しかし、それも、その後「どのCGスタジオもそれを始めるようになると、珍しいことではなくなり、しまいには大量生産されるものになった」という。アンティス氏はその後、彼にとって次のスリルを見い出す領域としてリアルタイム・グラフィックスとビデオゲームに注目するようになった。
 ビデオゲーム制作において、ユーザーにスリルを提供する3要素として、キャラクター、キャラクターが居住する世界、キャラクターと世界をつくるためのツール類−−の3つを挙げた。
 また、ゲームのCG制作において作り手にとってのスリルとして、ゲーム環境を作り出すスリル、ルールを決定するスリル、そして、商品化をしてお金を儲けるスリルがあると紹介した。しかし「同じことを繰り返すうちにスリル感はだんだん減っていく」(アンティス氏)という。

●実物を超えるリアリティとは
 ゲームのリアリティについて語る中で、グレン・アンティス氏は、EAが発売するスーパーリアルFPS(First Person Shooter)ゲーム「Crysis」のようなゲームタイトルが、リアリズムの境界をさらに先に押し進めようとしていると語った。
 ゲーム開発スタジオCrytekが開発したCrysisは、2007年9月11日に市場投入される予定だったが、同年11月13日に発売することになった最新作。物理エンジンによるフォトリアリスティックな描写が、戦闘・銃撃シーンや爆発シーンに実在感を与えることがデモからも分かった。
 アンティス氏は、ゲーム開発者は、ゲームプレイヤーをゲームソフトに夢中にさせるため、グラフィックスの質の向上により多くの労力を注がなければならないが「実物とそっくりにつくるだけでは不十分」で、「プレイヤーの感情を反映させるような動きを表現するものでなければならない」ことを強調した。
 EAは、モーションキャプチャーによって、人の動作や姿勢をゲームのキャラクターに反映しているが、そのとき感情ごとに異なる筋肉の動きなどを体系化し、プレイヤーの動作から感情を類推し、キャラクターの感情に反映させ、それにともなって動きが変化するシステムを開発している。
 ゲーム・キャラクターの感情と運動をマッチングさせるシステムは、バスケットボール・ゲームの"NBA Live"の次期タイトルで、最初に適用されるという。同社はまた、ゲーム空間のリアリティを出したゲームとして「Crysis」を年内に発売するという。「このゲームでは、登場するシーンがただ美しくリアルに見えるだけでなく、プレイヤーがその世界を掌握しているように行動できるようになっている」(アンティス氏)。

●ゲーム世界もUGCの傾向
 アンティス氏は、スピーチの後半で、最近のゲームプレイの動向について述べた。Web2.0で注目されているUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)と同じように、ユーザー自身がゲームの中で自らのキャラクターや環境を作ることが新たな動向となっていると話した。EA研究所の調査結果によると、EAのヒットタイトル「The Sims」をプレイしたユーザーの半分以上が、ゲームのプレイ時間の半分以上を直接ゲームとは関係のないキャラクター作りや、部屋の家具作りに時間を費やしているという。
 「いまや、ゲームにおいて、プレイヤーがゲームの中で使用するツールが重要になっており、これを使いやすくすることがゲームの面白さを高めることにもなっている」という。
 EAが開発中の、欧州版Xbox 360向けゲーム「Virtual Me」では、プレイヤー自身が登場するキャラクターの外観やファッションを作り込めるなど、ユーザー生成の割合を高めている。
 アンティス氏は、プレイヤーが市長となって都市を作り、改造していくゲーム「Sim City」の制作者ウィル・ライト氏による「Spore」や、3Dオンライン仮想世界「Second Life」などを例に挙げ「ゲームや仮想世界において、プレイヤーにより多くの自由度を提供していく動きは、今後も爆発的に伸びる」と述べた。

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