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SIGGRAPH2007コンピュータアニメーション フェスティバルまとめ
(映像クリエイター/ジャーナリスト 大口孝之)
2007.10.11

●エレクトロニックシアターの内容
 SIGGRAPHの最大の呼び物は、厳選された新作のCG映像を公開するコンピュータ・アニメーション・フェスティバルである。今年は、905本(昨年は726本)の応募作から130作品を選び、さらにそこから優れた33作品をエレクトロニックシアター(以下ET)、残りの作品をアニメーションシアター(AT)として上映した。
 ETは、03年と同じくコンベンションセンターから少し離れたサンディエゴ・シビックセンターを会場としていた。33本の上映作品の内訳は、学生作品:6本、個人制作:1本、プロダクションによる自主制作短編:5本、ミュージックビデオ:1本、CM:5本、ゲーム:5本、CG技術のデモ:3本、映画のVFXメイキング:9本、サイエンティフィック・ビジュアライゼーション:1本というものだった。
 国別の内訳で言うと、アメリカ:19本、イギリス:6本、ドイツ:3本、フランス:2本、日本:2本、スイス:1本、ポーランド:1本、ニュージーランド:1本、カナダ:1本である。

●プレショー
 毎年ETのプレショーは、様々なアイデアが凝らされるが、今年は70年代後半〜80年代前半を連想させる内容だった。「アステロイド」「スター・ウォーズ」など往年のテレビゲームを、スター級の有名CG研究者やVFXスーパーバイザーが実演し、レザリアム風の4色のレーザービームでスクリーンに投影するというものである。

●学生作品
 毎年のことであるが、学生作品の数と質が非常に向上している。特に2大常連校である、ドイツのフィルムアカデミー・バーデン=ヴュルテンベルクと、フランスのシュパンフォコムが相変わらず目立っていた。フィルムアカデミーは、昨年「458nm」という作品で審査員特別賞を受賞していたが、今年も夢を調合する老人と毎夜悪夢に苦しんでいる少女を描いた、良質の人形アニメのような質感豊かな作品「Dreammaker」で同じく審査員特別賞を受賞した。
 シュパンフォコムは、昨年は事務的なミスでSIGGRAPHに1本も出品出来なかったが、今年は2年分を一気にという感じでATに10本もの高水準の作品を発表していた。エレクトロニックシアターにも「En Tus Brazos」という作品が入選しており、優秀賞を受賞していた。
 その他、同じく常連になりつつあるフランスのゴブラン映像高等教育学校(仏)もコミカルな「Burning Safari」を出した他、ニューヨーク大学の「equilibrio」や、ボーンマス大学(英)の「The Itch」、そして日本からも久しぶりにデジタル・ハリウッドの鈴木勝之が「The Recent Future Robot: HELPER Z(近未来ロボ ヘルパーZ)」を入選させていた。

●CM作品
 昨年は同じ会社のCMが複数(例えばフレームストアCFC社はET4本、AT3本)入選していて審査の公平さに疑問を抱かせたが、今年は異なるプロダクションの5作品が選ばれていた。昨年から活躍が目立ち始めた会社に、ニューヨークのサイヨップ、ロサンゼルスのモーション・セオリー、サンタモニカのメソッド・スタジオなどがある。また「ロード・オブ・ザ・リング」で有名になったニュージーランドのウェタ・デジタルがVFXを手掛けた保険会社のCMもあった。

●プロダクションの自主制作短編
 今年最優秀賞を受賞した作品は、ポーランドの「Ark」であった。謎の細菌(解説にはウイルスとなっているが、光学顕微鏡で見えるので細菌が正しいだろう)に侵され、地球上のほぼ全ての生物が死滅した未来。人類は生き残った生命を方舟として、巨大なタンカーに乗せ絶海の孤島に隔離する。しかし、その船内にも細菌が拡がり、島に辿り着けた方舟はいなかった…という短編。製作・監督を務めたのはグジェゴシ・ジョンカジツキとマーチン・コビレッキの2人で、ポーランド出身だが現在はカリフォルニア州サンタマリアのCAF? FXでVFXアーティストとして活動しているらしい。この作品の製作を支援したのが、ポーランドのプロダクションPlatige Image社である。同社はトメック・バジンスキーに監督による「The Cathedral」(02)が最優秀賞を受賞し、05年の「Fallen Art」でも審査員特別賞を受賞しており、もはやSIGGRAPHの常連という貫祿である。
 同様に常連のプロダクションに、カリフォルニア州ヴェニスのブラー・スタジオがある。同社は今年も、ビクトリア時代の英国で1人の貴婦人を巡って2人の紳士が争い、果ては蒸気ロボットを繰り出しての壮絶なバトルへと発展する、スチームパンク風コメディを出品していた。同社が短編の制作を続ける理由は、これをベースとして長編映画にする計画を持っているためだ。
 実際に長編CG映画を量産しているプロダクションも、短編作品を出品している。例えばピクサー・アニメーション・スタジオは「レミーのおいしいレストラン」の併映で上映された「Lifted」を、ブルースカイ・スタジオはDVD「アイス・エイジ2」の特典映像として制作された「No Time For Nuts」(熱血どんぐりハンター!)を出していた。これらには社内の次世代監督を養成する目的もあるそうだ。
 この他にはイギリスのザ・ミル社が、実写とリアルな人体モデルを組み合わせたコメディ短編「Raymond」を出品していた。

●ミュージックビデオ
 音楽関連では、U2のボノとグリーンデイが組んだチャリティ・シングル「セインツ・アー・カミング」のプロモーションビデオが上映された。曲はスキッツの「The Saints are Coming」をカヴァーしたものだが、ニューオリンズのミュージシャンに新しい楽器や機材を提供する組織「Music Rising」に収益金が送られる。ビデオの内容は、ハリケーン・カトリーナの被害を報じた実際のニュース映像に、イラク戦で活動中のB2ステルス爆撃機や垂直離着陸機ハリアー、軍用ヘリのアパッチ、戦車エイブラムスなどが、救援物資を輸送する様子を合成したものだった。黙って見せられたら本当にこういう救助活動が行われていたのかと錯覚してしまうような映像で、ブッシュ政権への痛烈な皮肉になっている。CGはロサンゼルスのスウェイ・スタジオが手掛けた。

●サイエンティフィック ビジュアライゼーション
 純粋に科学的な作品は、ETには「Formation of a Spiral Galaxy」の1本だけが入選していた。これは、渦巻銀河の形成過程を再現したコンピュータ・シミュレーションを可視化したもので、国立天文台、理化学研究所、武蔵野美術大学などで開発された4次元デジタル宇宙プロジェクトの映像。実際は13台のプロジェクターでドームスクリーンに立体映像を投影するものだが、今回はフラットな2D映像で上映された。

●CG技術
 論文や新技術発表用に作られたプレゼンテーション映像も、優れたものはコンピュータ・アニメーション・フェスティバルでも上映される。スイスのジュネーヴ大学MIRALabのナディア・マニュナ-タルマン教授が出品した「High Fashion in Equations」は、60年代のデザイン・ドローイングから3DCG化されたファッションデザイン・シミュレーションの映像。タルマン教授は、80年代から人体をテーマとした研究と映像を発表してきた人物で、クロスシミュレーションの先駆的研究を行ったことで知られる。 またカーネギー・メロン大学のジェシカ・ホッジンスらは、モーション・キャプチャーの新技術のデモ映像を発表した。これは、1人の体表に約350個ものマーカーをセットすることで、骨格や関節だけでなく、筋肉の膨らみや脂肪の揺れなどもキャプチャーするというものだった。
 またNVIDIA社は、NVIDIA GeForce 8000シリーズを用いたリアルタイムGPUレンダリングとアニメーションのデモを上映した。これには、新しいサブサーフェース・スキャタリング技術を採用して人体頭部のリアルな描写を行った「Efficient Rendering of Human Skin」や、蛙のモデルが柔らかくインタラクティブに変形する「Froggy」、ジオメトリシェーダで地形を動的生成し、さらにパーティクルによる滝のシミュレーションなどを加えた「Cascades」などが含まれていた。

●ゲーム
 ゲームに関しては従来のようなムービーのみではなく、PC用ゲームエンジンやXBox360、PS3などを用いてリアルタイムで高品質な映像を表現したゲームパートが上映された。内容は、独CryTekの「Crysis」、米Epic Gamesの「Gears of War」、米Insomniac Gamesの「Resistance Fall of Man」、加エレクトロニック・アーツの「Tiger Woods PGA Tour 08」などを、「Game Technology 2007」としてまとめて紹介するもの。 またValve Corporationの「Portal」というゲームも紹介された。これは、「Aperture Science Laboratories」という特殊な研究所に閉じ込められた主人公が、"Portal"と言うデバイスを使い出口にまで辿り着くというもので、壁や床などに向けてビームを放つことで空間をワープさせ、断絶している場所を繋いで出口を目指す仕組み。アクションと三次元のパズルが一緒になったようなユニークな作品だった。

●映画
 映画のVFXメイキングは、「スパイダーマン3」「父親たちの星条旗」「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」「パンズ・ラビリンス」「ワールド・トレード・センター」「トゥモロー・ワールド」「トランスフォーマー」などが紹介されたが、特に水の表現に挑戦した作品が目立った。
 その代表が、ソニーピクチャーズ・イメージワークスが出品した「サーフズ・アップ」である。この映画は、イワトビペンギンを主人公にしたソニーピクチャーズ・アニメーションの第2弾フルCGアニメ。サーファーたちを描いたドキュメンタリータッチのユニークな作品だが、波の描写がほとんど実写としか思えないほどリアルに表現されている。
 また、圧倒的な存在感を持っていたのが「300」である。暴風雨でペルシアの三段櫂船が遭難するシーンを、物理計算を駆使した映像作りで定評のあるドイツのスキャンライン・プロダクションが手掛けたもので、自社開発の流体シミュレーションソフトFlowlineと船体の破壊シミュレーションで描いた。この2作は、今年のSIGGRAPHの最終セッションとなるスケッチでもメイキングが公開され、熱狂的な反応を得ていた。
 また予定に無かったソニーピクチャーズ・イメージワークスの「ベオウルフ」が、飛び入り参加で上映された。これは、ロバート・ゼメキス監督が「ポーラー・エクスプレス」(04)に続いて、超精密なパフォーマンス・キャプチャーを駆使して描く作品で、2D版と3D版が別々に作られている他、3D版はリアルDバージョンとIMAX 3Dバージョンの両方が作られるなど、徹底して立体上映を意識した作りになっている。来年以降、爆発的なブームが予想されている立体映画の先鋒となる作品と言えよう。

●アニメーションシアター
 2つの会議室を使って行われたアニメーションシアターでは、エレクトロニックシアターに入選しても少しもおかしくない、高レベルの作品97本が上映された。
 ジャンル別内訳は、学生作品:19、個人制作:2、プロダクションによる短編:12、ミュージックビデオ:3、展示映像:3、サイエンティフィック・ビジュアライゼーション:6、テレビ番組:3、テレビタイトル:3、CM:18、ゲーム: 10、CG技術デモ:7、映画メイキング:9などである。
 また国別内訳では、アメリカ:34、フランス:18、イギリス:12、日本:9、カナダ:6、ドイツ:5、オーストラリア:3、スペイン:2、イスラエル:2、スイス:1、ポーランド:1、ニュージーランド:1、ハンガリー:1、韓国:1となっている。
 日本の作品だけを列挙すると、タングラム社の矢吹誠によるアート作品「Manakai」、CADセンターの「スーパーエッシャー展」用展示映像「CONTRAST minimum edition」と、同社の「ルーヴル美術館展」用展示映像「Venus Venus」、東北芸術工科大学の五十嵐丈久によるアート作品「Biginning」、岩野一郎の短編アニメ「49」、オムニバス・ジャパンが手掛けた「スペースシャワー HOT50」のタイトル、東京大学による物理シミュレーションのデモ「Physics on GPUs」、ROBOT社によるゲーム「Lost Odyssey」オープニングムービーなどであった。

●4K上映
 今年は片方のシアターに、ソニーが提供したSXRD方式の4Kプロジェクターが使用されていた。昨年はエレクトロニックシアターにこのプロジェクターが採用されていたが、今年はアニメーションシアターの方が良い上映環境になったというわけだ。
 実際に4Kで上映された作品は6本。ほぼ毎年SIGGRAPHに作品を出しているイリノイ大学のNCSA(米国立スーパーコンピュータ応用研究所)のドナ・コックスによる、銀河の中心への飛行を表現したサイエンティフィック・ビジュアライゼーション作品「Flight to the Center of the Milky Way」。05年度に北アメリカ大陸に上陸した27個のハリケーンの軌跡を、NASAゴダード・スペース・フライトセンターがビジュアライズした「27 Storms: Arlene to Zeta」。太陽風の影響で地球の磁気圏が変形する様子やオーロラの生成などを描写した、アメリカ自然史博物館の展示解説用映像「Solar-Terrestrial Interaction From Cosmic Collisions」。英国のCGアーティストLee Griggsによる、流体シミュレーションを用いて複雑な図形を回転させたアート作品「swirl」。凸版印刷が、東大寺・法華堂(三月堂)に安置されている不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)立像の宝冠を、4Kリアルタイムレンダリングで表現したVRコンテンツ「Presentation of Cultural Heritage Using 4K Real Time Rendering System」。そして今年のNABでも最大の話題となった、17,500ドルという低価格ながら4520×2540の解像度を持つデジタルシネマ用カメラRED-ONEを用いて、ピーター・ジャクソン監督が第一次世界大戦を舞台に描いた実写短編「Crossing the Line」も特別上映された。

●文化庁メディア芸術祭
 またアニメーションシアターで毎年恒例となった、文化庁メディア芸術祭の受賞作品上映が行われた。上映された作品は、富岡聡によるタイトーのPSPソフトのインターネット広告「EXIT」と同「カンガエルEXIT」。辻川幸一郎によるコーネリアスのミュージックビデオ「CORNELIUS "Fit Song"」。加藤久仁生の2Dアニメーション作品「R」。伊藤有壱の人形アニメーション「グラスホッパー物語」。大友克洋監督の映画「蟲師」の予告編などであった。

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