さびしくなくなる薬

作品を作るために作られたのではない、本当に生きられている日常の景色がここには映っていると感じた。たとえば、パチンコ屋の軒先に飾られた風船のように、物語上はあってもなくても変わらないものの存在が印象に残っている。どう考えてもトラッシュな現実なのに、なんだかすごくきれいなものに見えたからだ。いまの現実のあり方がわたしたちにさみしさを感じることを強いてくることを朧げながら認識して、強要されてしまう自分を笑い飛ばして、でも、結局のところ完全には逃れることはできないのだから泣く。そんな感じもよかった。全エントリーのなかでドキュメンタリー性みたいなものを一番感じたのは間違いなくこの作品だった。作っている人は「わたし」だけれども、作品自体は「わたしたち」のものになれる可能性を感じた。つまり、時代や世代のアンセムになりうるような作品を次は期待したいと思った。
(土居伸彰)

村上 英恵
女子美術大学
映像