全応募作に対する印象は、作品というよりはたまたま出来てしまったというような作意の伝わらないものがまだかなり多かったように思います。さすがに1次選考を通過した作品はそのようなことなく、充実した作品ばかりで、入賞作はどれも、真摯な制作姿勢が作品に反映され、表現技術にも工夫・進歩が感じられました。入賞作を決める選考は白熱したものになり、受賞を逸した作品のなかにも熱烈な支持を得たものが少なくなかったことを言わなければなりません。 部門ごとにみると静止画部門では、個々の入賞作品は充分賞賛に値することは言うまでもありませんが、更なる前進を考えたときに、多くの作品が内容的に停滞しているのではないかという危惧があります。つまり、ソフトツールを使いこなし、複雑な効果を組み合わせたテクニカルな作品は必然的に同じようなテーマと表現になってしまい既視感を脱し得ない。このような中で、プログラムに挑戦し、アルゴリズムで発生させた有機的な質感の作品「オレンジシャーベットと十個の四角」はオリジナリティの点でも美しさの点でも最優秀賞に相応しいと評価されました。また、キチンとしたモデリングに基づく3次元の具象形態、質感を追及する作品が減っている傾向のなかで、作品「少女と窓」は幻想的な雰囲気を醸し出て入るところが評価されました。もうひとつの優秀賞「機械構成」は無機的でかつ神秘的な美を志向した作りこみが効果的と評価されました。 アニメーション部門については、最終選考に残った作品はすべて質的に向上し、また、オリジナリティ豊かな表現の広がりも出てきていると感じました。当然激戦になったわけですが、最優秀賞に選ばれた「sight」は抽象的映像と音を調和させた構成に成功している点が評価されました。コミュニケーションにおける意識の流れという抽象的概念をパーティクルと実写合成でうまく表現した「void」、2Dと3Dの合成が効果的でしっとりした情感がうまく表現されている「残暑見舞い」、コンセプトの確かなストーリーの3Dキャラクターアニメーション「TROUBLESOME with Dr Blackbird」が他にないオリジナリティを感じさせ優秀作に選ばれました。 インタラクティブ部門は第1回であるためか、インタラクティブの捉え方が既成概念に縛られているように感じました。操作して楽しむコンピュータゲーム、あるいは、いわゆるホームページがすべてではないはずだからです。インタラクティブ性を利用して伝えるべきメッセージは他にも多くあるはずで、学生らしいチャレンジに満ちた提案を期待したいと思います。このような中で、オリジナルプログラムよるインタラクティブなデジタルマーブリングともいえる「eVe」は印象的な作品と評価されましたが、色の処理に不満が集中し、優秀賞に止まりました。その点、最優秀作に選ばれた「BUBBLES」はインタラクション、キャラクター、動き等のデザインすべてにおいて完成度の高さが評価されました。 全体を通しての感想として、技術的ディテールなどの点では商業制作には及ばなくとも、表現力やオリジナリティの点では学生作品の方がパワーを感じるという感想にまとまられます。しかし一方で、商業作品と同じようなものを目指すのでは学生作品としての意味がなく、むしろ、アイデアとその実験的表現を目指すべきであるという指摘は心すべきことでしょう。今回、その兆候が見られたことは今後に期待できるとの意見もありました |
大平智弘(審査委員長・武蔵野美術大学教授) |
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