TOP > 教育現場の最前線

2012/09/12更新

記事:1  2  3


現在進めている研究を教えてください。

いまは早稲田大学で、CGとCVと音の研究をしています。CGは、表情、モデリング、ライティング、レンダリングと幅広く、皮膚の半透明感をリアルタイムで再現するゲームメーカ向けのスキンシェーダ、実写の材質感を反映するクロスシミュレーション、液体の表面を運動させたものを実測して、その動きからどれぐらいの粘性であるか物理パラメータを自動推定する研究などをしています。

CVは、顔の認証をメインで研究していて、経年変化顔合成といって過去と未来の顔を現在の写真から予測する技術や、運転中の居眠り検出、顔の3D(3次元)復元などですね。居眠り検出に関しては、ドライバーが眠りに落ちる瞬間よりも遥かに早い段階で、居眠りの危険性を予測するための顔表情変化からの眠気予兆検出などをやっています。

3D形状復元の例
経年変化顔合成の例

また、音の研究では、音楽とシンクロさせてPV動画を自動合成するツールとか、画像の雰囲気に相応しい楽曲推薦を行うとか。あと、映像の要約ですね。日本のアニメは漫画が原本であることが多いので、漫画のコマとコマをインビトウィーンして動画にするのが日本のアニメですよね。そこで、このやり方を逆に映像解析に使えるのではないかと考えました。動画のシーンから自動的に4コマ漫画をつくり、サムネイル的に表示します。コマである程度ストーリの筋書きはわかりますから、Web上のコンテンツを一から十まですべてを見る必要が無くなり、自分のほしい情報をすばやく効率的に見つけられるようになることを想定したツールの開発を進めています。

CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)の研究として、一般ユーザが自らコンテンツをつくり、Webの動画サイトに投稿することを支援・奨励するツール開発の研究が立ち上がりつつあります。誰しもが自由に創造し情報発信が可能ないま、Web上にはコンテンツが溢れかえっています。そのような環境のなかでコンテンツをつくり公開しようとしたとき、既存の作品と酷似していないか、著作権に留意する必要がでてきますが、膨大な数のコンテンツを一つ一つ丹念に調べることは困難ですよね。ですから、既存作品の類似作品であった場合は、定量的に判定し類似作品であることをお知らせする計測的装置の開発を共同プロジェクトで進めています。難しいところもありますが、挑戦すべきテーマが転がっているので非常に研究のしがいがあります。


先生が育成されようとしている人材像を教えてください。

まずは、能力的な側面でいいますと、実現したい研究ゴールをまず最初にイメージして、それを実現するための企画から設計、プロセスの組立まで一人の力で作成できる人材を育成することを目指しています。プログラミングができることはもちろんですが、目的達成のためのアルゴリズムを考えられる人材というのは重要です。そして、こういった問題解決方法を学ぶなかで、自分で考え行動する力を身に付けてほしいと思っています。問題の認識、調査・分析、解決策の立案、実行、結果の評価、これらを粘り強く実行する意思が、先端で闘って行くには必要だと思うんです。問題にぶつかったら、解決策を模索し実行する。必ずしも解決するとは限らないし、失敗の連続であるかもしれませんが、それでいいんです。こうした過程を踏んで出した結果は、喜びや生き甲斐を感じさせ、自分に自信をもたせてくれるものですから。そういった力を身に付けさせるために、学生にはあれやれこれやれとは言わないようにしています。森島研では、一人一テーマで基本独立させており、テーマに対して個人が責任をもちます。テーマの決め方も自主性を重んじ、プログラミング、数学・物理の基礎知識から、人の繋がりの開拓、アピールビデオの作成まで、幅広い経験をさせます。無論、ほったらかしにしているわけではなく、「何が問題なのか」「何を解決しなければいけないのか」、問題意識をもたせるように先輩も交えて、基本毎週一回全メンバーと徹底的にディスカッションします。さまざまな経験のなかでものごとの本質を知り、粘り強い意志をもっともっと身に付けていってほしいと願っています。

そんな思いが通じたのか、今年のSIGGRAPHではおもしろい光景を目にすることができました。博士課程に進む学生たちが、三つのパラレルセッションそれぞれのスレッドを立ち上げて、講演を聞きながらリアルタイムで講演内容の要約やコメントをチャットで流していました。せっかくSIGGRAPHに参加しても英語が苦手だからといって尻込みをしている下級生たちのために、彼らが自主的にはじめたことなんです。まさに、問題認識、解決策、実行を行っています。下級生たちはそれを見ながら聴講したり、興味をもったセッションに行って学んでいました。研究室という同じ志しをもった仲間同士のなかで、先輩、後輩のちょっとした社会性が垣間見れました。とてもうれしいことですね。


そのほかに試みていることがありましたら教えてください。

また、向上心を育てることも大事ですね。毎年夏にOBも交えて合宿を行うんです。一日目はがっつりと一人一時間のプレゼンテーション。まずは新米の4年生が行い、そのあとに先輩がお手本をみせる。お手本をみせるということも、これまた自主的にやりはじめました。口で言ってもわからない、見て学んでもらおうということなんでしょうね。ここで上映されるショートフィルム映像作品のクオリティは半端ではありません。二日目、三日目は懇親行事としてスポーツ三昧です。バスケ、ソフト、テニス、レーシングカートなど。優秀プレゼン賞やMVP賞なども先輩が用意して盛り上げます。レーシングカートは卒研生は初めは安全運転なんです。ただ、そこで先輩たちがお手本として猛烈なレース展開をすると、刺激されるのか徐々にのりのりになってくるんですよ(笑)初めはおとなしく走行していたのに、追い越されると闘争心に火がつくみたいで、急にアクセル全開でかっ飛ばし、バトルになるんです。この気持ちこそが重要だし、この合宿で学んでほしいことなんです。研究とも通じるところがあるでんすよ。研究という世界は黙々としていながらも、競争の世界。ただその競争は、どちらかというと他人との競争ではなく、自分が一歩前に進むための自分との競争です。ですから昨日よりも今日、今日よりも明日、一歩でも二歩でも前進し向上するために自分と向き合い、自分と競うことが大事です。私は、口うるさくいうことはしませんが、これだけはいつも学生たちに言っています。『追いつき追い越せ、ぶっちぎれ』と。

合宿

向上心を育てるためにもう一つ。SIGGRAPHを経験させること。以前は無条件で全員連れて行っていた時代もありましたが、それだと何の努力もせずに参加できてしまうためか、有り難みが伝わらないというか、熱心に見て回ろうとしないんです。ですから、論文やポスターなどを発表する者だけ、という条件をつけました。そうすると、レーシングカートの闘争心と同じで、学生同士がいい意味でのライバルになり、やる気をだすようになるんです。また、国内の学会には極力参加させるようにしています。どういうものが発表されて、議論されているのかを早い時期から目の当たりにさせることで、己の未熟さを知らしめるというか、世の中にはもっともっと素晴らしいものがあるんだよ、ということを体験させるようにしています。単にやれやれと言うだけでは、心には響かないですからね。

next page  next page
 

森島 繁生 先生

早稲田大学 先進理工学部
応用物理学科 教授


早稲田大学理工学部教授/工学博士。87年東京大学大学院博士課程修了。同年成蹊大学工学部専任講師。1988年同大助教授、2001年同大教授。2004年より現職.この間、1994年から1995年トロント大学客員教授、1999年より2008年ATR客員研究員、2008年より2010年NICT客員研究員。現在、明治大学非常勤講師、 新潟大学非常勤講師,早稲田大 学セキュリティ・セイフティ研究所所長を併任。1991年電子情報通信学会業績賞、2001年インタラクションベストペーパー賞、 2009年WISSソネット賞、2010年電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞受賞。顔学会、画像電子学会、芸術科学会各理事。